プラネット・ギア2
学科においてはそれほど特筆すべき事はない。星は異なれど物理法則は同じように働いているようで、名前は異なるものの〇〇の方程式やら〇〇の法則やらというものを数理では覚えさせられる。国語系もその国のあった言語体系(多分でっちあげだろうが)や単語、熟語、文学を学び、社会科においてはこれまでの異星の歴史や思想の成り立ちなどを追うという形になっている。要は普通の勉学。どれもこれも、俺がかつて経験し、途中で放棄したものばかりだった。脳に直接情報をインストールする事が可能になっている時代でわざわざ知識を手動で詰め込むというのは効率の悪い話だが、中学の頃担任にそれを言ってみたら、「勉強が経験となり、経験が知恵を生み、知恵は人生を豊かにする」との金言を賜った。なるほどと納得だが、そうした言葉がスラと出てきたあたり、きっと同じような生意気をほざく人間は多くいるのだろうと思った。そういえば地球にも子供活動家などと名乗っている動画配信者が俺と同じような事をいって不登校を肯定していた記憶がある。言っている事は分かるのだが賛同したくなく、俺が聞いた担任にしたって、俺の質問に同じ思いを持っていただろう。自分より若い人間が知ったような口をきくのは、なんとか気に入らないものだ。もっとも、その担任においては気に入らない以外の理由もちゃんとあっただろうし、俺の進学について親身になって相談に乗ってくれたので悪く言う気は起きない。長い物には巻かれよという諺はあまり好きではないが、不快じゃない長い物ならやぶさかでもない。結局のところ、誰の言葉を信じるかである。その点でいえば、件の子供活動家はどことなく不快なので、やはり俺は彼に賛同する事はないだろう。
話が大きく逸れたが、ともかく学業はそんなものでなんとか対応していた。学校についても、落伍者とはいえ一通り経験してきたのだからやってやれないわけもなく、むしろニートをやっていた時よりも幾らか気楽かつ快活でさえある。負い目や引け目を感じずに送る青春というのがこうも自由な気持ちになるとは知らなかったが、これも暗黒の青年時代を経験したからこそ出る感想であり、もし学校を卒業していなかったら鬱屈ばかりが積み重なるスクールライフを送っていたかもしれない。あんなんでもちゃんと学校にいっていてよかった。それでも社会科以外は努力を怠ると赤点まっしぐら。誕生時、数学的素養くらいは付与しておいてもよかったんじゃないかと思わないでもない。社会科にしたってこれまで歴史を見ているわけだから分かるだけで、年表の暗記や政治系の分野になるとてんで駄目。まったく、自分の馬鹿さ加減にほとほと呆れる。
しかし、昔は勉強だけできてもなぁなんて思っていたが、勉強のできる奴は存外他の事もできるものである。考えてみれば当たり前の話で、要領が悪ければ勉強した事が頭に入らないし、試験で結果も残せない。よく漫画で見るような、勉強だけできるが他はからっきしなんてキャラクターは、無勉強者の憂さ晴らしのために用意されたもののように思える。というのも、俺は学校帰り、近くのファミレスでバイトしていたのだが、成績優秀な人間はやはり仕事でも一角に立つのである。同僚である中谷君はまさにそれで、学校では勉学優秀。バイト先ではホールとキッチンを同時にこなし、合間を縫って棚卸まで対応しているのである。曰く、「計画を立てるのも崩れた計画を立て直すのも面白い」との事であり、本来バイトなどする必要のない家柄だが、クソ客の相手と過密なスケジュールの中で働けるという理由で、趣味としてバイトをしているんだそうだ。そして貯めた金は全額寄付しているという。高校生ながら、恐ろしい男だ。
さすがに彼は少し特別にしろ、大半の『頭のいい人間』というのはだいたい仕事もできるし人生も豊かな気がする。それこそ中学の担任が言った、「知識と勉強が経験となり、経験が知恵を生み、知恵は人生を豊かにする」というものなのかもしれない。例え才がなくとも真面目に勉学に取り組めば、なんらかの形で役に立つ事もくるだろう。そのために、俺は異星でしっかりと学びたい。落第しないレベルを維持するくらいには。
「全員出席してるな? よし、ホームルーム終わり」
起立礼着席。
何事もなくホームルームが終わり、一時間目の準備をする。科目は現代史。正直苦手な分野だ(先述の通り得意科目など存在しないのだが)。ちなみに社会科担当の教諭は産休だがリモートで授業を受け持っている。こんなところだけ未来的でなくてもいいのにと、そもそも産休なんだから休ませてやれよと思うのだが、どうやら本人たっての希望で授業を続けているそうだ。金が必要なのか、それとも働く事が好きなのかは俺の知るところではない。まぁ脳波接続で簡単にwebにアクセスできるのだから、子育てしながらでも対応できるのだろう。
「君、すまないけれど先週の内容送ってくれないかい? 前回休んじゃって」
そう言ってきたのは少しだけ話した事のあるオタクだった。こいつも俺と同じく、友達はいないようである。
「いいけど、俺のまとめ方ひどいよ?」
「ないよりましさ」
「分かった。じゃあテルース経由で渡すよ。学校のローカルは使いにくくて」
「あのUIはないよね。原始人がコード書いたのかって思っちゃうよ」
「違いない」
簡単な会話だったが、なんだか俺は凄く充実したような気持となって、その日一日が嬉しくて仕様がなかった。 人と話すというのは、楽しいものである。
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