最終話 短い旅の終わり

 地図が書かれたメモと街灯を頼りに歩いていく。このくらいの時間を一人歩くのも何か久しぶりというか新鮮というか。


 見えてきた場所には、懐かしげな五階建ての団地がある。端の104号室には鈴木という表札。こんなところにマザーコンピュータがあって、二人がいるのか。


 正直、気まずい。気持ちを入れ替えて家に帰ってきたとか、そういう状況でもない。何を話すことになるんだろう。二人に会えば、もしかしたら一緒にいたときの、あの嫌な感じがまたぶり返すんじゃないか。


 だけどオレはここに来た。奇妙な通知から始まり、友輝が真実とやらに気づき、ここまで導いてくれた。友輝と違ってまだ理解していないことは多いけど、ここでゲームを終わらせて、きっと何かを知るんだ。


→インターホンを押す

 インターホンを押さない


「はい、鈴木あ。じゃない魔王です」

「もういいよ、わかってるよ。開けて」

「扉はもう、開かれています……」

「じゃあ入るよ」

「あ、気をつけて」


 どわっ! 扉を開けたら急に階段が。その先は普通の家なのに。あと階段がちょっとボロそう。だいぶ昔からあるのかな。でもこんなところに地下があってコンピュータルームがあるって、なんかいいな。


 そして階段を下りた先にいたのは、やっぱりあの二人。


「やあ」

 右手を挙げる佐藤勇。

「久しぶり」

 柔らかく微笑む鈴木愛生姫。


「久しぶりって言っても、三ヶ月ぶりくらいだろ」

 経った時間以上に久しぶりに感じるのに、素直じゃない、鈴佐勇姫。


「もう勇姫はぼくたちがここにいることに気づいていたみたいだけど、このゲームについてはどれくらいわかっているのかな」


「さあ。ほとんど友達がなんとかしてくれたから」


「それはよかった。それがぼくら魔王の期待していたところだから」


 そう言っていさむはオレの元に歩み寄り、一冊の本を差し出した。本のタイトルは「Real Playing Game! 〜オレが勇者で主人公はぼく〜」。


「その本、後で読んでおいて。それから、今回の冒険のことを書き足してくれると助かる」


 これが友輝の言っていた本か。あまり厚みはないな。


「それはいいけど今、教えてほしいことがある。あの通知は二人が送ったの?」


 そう聞くと、いさむとあきひめは顔を見合わせて、あきひめが答えてくれた。


「そう。マザーコンピュータの協力を得てね」


「何が目的で? オレに会うため? そういうのちょっと迷惑なんだけど」


 自分の口から勝手に強めの言葉が出る。でもそれを受けて、いさむとあきひめから出た言葉は思いがけないものだった。


「目的はそんな緻密ちみつじゃないよ」


「出て行った勇姫に以前わたしたちが経験した"Real Playing Game!"の再現をすれば、何か起こるかもしれないって思ったの」


 それはつまり。どういうこと? ポカンと口を開けてしまったオレに追加であきひめが説明する。


「勇姫はね、わたしたちの子で、今の時代では少し特別。近しい誰かに影響を与えて、結果的に勇姫がまた良い影響をもらえると思った。そのきっかけになればって」


 うーん。わかりやすい説明を受けている気もするけど、やっぱりなんか難しいぞ。とりあえず、昔あった出来事の真似事まねごとをオレにやってみたってことなのかな。開いた口を閉じ、今度はまゆをひそめていたオレにいさむが語りかける。


「勇姫。ぼくたちは親でも、君のことを全部理解することはできない。ただ、こうして話しをすることはできるし、何より、君は君だ。かつてぼくらは、その本にある冒険で、そんな単純な答えを知ったんだよ」


 手の中の本を見つめる。単純な答えか。それは友輝も教えてくれたな。親と何かが違う気がして、嫌な気もしていたけど。オレの中にある感覚を、信じてもいいんだな。


→なんとなくお礼を言う

 お礼を言わない


「ありがと」


 伏せ目から少し目線を上げた先の、二人の表情はあたたかかった。



✴︎



「よっ、勇姫」

「えっ、友輝」


 団地の一室を出るとそこには友輝がいた。


「もういいんかい、家族との再会は」

「まあ、会いたくなったらそうすりゃいいしね」

「おっ。なんか変わったな」

「てか、なんでいんだよ」

「ついてきてただけさ。簡単だろ」

「ストーカーかよ」

「お前、家の主人あるじによくそんなこと言えるなぁ」

「うるせえ! 帰るぞ!」


 夜空には、二つの星が寄り添い輝いていた。

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