どこまでも流される教祖様①
「私とした事が申し訳ございません。神興会本部に忘れ物をしてしまいました」
「……忘れ物ですか? 屋敷神さんにしては珍しいですね。『御神体供養』の儀まで、まだ時間はあります。一度、本部に戻りましょう」
十三時から東京国際フォーラムで開催予定の『御神体供養』の儀まで、まだ時間はある。
それに丁度、一息付きたかった所だ。
ここの所、屋敷神さんの手のひらで転がされている感が半端ではない。
一度、本部に帰って旧知の中の佳代子さん、紗良さんとお茶をしよう。
これから私はどうするべきなのか相談しよう。
そう思っていたのに……。
やっと一息付けるかと思っていたのに……。
これはないでしょう。
神興会本部の自動ドアを潜ると、そこには警備員に捕縛され、罵詈雑言を叫ぶ佳代子さんと紗良さんがいた。
佳代子さんに紗良さん!?
な、何やってんのー!?
「えっ? ど、どういう事っ!? 佳代子さんに紗良さん。ま、まさか……。何か悪い事をやった訳じゃ……」
私の声を聞いた佳代子さんと紗良さんが唖然とした表情を浮かべている。
「おやおや……。あの二人。どうやら教祖様宛に寄付された金品を横領しようとしていたみたいですね」
隣に視線を向けると屋敷神も薄ら笑いを浮かべていた。
じ、爺いー!
図ったわね!?
忘れ物がどうたら言って、絶対、この事、知っていたでしょう!
「ち、違うの! 違うのよ。教祖様!」
「そ、そうです! 佳代子さんの言う通りです。私達はこの性悪爺に嵌められて……」
私に向かって言い訳を始める佳代子さんと紗良さん。
お願いだから、もう余計な事は言わないで欲しい。
性悪爺って誰の事?
あなた達の前で仁王立ちしながら激怒している財前さんの事を言ってる訳じゃないわよね?
「教祖様っ! 私達は教祖様から邪気を遠ざけようと思って……」
「ほう。邪気を遠ざけようと思って教祖様の部屋に侵入し、キャリーバックに金品を詰めてどこかに持ち出そうとしたと、そういう事ですか?」
「うっ!?」
流石は屋敷神さん。
私が言いにくい事をズバズバ言ってくれる。
「それにこれは何です?」
屋敷神さんは悠斗君から紙袋を受け取ると、袋の中から白い箱を取り出した。
箱を開けると、中にはまるで爆弾の様な物が入っている。
「そ、それは……。ち、違っ! 私達じゃないわ! 教祖様の部屋に置いてあったのよ!」
「そ、そうよ! 私達はただ分け前を貰おうとして……。爆弾なんか知らないわっ!」
「ば、爆弾ですって!?」
な、なんでそんなものが私の部屋に置いてあるのよ……。
知ってて何で放置してるのよ。
「わ、私達も何とかしようと思ったのよ! だからこそ悠斗君に爆弾を探させて通報させようと……」
「そ、そうよ! 私達は悪くないわ!」
ゆ、悠斗君に爆弾の処理をさせようとしたの!?
「あ、あなた達ね……。子供に爆発物を発見させて通報させようだなんて、何を考えているのよ……」
「全く以って、教祖様の仰る通りです。とはいえ爆発物をそのままにしておく訳にはいきませんね。佳代子に紗良も同様です」
屋敷神の言葉に佳代子さんと紗良さんが目を剥く。
「ち、ちょっと! 私達を警察に突き出すつもりっ!」
「そ、そんな事をすれば、どうなるかわかっているんでしょうね! 神興会はお終いよ!?」
えっ?
神興会を終わらせてくれるの!?
「……確かに、神興会の幹部が不正を起こした事が露見すれば神興会の運営に支障があるかも知れません。いかが致しますか? 教祖様」
顎に手をつき考え込むような表情を浮かべた財前さんがそんな事を言ってくる。
「……よろしいのではないでしょうか? 私にとっては神興会の評判よりも信徒の方が大事です。まだ未成年の子供である悠斗君に爆弾を発見させ通報させるなどという危険な行為をし、その内にキャリーバックに詰めた金品を横領しようとした事を許す事はできません。これは教祖としての思いではなく、この社会を生きる一人の大人としての思いです。佳代子さんと紗良さんにはこれまで大変お世話になりましたが、仕方がありません」
心の底から残念そうな表情を浮かべながらそう言うと、佳代子さんと紗良さんが縛られながらバシバシ跳ねる。
「ち、ちょっと待って! 伊藤さん! い、いえ、教祖様っ!」
「は、話を聞いて下さい! そんなつもりはなかったんです! ちょっと魔が差しただけで……」
――パチン。
佳代子さんと紗良さんが追撃するかのように言い訳を始めると、屋敷神が笑みを浮かべながら手を叩いた。
「素晴らしい。流石は神興会の教祖様ですね。悠斗様が神興会に気持ちを傾ける気持ちがわかります……」
えっ?
悠斗様??
どういう事???
悠斗君って、どっかのお偉いさんの息子なの?
悠斗君に視線を向けると、悠斗君がブンブン横に首を振っている。
「……しかし、この二人の為に神興会の発展を妨げる事は赦されざること。そこで、どうでしょう。この二人を私に預けて頂けませんか?」
「えっ? 一体何をする気なのです?」
「教祖様が気に掛けるほどの事ではございません。身の安全だけは保証致しましょう。勿論、この爆発物の処理も私が……」
屋敷神は爆弾の入った箱を影に向かって落としていく。
すると、爆弾の入ったその箱は、影の中に沈んでいき、爆弾が姿を消した。
「……さて、これで爆発物の処理は終わりました。教祖様、この二人の事を私に任せて頂けますね?」
「え? ええっ……。よろしくお願いするわ……」
屋敷神の言葉に私はただ頷く事しかできなかった。
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