55.捕虜生活は三食昼寝おやつ付き
魔族は残虐だ。人間を見るとすぐに攻撃し、引き裂いて悲鳴を楽しんだり、目玉を抉る。女ならば孕まされ、男は殺され、子供は食料にされる――はずなのだけど。
女で子供だから性的に襲われて食べられるのだろうか。御伽噺を思い浮かべたクナウティアは、自分が落ち着いていることに首をかしげた。だがノックして入室した猫耳のメイドに目を輝かせる。
今日のおやつだわ! 昨日はクリームたっぷりのケーキで、一昨日は透き通って甘く冷たいゼリーだった。今日は何かしら。毒殺を恐れる生活をしてこなかった、貧乏男爵家の末っ子はおやつの乗ったワゴンへ熱いまなざしを注ぐ。
「今日はなぁに?」
待ちきれなくて尋ねると、半円形の銀のふたが外される。
「こちらはチーズケーキです」
猫耳だが、語尾に「にゃん」がつかない。少しがっかりしたが、彼女はとても優しかった。おやつを運び、紅茶を淹れてくれるのだ。一人で食べるのが寂しいと言ったら、一緒に座ってくれるようになった。食事は交互にいろんな人が運んでくるが、どれも量が多い。
「魔族って、美味しいものばかり食べてるのね」
羨ましいと匂わせた聖女に目を見開き、猫耳メイドは苦笑いした。魔王直々に「この娘は世間知らずの子供と思って扱え」と命じられたが、思った以上に世間を知らないらしい。
上位貴族のご令嬢かと思い尋ねれば、貧乏男爵家の娘だという。それを恥じることなく口にしたクナウティアの態度は、城内の魔族に好意的に受け入れられた。そのため食事やおやつも、人間にとって毒にならない食べ物を作るようにしている。
12歳前後の外見ながら、聖女に選ばれたなら16歳なのは確実だ。女神が勘違いでもしない限り、クナウティアの年齢は確定していた。だからこそ、実家が貧乏だと聞いた魔族の一部は目頭を押さえる。きっと食事量が足りなくて発育不良だったのだろう……と。
これからもっとたくさん食べさせ、太らせて帰さなくては! その勘違いのお陰で、クナウティアは思う存分美味しい食事を堪能していた。兄が勇者に選ばれたとも知らずに……。
「一緒に食べましょうね」
家族と食事をするのが当たり前のクナウティアは、1人で食事をするのが苦手だ。末っ子で甘やかされてきたし、親友のセントーレアもよく一緒に夕飯を食べた。友人感覚で強請ると、出来るだけ願いを叶えるのが仕事と考える猫耳メイドは頷いた。
「かしこまりました、聖女様」
「私のことはクナウティアだから、ティアって呼んで。あなたのお名前は?」
「……っ、バーベナと申します」
「バーベナさんね、よろしく」
猫科の手は肉球がしっかりしており、人間の手と触り心地が違う。にもかかわらず、クナウティアは気にした様子なく握って笑った。用意された窓際の明るい円卓に腰掛ける彼女に、大急ぎで紅茶の準備をする。酸味のあるレモンのジャムを添えたため、紅茶は少し甘いものを並べた。
「カップが足りないわ。バーベナさんのも用意して」
無邪気に同席を強請る人間に驚きつつ、世間知らずのお嬢さんが怖いもの知らずと表現される
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