3、明の星
書きながらも、何度ミコは涙にくれたか分からない。
この遺言状とイェースズの骨像を皇太神宮に奉納する儀が終り、そのままヌプとウタリはその足で諸国漫遊の旅に出た。その後の彼らの消息は、全く知れない。いつ、どこで死んだのかも分からない。
ただ、
その四国の海岸の波打ち際で夕方、彼ら二人の老人が旅の疲れを癒していた。
その時である。西の空には太陽が沈んだばかり、赤いトバリがあった。その脇にひときわ明るく輝くいちばん星が、ヌプたちの目で確認された。それは、イェースズが「帰る」と称した所である。
二人の老人は、磯に腰をおろして、じっと海とその星を見つめた。いつまでも、見つめ続けた。足元に打ち寄せる波の音も聞こえないくらい、黙ってその星を見つめた。どこまでもイェースズを慕い、その面影を彼らは星に見出そうとしていた。
またもや二人の目に、涙があふれてきた。小さな点の星の光の中に、イェースズの顔を二人ともがはっきりと見た。そしてその星の中からイェースズの声が、最初はゆっくりと、そして確かに彼らの胸に響き渡った。
「見よ。私は世の終りまで、いつもあなた方とともにいるのである」
(「人間・キリスト」 おわり)
人間・キリスト John B. Rabitan @Rabitan
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