十四章:運命
第108話 ネタばらし
「…報告です!!」
数日後、レングートの街へ戻って来た騎士団の生存者達が関係者達に出迎えられている際の出来事だった。早馬に乗って現れた兵士は息を切らしながらクリス達の元へと駆け付ける。慌てているのか、敬礼などを見せる事も無く会話を始めた。
「か、各地の市町村で謎の生物による襲撃が多発… !特徴から我々が研究していた例の生命体と思われます… !」
「何…!?」
兵士の報告によってクリスの脳裏にはギルガルドとネロの会話が思い起こされる。
「そして…ガーランド様、伝言を預かっています」
「伝言 ?誰から ?」
「『騎士団本部で待っている』と…そう伝えるように言われて…ネロ・ヴィデルと名乗っていました」
ネロ、その名前を聞いた瞬間にクリスの中には明確な不安が渦巻いた。気が付けば兵士が乗ってきた馬にまたがり、そのまま騎士団本部へと手綱を取る。何か良からぬ事態が進行している事は誰の目にも明らかだった。デルシン達は周りの部下に負傷者の面倒とその他の手続きを頼んだ後に、馬車を走らせてクリスに続いた。
――――クリスが辿り着いた本部の門は固く閉じられていた。普段であれば門番達が出迎えてくれるのだが、この日ばかりは誰一人として顔を出さない。嫌な予感がした。
瞬間移動で内部へ入り込み、正面玄関を開けようとするが開かない。舌打ちをしてから運動場へ回り込んだ瞬間、クリスは絶句した。夥しい数の死体達が氷漬けにされ、岩の杭によって滅多刺しにされ、焼き焦がされ、切り刻まれている。この世の地獄であった。
「…ウ…」
微かな呻き声と何やら大きめの物音が建物の陰からする。クリスが駆け寄ってみると、泣き崩れたジョンが縮こまっていた。
「ミンナ…シンダ……ボク……コワクテ…ナニモ…デキナカッタ……!」
心配そうにのぞき込んで来たクリスに対して気が緩んだのか、ジョンは堪えていた感情を曝け出しながら一部始終を語って泣き崩れた。そのまま他の者が来るまで隠れておくようにクリスは伝え、力づくで本部の中へ押し入っていく。
その頃、執務室にてアルフレッドは椅子に座っていた。というよりは座らせられていたのだが、そのまま机越しにある人物と対峙していた。
「記憶違いだろうか…確かあなたは…」
「きっと間違っていないさ。随分と老けたなハミルトン」
動揺を隠さずに話しかけるアルフレッドの顔には、汗が伝っていた。ネロは勘違いなどしていないと伝えてから彼の姓を呼ぶ。応接用のソファに座ってから、足をテーブルに乗せていた。
「いつ以来かな ?昔は一緒によく遊んでいたね。たま~に思い出すよ。森やどこかの小さな洞穴で繰り広げられた冒険の数々をね」
「だがある時を境に、あなたはいなくなった一体なぜ…」
「頃合いだと思ったからだ」
懐かしむように微笑んだネロには確かに幼少期に見た面影があったが、それが却って不気味だった。色々と聞きたい事があったが、なぜいなくなったのかと尋ねた時、ネロはそれが計画の一部であったことを端的に伝える。
「苦労したよ。魔術師の力を削ぐにはどうすれば良いかと…感情的にやりすぎては残忍さ故にどこかで歯止めがかかってしまう。かといって平和に済ませれば奴らは保護されてしまう。そうならないように、中立な立場から正義を盾に裁くという名目で攻撃する…そんな勢力を作りたかった。そうすれば人は自分の行いが如何に残酷であろうと、正当性を主張して暴走し続けてくれる。だから君にしたのと同じように、魔術師の好感度を上げるために愛想を振りまいたもんだよ…おかげでこんなふうに騎士団は育ってくれた。実の所、ブラザーフッドを倒すのは別に君じゃなくても良かったんだ」
ネロの言葉によってアルフレッドが何よりも感じたのは落胆であった。自分と彼の間にあった思い出の数々、その全てがただの仮初の物であったという事を知らされてしまったためである。
