第二話

 

アルベルトにとってΩの下男を口説くなどという、これまでにない経験は、

文字通り娯楽なのだろう。


格式を重んじるよう、

しつけられたはずの下男に『しきたり』の禁忌を犯してでも、

陥落させることができたなら、

その瞬間にアルベルトは勝利者になり、遊びも終わる。

アルベルトを奮起させた動機もなくなり、アルベルトは自分なんぞに二度と興味を向けなくなるに違いない。

 

使い捨ての道具と同じだ。

ただの玩具だ。


サリオンはクルムでの男娼時代に、

そんな傲慢な上流階級の人間達の遊びの道具に、

嫌というほど、されてきた。

 

人間なんて身分や地位が上がれば上がるほど、

人間としての根本的な品性は損なわれ、転落するように卑しくなる。

自分を『物』として買いに来る、そうした『上流階級』の客達を、

サリオンは幼い頃から見限りながら生きてきた。


だが、そんなひねくれた自分でも心底愛したひとがいた。

彼は誠心誠意、愛してくれた人だった。


互いの意思でつがいの契りを交わした男を、

目の前でなぶり殺しにされた恨みは、何があっても忘れない。


ただでさえαやβの富裕層なんて人間は、ろくでもないと思っているのに、

笑いながら番を殺した蛮軍の、最高司令官たる皇帝だ。

誰がそんな男の手の内にはまるものかと、

サリオンは胸の中で反吐を吐く。


そうして言葉を尽くしても、

やはりレナは心の底でおりのようにわだかまる不安や疑念を

拭いきれずにいるような、浮かない顔のままだった。

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