逆襲のシシャ14
ちなみにだがコニコ、エシファン、ドーガの間では電話線が通っており電話による通話が可能である。故に、ワザッタは今回に限らず昼夜問わずムカームから命令や叱責の連絡が入り胃を痛くしていた。ある時などはノイローゼに陥り胃薬一瓶丸ごと摂取し救急搬送された事があり、それに関してもムカームに皮肉を言われながら休暇を出されたりしていたのだった。
翌朝。キシトアは目覚め玄関ホールへ向かうと、ワザッタの屋敷に大きな時計やピアノ。用途不明な収納などが運ばれているのを目にする。
「あれはなんだ?」
丁度そこへ突っ立っていたワザッタに聞いていもはっきりとした返事はなく、「色々ありまして」などと間の抜けた返答を返すばかりであったが、キシトアは全てを察したように「分かった」とだけ述べそれ以上追求する事をしなかった。代わりにすぐさま階段を上り、エティスの部屋を尋ねる。
「エティス。入るぞ」
「はい」
エティスは既に余所行きへ着替え終わり読書などをしていたのだが、キシトアの表情を見ると本を閉じ、しずと姿勢を正した。
「どうやらこの屋敷、少し物音が響くようだ。これからは少し静かにしよう。ワザッタに迷惑がかかってもいかんからな」
「……かしこまりました」
この会話を額面通り受け取る人間はいまい。どう考えても裏の意味があり、また、それも容易に判断できてしまう。ワザッタの屋敷に盗聴器が取り付けられたのである。
屋敷に運び込まれたインテリアにはそれぞれ収音マイクが取り付けられており、ワザッタの屋敷の隣にある倉庫で監聴が行われるようになった。ワザッタの手に負えないと見るや否や、即指揮に乗り出す辺りムカームも抜かりない。彼の中でキシトアという人物が如何に重要であるかが窺える。
「でも、それじゃあいつまでもお邪魔しているのは悪いですね。どこか、他の場所にお宿を取りますか?」
「いや、もうしばらく厄介になろう。未だこの国の事情も知らんし、宿といっても程度が知れているだろうからな。出て行けと言われるまでは世話になってもバチは当たらんだろうさ」
「分かりました。でも、なんだかワザッタさんに悪いですね」
「まぁあぁいう奴だ。気にしなくとも大丈夫だろう」
「それもそうですね。では、お出かけの際はまたお声がけください。私の準備はできておりますので」
「あぁ分かった」
会話が終わり廊下に出ると、キシトアは深く息を吸い込み、大きな声でワザッタを呼びつけてエシファンの案内をするよう伝えた。ムカームといいツネハといいリビリ皇帝といい、どうも権力者はワザッタをいいように扱う傾向があるのだが、ひょっとしたら逆であり、ワザッタの方が権力者に縁があり、いいように扱われる性質を持っているのかもしれない。
「かしこまりました。それで、本日は何処へご案内いたしましょうか」
「何処へと言われても俺はエシファンの事は全く分からん。どこか面白いところはないか?」
「そうですね……ここから見えますあちらの山には山道がありまして、遊山に最適でございます。この時期ですと紅葉も花も見られませんが、いい気分転換にはなるかなと」
「山は好かんな。爺むさい。もっと華やかな場所へ行きたい」
「でしたら郊外の海はいかがでしょうか。海水浴の季節ではございませんが、浜辺周辺は整備されており飲食店も充実しております」
「海はドーガやリューイで十分見たが……そこはエシファンの中でも栄えている方なのか?」
「まぁそこそこですね……ただ、近年ではリューイの近くにも埋立地を利用した観光用ビーチがございますので、そちらの方が賑わってはおります」
「なんだかぱっとしないなぁ……もっとないのか。目ぼしい場所は。なんなら赤線でもいいぞ? 風俗はその国の情勢を知るのに一番手っ取り早いからな」
「え? いやぁキシトア様をそんな場所にお連れしますのは気が引けますが、どうしてもと仰るのなら……」
ワザッタはこういう冗談に対して
「そういった場所へはお二人で行ってらしてくださいね」
いつの間にやら背後にいたエティスからの一刺しにワザッタとキシトアは固まってしまった。通じない冗談というのは恐ろしいものである。
「……他、どこかないか?」
「……そうですねぇ……あぁ、ドゥマンとユーシィの間に宿場町があるのですが、そこが中々趣深い場所でございます。古代より続く街並みが残っておりまして、観光地と化したリューイとは異なり昔ながらの文化や風土を体感する事ができますよ。時折エシファンの国政を担う方々もお見えになりますのでそれなりの店もございます。キシトア様においても、お楽しみいただけるかと」
「ほぉ……それは面白そうだ。遠いのか? そこは」
「決して近くはございませんが、まぁ車で二時間といったところでしょうか。ただ、宿場町自体全体は繋がっておらず複数に置かれておりますので、全てご覧になるのであれば数日はかかるります」
「なるほど。いいだろう。では手始めに最初の部分だけ見物させてもらう。後の事は、行ってから考えよう」
「かしこまりました。では、そのようにいたします」
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