真実を知る悠斗②

「や、屋敷神……。教祖様と一緒にいた筈じゃ……」

「ええ、悠斗様の言う通り私の影分身は今、教祖様を御守りしております。知っているでしょう? 私が精霊達を使役できる事を……」

「か、影分身っ……!?」


 ぜ、全然気付かなかった……。


「神興会の教祖様は地球で悠斗様の信仰心を集める為に必要な人材です。それにしても悠斗様はここで何を?」

「い、いや、なんていうか……」


 どうしよう。屋敷神を目の前にして『屋敷神のやろうとした事を阻止しようとしていました』とは言えない。


「ええ、すべてわかっております。悠斗様は、滅びゆく新興宗教を哀れに思い、教祖様に力を与えるたのですよね? その上で神興会を復興し、その過程で神興会の神になる事により新興宗教の後ろ楯になって差し上げようと、そう思われたのですよね?」

「えっ?」


 い、いえ、違いますけど……。

 何その思い違い?

 何をどう考えたらそんな考えに行き着くの??


 俺は教祖様の邪気を祓う力の凄さに感銘を覚え、布教しようとしただけで……。

 感覚としては、ガリガリ君の新作、滅茶苦茶美味しかったよね。食べなきゃ損だって! と、そんな感覚で拡散しただけなんだけど……。


 っていうか文脈おかしくない?

 俺がここに居る理由を聞いていたんじゃなかったの??


 それに教祖様に力を与えたって何の事?

 全然記憶にないんだけど……。


「……悠斗様の御心はとても素晴らしいと思います。しかし、神を統べる神である悠斗様に新興宗教は相応しくありません。ですので、力及ばずながら、私がそのサポートをさせて頂きました」


 屋敷神が影から巻物の様な物を取り出すと、そっと俺に渡してくる。


「えっと……。これは?」


 というより、なんで巻物?


 そんな事を考えながら、渡された巻物に目を通すと、そこには宗教法人っぽい名前とそれぞれの信者数が書かれていた。


 なんだか嫌な予感がする。


「屋敷神? これは一体……」

「はい。神興会の傘下に置いた宗教法人のリストです。既に信者数は数千万を超え、国内外でも急速に神興会の名が浸透しております」


 屋敷神の言葉を聞き巻物を落とすと、俺は宙を見上げ崩れ落ちた。

 四つん這いになりながら地面を見つめ心の中で呟く。


 お、終わった……。


 屋敷神を見た時から何となくヤバい事になりそうだなとは思っていたけど、この展開は完全に想定外である。


 さようなら。平穏な日常。

 こんにちは、非日常。


 まあ異世界転移してからというものの、平穏な日常なんてなかったかも知れないけど……。いつの間にか、神様になっちゃってたし……。


「……悠斗様? 一体どうされたのですか?」

「いや、なんでもないよ……」


 少し動揺しちゃっただけさ。


 屋敷神の手を借りゆっくり立ち上がると、服に着いた埃を払う。


 有名人がマスクとサングラスで顔を隠す理由がよくわかった気がする。

 今日から新興宗教の神様か……。

 もう普通に高校に行く事すらできなくなってしまった。

 いや、今は神興会の布教活動が忙しすぎて『影分身』に行って貰っているんだけれども……。


 まだ、完全に浸透している訳じゃないんだろうし、世界の人口は七十八億。

 その内の数千万人が俺の顔を知っているだけだ。

 まだ完全に異世界『ウェーク』化していない。


 とはいえ、もはや時間の問題だ。

 俺が元の世界に戻ってきて一ヶ月。

 たった一ヶ月で数千万人が信者化してしまった。


 友達に信者がいたらどうしよう。

 それはそれで非常に困る。


「……そろそろ、ウェークに帰ろうかな」


 何て言うか、今は無性に、フェイやケイ、レイン達に会いたい。


「おや? もうお戻りになられるのですか?」

「うん……。ここには影分身を置いて、一度、ウェークに戻ろうかなって……」

「そうですか。ご安心下さい。私の影分身もこちらに置いていきます。布教活動もつつがなく進行致しますので……」

「う、うん。でも、ほどほどにね?」


 多分、信仰の全てが俺に集まったら、地球の神様激怒するから。

 まあ地球の神様に会った事ないけど……。


「はい。承知致しました。その点はご安心下さい」

「うん? どういう事??」


 まさか屋敷神。俺の心を読んだの?

 そんな力あったっけ??


「力のある宗教の神を除く大半の力なき神は既に神興会に降っております」

「本当にどういう事っ!?」

「はい。力なき神に信仰心を稼ぐ力はありません。ですので、そういった神はこの世界に受肉させ教祖補佐として雇用しております」

「か、神様を雇用しているのっ!?」

「ええ、今の時代、神とはいえちゃんと奇跡を起こさねば、信仰心を得る事はできません。悠斗様の銅像が得た信仰心は、働きに応じてそれぞれの神に配賦されるよう設定しております」

「そんな事できるの!?」


 凄いな。神様が教祖補佐として仕事をする新興宗教か。

 働きによって信仰心を得られるなら神様も安心だ。

 信者も神様の奇跡を直接受ける事が出来て皆、幸せになれる。


「そこら辺のシステムは、ボクが作ったのさ♪ 神様に労働を課すなんてゾクゾクするよね! これも悠斗様が『神を統べる神』だからこそ許される事だよ♪」

「え、ああ、そうなんだ……」


 俺、以外がやったら問題なんだ……。

 なんだか教祖様には悪い事をしてしまった気分だ。

 多分、俺が神興会に入信しなければこんな事にはならなかった。


 俺はゆっくり目を閉じると、東京国際フォーラムで困惑しているであろう教祖様に祈りを捧げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る