「ブラザーフッドについても頑張ったんだ。上手い具合に誘導し、魔術師ってのがどこまで行こうが脅威でしか無いってのを知らしめる必要があったからね…現にどうだ ?君はまんまと乗せられ、国と人々を守るんだと語って奴らを滅ぼしてくれた。潰し合いをしてくれたわけだ」
ネロによる自作自演の一端が語られていくが、その間にアルフレッドが言葉を発する事は無かった。
「さて…そろそろ、もう一人の立役者が到着する頃かな」
その直後、ドアを蹴破ってクリスが執務室へ突入してきた。
「やあ」
ネロが挨拶をしてみるがすぐさま拳銃を発砲される。それを躱したネロは背後へ回り込んだ後に彼の首を締め上げようとした。しかし、クリスによって肘打ちで脇腹を強打され、僅かに怯んだところで後ろ回し蹴りを食らう。腕で防いだものの、僅かに痺れがあった。
「…血の気が多いな。別に戦いに来たわけじゃないさ。ただ、正当防衛でね…うっかり」
「知るか。どの道生きて帰す気は無い」
こいつとは肉弾戦で張り合いたくない。ネロはそんな警戒心を抱えつつクリスに戦う意思が無い事を知らせるが、あまり素直に聞き入れては貰えなさそうだった。
「知りたくないのか ?各地であらわれている化け物の正体と、俺の目的が。黙って聞いてくれるんなら教えてやる」
あくまでも平静を保ったままこちらへ提案をして来るネロに対して、クリスは少しばかり迷いを見せたが直後に階下からデルシン達が到着した。やはり全員が動揺しているらしく、ネロも思っていたより数の多い生存者に対して意外そうな顔をする。
「ほう。案外残るものだな…流石は騎士団きっての精鋭たち。ところでどうする ?話を聞くか ?それとも…ここで俺とお前以外の全員が死ぬまでやり合うか ?もっとも…魔法込みなら負ける気はしないがね」
ネロは笑いながら言うが、その背後には空中に炎が灯されていた。優れた魔術師ともなれば、何も無い空間からさえも物質を生み出せるようになるが、相応の技術と膨大な魔力を要する。ハッタリではなく本気である事が窺えた。話をするにあたって、邪魔をするというのであれば排除してでも自分と話す気なのだ。クリスはそう思った。
「…話を聞こう」
「え…」
「お、おい… !」
クリスが彼の要求を呑んだ事に動揺する一同だったが、その向こうでネロから発せられる威圧感によって異議を唱える者はいなかった。
「よし」
全員が黙ったのを確認してからネロは呟く。そして再びソファへ寛ぐように膝を組んで座り込んだ。
「そこの、眼鏡の子…グレッグ・ピーター・オールドマン君だね ?学生時代に書いたレポートや論文、見せてもらったよ。今は確か魔術師の歴史や文化について知りたがっているそうだが」
「え…ああ…はあ…」
唐突にグレッグを指差してから、ネロはグレッグの素性についてザックリと確認した。いきなり自分に飛び火するとは思わなかったのか、本人は肯定しているのかそうでないのか分からない濁した返事をしてしまう。
「だとしたら幸運だな。これから話すのは、文献にも記されていない過去の記憶…悪魔達が世界を創る前に何があったのか…少しばかりではあるが、知る事が出来るだろうさ」
ネロは続けて面白い話が聞けるかもしれないと、はやし立てながら笑って見せる。その話を聞いてはいけないと、どこか本能が訴えて来ていると感じたクリスはひたすら葛藤を繰り返していた。やはり今からでも攻撃を仕掛けるべきだろうかなどと、迷っているうちにネロはとうとう口を開き始める。この選択肢が後に自らの運命を知る発端となる事を、クリスはまだ知る由も無かった。
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