第15話 憎まれっ子
「…やはり考え直すつもりは無かったか」
ネロからの報告を耳にしたギルガルドは落胆した様に項垂れた。機嫌を取るわけでも無く不敵な雰囲気を匂わせたままのネロは、彼から背を向けて玉座から離れていく。
「敵であると分かった以上、こちらも遠慮をする理由が無くなった。ガーランドについては自由にやらせていただいても?」
「構わない。魔法を使えないとはいえ、奴の知識や肉体は立派な脅威だ。最優先で排除せねばならん」
「かしこまりました。失礼ですが私はこれで…」
ネロはこれからの方針について確認をすると、ギルガルドは一息入れて許可する趣旨を伝える。嬉しそうに承ったネロは部屋を出ていったが、つくづく間抜けなジジイだと心の中で嘲笑っていた。
――――街の外れにある広大な空き地はエイジス騎士団が管理している物であり、射撃の的となる人形や、絵の描かれた合板が置かれていた。上着を脱いでシャツの袖を捲ったクリスは、ポールが自分のためにわざわざ開発してくれたという新型の拳銃の性能を確かめるべくこの場所に訪れていたのである。
「さ、じゃあこれを…片っ端からぶっ放してくれ」
厳重そうなケースから取り出された物品は、日に当たると黒鉄の鈍い光を煌めかせた。手に取ってみると、自分がこれまで使っていた物よりも格段に重量感があるものの絶妙な塩梅で手に馴染む。
「リボルバー…随分と重くなったな。銃身は長め、そしてこの太さか。おまけにこんな口径、拳銃では見た事ないぞ」
鉄塊のような得物を珍しそうに手に取りながらクリスはまじまじと眺めていたが、その横では得意げな顔をするポールがいた。
「全てが特注であり、君専用だ。君の身体能力を計算して機動性や運動能力に差支えの無いギリギリの性能を目指した。口径はそこらのマグナム弾程度じゃ相手にならない特大サイズ、火薬もマシマシ。銃身が太いのはわざとだよ。ヘビーバレルと言ってね、反動を抑えて精度や強度といった射撃時の安定性を理論上は確保している。おかげで重量は君がこないだまで使っていたものから三倍以上になったが、君の怪力なら問題は無いはず。さあさあ美術品じゃないんだ銃は。使ってなんぼ、早速実験と行こう」
聞き漏らしがあるかもしれないと、不安にさせてしまうような早口でポールは銃について解説をした。急かされたクリスは渋々両手で銃を握り、人形に狙いを定めてから弾丸を放つ。これまでにない爆音が響き、同時に衝撃が手に伝わった。放たれた弾丸は人形の頭部を破裂させ、遮蔽物として使われていた煉瓦の壁を砕き、さらに空き地の囲いに使われている強固な壁に命中した事でようやく動きを止めた。
「人に向けて良い物じゃないだろこれは…」
「どうせ敵を殺す時にしか使わないんだ。最悪の場合は、相手が反撃して止む無くとでも言っとけば問題ない」
威力に度肝を抜かれたクリスと、ちゃんと実戦でも使ってほしいのか職権乱用を促すようにアドバイスを送るポールのもとに、視察へ訪れたメリッサやイゾウが現れた。
「凄い音がしたけど、話に聞いてた新型ってそれの事?」
メリッサはクリスが持ってる拳銃を指で示しながらポールに聞いた。一方でクリスはもう少し試してみたいと、両手に一丁ずつ持ってから的に目掛けて片っ端から引き金を引いていく。どれも見事に命中し、向こう側が見える程に綺麗な風穴が空いた。
「一応言って置くが、同じの作ってくれなんて言うなよ。全て彼の馬鹿力がある事を前提に威力を調整して設計してあるんだ…それでも二丁拳銃ってのは想像以上だが。おまけに全部命中させてる。何なんだアイツ」
爆音が轟き続ける中で、ポールはメリッサ達に忠告をした。
「ふう、気に入った。欲を言うなら装弾数を増やしたい」
「無茶言うな。それ以上デカくしちまったら引き金を引くのにも苦労するぞ」
ひとしきり満足したらしいクリスは、感想と改善してほしい点を挙げていったが、ポールは作り手としての立場から無理であると言い切った。クリスは少し不服そうに片づけを始めようとしていた時、イゾウから先の一見に関する報告書を手渡される。
「こんな所で渡すか普通?」
「どうせ見ようともしないだろ。だから持って来たんだ」
図星を突かれて苦虫をかみつぶしたような顔をしたクリスは、びっしりと書き込まれた文字に仕方なく目を通した。エイブリーは協力をしていた複数の社員とともに逮捕され、彼の行いに加担していた魔術師達も処罰の対象になったらしい。
「顔に出さないだけで魔術師を煙たがっている奴らは大勢いるんだ。遅かれ早かれ報道もされる。そうすれば世間の魔術師に対する反応はさらにきつくなるだろうな」
イゾウの言葉にクリス達は少し顔を曇らせた。
「どうすれば良い?」
「どうも出来ない。過激派共が一匹残らず消え去れば変わるかもしれんが」
クリスからの問いかけに、至極当然であるといった風にイゾウは答える。
「随分と乱暴な言い方だな」
「だがその乱暴さが今の世界には必要だ。人並みに仕事が出来る点は評価してやるが、お前の事を信頼するつもりはない」
噛みついた自分にも非があったが、妙に冷たいイゾウの言葉にクリスは段々と苛ついて来た。
「どんな相手であろうと中立性を持てというのが騎士団の教えだろ?元魔術師ってだけで密偵扱いか?」
「中立性があるからといって味方を怪しまない理由にはならないからな。興味本位で入ったなんてふざけた動機を持つ奴は疑って当然だろう。まあ、せいぜい頑張ると良いさ。化けの皮が剥がれた暁には…俺が引導を渡してやる」
流石の扱いに苛立ちを隠すのが難しくなり始めたクリスが指摘をすると、イゾウは引き下がらずに反論してくる。そしていきなり抜刀してから、刀を向けてクリスに予告をしてみせた。
「そうか…今夜は流れ星が降るかもしれんそうだ。後でちゃんとお願いしとけよ?『僕ちゃんにあいつを殺させてください』ってな」
やられっぱなしじゃ収まりが悪かったクリスが最後に言い放つと、イゾウは鼻で笑った。そして背を向けてそそくさと歩き去って行く。
「何よアイツ。まさかこのためだけに来たの?」
イゾウが見えなくなってから、メリッサは露骨に悪態をついて文句を言った。
「いつもこんな調子なのか?」
「基本はね。でもあなたに対しては特に酷い…そうだ!それより次の任務。今日の夜に発って欲しいって指令が来てる」
メリッサは気を取り直そうと指令について語った。以前どこかで聞いたようなハーピィの巣の駆除を支援するのが目的らしく、騎士団の力を貸して欲しいとの事であった。
「しかし、ハーピィの巣ならそこらのギルドにいる連中に頼めばいいものを」
「何だか一筋縄じゃ行かないらしくてさ。とにかく戻って仕度をしよう。今回は私もいっしょに行くから!」
一抹の疑問を抱えていたクリスだったが、行けば分かるとメリッサは伝えて準備をするよう彼に言った。クリスはポールに対して銃はすぐにでも使いたいとだけ頼み、そのまま彼女の後を追いかけていく。後片付けがまだだぞと叫ぶ頃には走り去ってしまい、結局ポールは一人で掃除をする羽目になった。
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