第14話 音楽(4) 第三章 銀盤=氷上聖杯!?

 たまにはこっちを更新。


 第三章は一番音楽から得たインスピレーションが薄い章だと思う。

 シヴァ執筆時には章ごとにspotifyでプレイリストを作ってイメージトレーニングをしていたのだけど、第三章は一番曲数が少ない。

(この創作秘話が長らくここで更新を止めてしまっていたのもそれが原因かも……)


 第三章を振り返ると思い出すのは音楽より、とにもかくにもFateシリーズのことである。

 私はFateシリーズの熱烈なファンで、2010年代の私のオタク史はFateと共にあったと言っても過言ではない。

「氷上のシヴァ」執筆の強い動機の一つに、とにかくヘンなフィギュアスケート小説を書いてやろう、というのがあった。ヘンな、というのは、真っ当ではない/現実離れした/異端の、という意味である。私は現実の枠組みを飛び越えたものを書きたかった。

 そのためには、フィギュアスケートの試合を、現実の試合とは別の何かに仕立て上げる必要があった。何か、ファンタジー的な。

 ……いや、ちがう。話は逆だ。

 私が書きたいのは、そもそも試合ではなかったのだ。

 私は心の闘いが書きたかった。吐き気を催すほど独善的で、徹底的に閉じた、世界のどことも繋がっていない、ただ己の過去を永遠に書き換えるための、自分以外の人間には何一つ意味が無い、心の闘い。

 それは少女革命ウテナの「決闘」である。

 そして、その閉じたはずの心の闘いの底が抜けてなぜか世界と繋がってしまう、あたかも自分を渦の中心のようにして世界を巻き込んでしまう、しかもその渦は実は世界のいたるところに存在している――そういう世界の様相を書きたかった。

 それはFateシリーズの「聖杯戦争」である。

 氷上のシヴァの「銀盤」は、その延長線上にある。

 この小説を読んだ人は誰もが疑問に思うだろう、「で、『銀盤』って結局何?」と。「世界の中心」と刀麻は言う。世界の中心とは、闘いの渦中にある心のことである。「銀盤」は、人間の心と繋がっている。あなたがそのような闘いをしたことがあるならば、あなたの心とも。だからおそらくあなたの心にも、「銀盤」はある。


 話を戻そう。端的に、そして誤解を恐れず言えば、第三章は「美優という魔術師が刀麻という最優のサーヴァントを引き当てる」物語である。

「氷上のシヴァ」を貫くイメージに、「コーチはマスター(魔術師)、スケーターは英霊(サーヴァント)」というのがある。

 これは美優と刀麻に限ったことではなく、浪恵と洸一もそうだし、岩瀬と洵にいたっては最も顕著に表れている。岩瀬がルーンを唱えるのは、単なるオカルトおじさん仕草ではなく、彼が文字通りの魔術師であるからだ。魔に魅入られた洵を守るために、岩瀬は氷上に結界を張るのである。だから演技の後は一気に年をとったかのようにやつれる。魔力を消費しているから。この世界におけるフィギュアスケートとは何かと語る時、彼は氷上で煙草を吸っているが、あれも結界の一つである(銘柄は、蒼崎橙子、ナタリア・カミンスキー、衛宮切嗣と同じ……かもしれない)。

 美優が使うのは強化魔術である。第三章冒頭でスケート靴のエッジを研いでいるのがそれ。美優は知らず知らずのうちに魔術を行使している(衛宮士郎の「トレース、オン」のイメージ)。その際に怪我をするが、本当のところ彼女の手首に刻まれているのは令呪なのである。刀麻は魔術の施された27センチの靴を手にした途端、美優を「先生」と呼ぶが、あれは英霊としての刀麻が美優を自身のマスターとして認めた証だ(セイバーの「問おう、あなたが私のマスターか」の派生形と考えてほしい)。また、作中描写する機会に恵まれなかったが、美優は試合前に必ず刀麻のエッジに口づけをする。これも強化魔術の一種で、イメージとしてはFateというより黒薔薇編でウテナの剣を強化するアンシー。ちなみに、浪恵が駆使するのは結界魔術で、洸一がコンパルソリーを極めているのはそれゆえ。陣地作成スキル持ち。


 ……馬鹿馬鹿しいでしょう、本当に。

 しかし、第三章を書いていた頃は割と本気で↑このようなことを考えていたのだ。どのあたりで我に返ったかは覚えてないが、多分グラデーション的にだんだん、常識的に考えて、Fateの二次創作とかいうふざけた裏設定を持った小説が新人賞獲れるわけねーよなと冷静になり、全ては白紙になった。が、イメージとしては残った。残ってしまった、気がする。


 第三章執筆当時はFate/EXTRA Last Encoreが放送中で、私は毎回ほぼリアルタイムで見ていた。

 Last EncoreのOPで、ネロは「場」そのものと闘っているように見える。

 敵の姿は常に影で、それを映し出すのは自身の宝具。

 あの映像が第三章の原点だ。

 ドムス・アウレアがスケートリンクで、そこを駆け抜けるネロが刀麻……的な。

(ちなみにその映像を洵バージョンと洸一バージョンにそれぞれアレンジしたものを、私は脳内に保持している。もちろん流れるのは西川貴教“Bright burning shout”。本当に狂っている。いくら物書きには想像力が必要だからって、ここまでしなくても普通小説って書けるはずだよ)

 シヴァが仮にFateの二次創作だとして、じゃあ誰と闘っているの?というと、それは氷上という世界そのものである。彼らは銀盤という舞台で、銀盤そのもの、つまり彼らの願いそのものと闘っているのである。彼らに襲い掛かるのは、彼らの願いである。敵ははじめから己自身なのだ。


 全然音楽の話をしなかった。Fateシリーズの音楽がそのまま第三章のイメージをに構築していると思っていただいて差し支えない。

 あとは、SOUL'd OUTも結構聞いてたかな……同じ戦闘モノでジョジョの“VOODOO KINGDOM”とか。あと“イルカ”は、章のラストダンスの一つのイメージとしてよく聞いていた。でも、ラストダンスという言葉を最初にくれたのは、Base Ball Bearの“ラストダンス”。元々これが似合うようなフィギュアスケート小説をいつか書いてみたいと思っていた(しかし名前しか残らなかった……)。


 私は一体何を書いているのだろうか……

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Off-Ice of Siva ~「氷上のシヴァ」制作秘話~ 天上 杏 @ann_tenjo

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