第二十一話 許可札と見せしめ


けれど、裏口のドアの前には長槍を携えた厳めしい門番が、

左右に一人ずつ立っている。

彼等は長槍を裏口の前で交差させ、サリオンの足を止めさせた。


奴隷の下男や行商らが用いる裏口にも寝ずの門番が立っていて、

不審者の出入りがないよう見張っている。

サリオンは公娼の出入ではいりを、館主やかたぬしが許可した証の青銅札を彼等に見せた。


諸外国の侵略に備え、テオクウィントス帝国の領土は堅牢な城壁で囲まれている。


国民が、軍隊の行軍以外で国外に出るには城壁の詰め所で門番に、

同様の許可札と、

更に皮製の認可証の提示も必要だ。

 

その場合、王侯貴族などのαやβの富裕層は国の法的機関から、

β階層の庶民やΩ階層は区ごとの役場からの認可を受け、

奴隷身分のΩ階層は、雇用主から認可を受ける。


そして奴隷のΩだけは、この認可札を所持せず街中を徘徊すると、

たとえ城壁の領土内でも、脱走者だと見なされる。


街中で区の所轄の憲兵から検問を受けた際、

この認可札を見せられなければ脱走した奴隷として捕縛され、投獄され、

死刑に処される。

たとえ雇用主が奴隷を擁護しようとも、

捕縛された時点で死刑は既に確定していて、雇用主でも覆せない。


そして、その死刑執行も奴隷に対する一種の見せしめとして、

観衆で埋め尽くされた円形競技場で行われる。

しかも、死刑囚の奴隷を鉄製の手枷てかせ足枷あしかせで拘束したまま猛獣に喰い殺させたり、

火だるまにして躍らせるなど、残虐な公開処刑が常だった。

 

そのため、公娼から徒歩圏内の公用浴場や貧民窟の食堂に行く時ですら、

その都度、認可札の受け渡しを館主に頼まなければならない身だ。


「よし。入れ」

 

門番はサリオンの青銅札と認可札を確認し、交差させた槍を開いた。

娼館を出る時も、戻って来て入る時も、門番の検閲は行われる。

たとえ互いに見知った顔であっても、だ。


サリオンが儀礼的な検見を受け終えて、

改めて裏口のドアを押し開けた、小柄で華奢な人影にまで駆けつける。

すると、思った通りレナだった。


「どうかしたのか? こんな時間に起きてるなんて」

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