第10話 父の実家のお話

私が父方の祖父母に会ったのは実は一〇歳になってからだったりします。

というのも当初父は結婚したことを実の両親には報告していなかったからです。


前に書いた通り、父の家系は厳格な神官の家系であり、結婚する者もそれほど多くないことに加えて、勇者となった息子がまさか結婚相手に魔王を選んだと知ったら卒倒することは必至です。


実際報告した時は祖母が卒倒、祖父は放心、父の叔父と父の兄は父に魔術が掛けられていると思い込んで父に対して退魔の呪文をかけたそうです。さすが神官の家系。


ただし全く意味はありませんでしたが。


なので父の実家に関してはひと悶着もふた悶着もありました。


元々魔王討伐の時点で32歳だった父は家系的に言えば一生独身でもおかしくはなかったですが、普通勇者は大体王女様と結婚というのがお約束です。


今回父に関してはローテンブルク王家がそのお約束をしないというある種の暴挙に出た結果この結婚はありませんでした。


しかし勇者の血統を一代で断絶させるというのはさすがに問題があるため、しかるべき家系の息女との結婚などが打診されました。


これに関して魔王を既に妻としている父は丁重に拒絶します。


この段階では「家系柄結婚しません」というローテンブルク王家が元々望んだ回答を返した父でしたが、父の両親である祖父母はこれに関しては反対して結婚して子供を持つべきだという姿勢を打ち出していました。


まぁその頃私は既に母のお腹の中で一緒に氷漬けですが、そんなことは知らない父はまぁそのうちにというような感じで祖父母を説得しつつ、この話題は基本避けるようになります。

そしてそれから母の封印解除と私の誕生があり、妻子持ちとなった父ですが、しばらくは公表せずに様子を見ようという事で母と意見が一致していました。


講和が結ばれたとはいえ、すぐに両国の交流が何事も無く普通に戻るわけもなく、下手に明かしてはねっかえりにテロでも起こされたらたまったもんじゃありません。


まぁ魔王に対してテロを起こすようなある意味無鉄砲がいたらそれは別の意味で勇者ですが、世の中どんな輩がいるかはわかりません。

目先だけ見て後世の事は考えない跳ねっ返りはいつの時代でもいるものですから。


というわけで後に私の誕生の公表は魔王の娘としてはされましたが、勇者の娘としてはされませんでした。

そのため父の実家もローテンブルク王家もまさか私が勇者の娘だとは知りませんでした。


父が実の両親に報告をしたのは私が八歳を過ぎてからです。

さすがに父も四〇を超え、孫を見たいという事を常々言うようになりつつあった祖父母に対して母と相談の上そろそろいいかという事で話をしたとのことです。


戦争後一年の半分をアルレシャで過ごすようになった父に対して祖父母もアルレシャ国内に想い人がいるのではないかという勘繰りはしていたそうですが、さすがに相手が魔王で、既に娘がいて、しかもその娘が聖剣を持った勇者として生まれてきたという話を聞いた祖父母が呆然とするのはやむを得ないことでしょう。

卒倒しないほうがむしろ驚きですし、錯乱の魔術でも掛けられてると思われてもそれは不思議ではありません。


これに関しては父の妹である私の叔母だけが納得したという顔をしていたそうです。

この叔母だけ父の家系の中でも特殊な能力を持っていて、それによると黒と蒼の影を纏った父の直接血を引く者がいる事を感覚していたそうです。

だから父に子どもがいる事はわかっていたが、父が何も言わないので黙っていたとのこと。

さすがに魔王との子どもは予想外だったと言っていましたが、父の蒼を間違いなく継いでいるので、あなたは間違いなく父の娘で私の姪だと言ってくれました。



…もう一つ予言じみたことを言っていましたが、それはとりあえずここでは書きません。

後世の人たちがどう判断するかわからないので。


そんな感じで祖父母をなだめつつ、私を一度会わせるという方向で話がまとまりました。

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