爆弾こと教祖様の部屋にある邪気の源を探れ②

「た、大変だ……」


『先読』で視た少し先の未来。

 そこに映っていたのは、神興会の教祖様の部屋が謎の大爆発に巻き込まれる未来だった。


 驚きのあまり、紙袋に視線を向ける。

 恐らく、この紙袋に入っている白い箱。

 これが大爆発を引き起こす何かなのだろう。


「……これ、まさか爆弾じゃないよね?」


 佳代子さんは教祖様の部屋に邪気の塊があると言っていた。

 しかし、もしこれが爆弾だった場合、邪気を祓った位ではどうにもならない様な気がする。


 と、いうより爆弾だった場合、完全に爆発物処理班の領分である。

 しかし、佳代子さんは『邪気の源を見つけたら私を頼りなさい』と言っていた。


 と、いうことは、教祖様の部屋が大爆発に巻き込まれた原因はこれになく霊的な何かがこの紙袋に入った白い箱に作用し爆発を引き起こすと、そういう事だろうか?

 それとも、佳代子さん。爆弾を解体できるとか??


 いや、普通に考えて、主婦の佳代子さんに爆発物を処理する力があるとは思えない。

 うーん。俺では、判断が難しいな……。


 よくよく考えて見ると、日常生活で爆弾と遭遇する事なんて殆どない。

 取り敢えず、佳代子さんの判断を仰ごう。

 自信満々な佳代子さんならきっと何とかしてくれる筈だ。


 紙袋を手に持つと、『影探知』で佳代子さんのいる場所を捕捉し、その近くに『影転移』で転移した。


 ◇◆◇


「ほっほっほっ、やりましたわね。紗良さん」

「ええ、これで私達も億万長者ですわ。佳代子さん」


 キャリーバックには、教祖様宛に届いた邪気の塊こと、金品が詰められている。

 神興会の寄付金は財前友則が管理している為、手を付ける事はできなかったが、教祖様宛の金品については話は別だ。


 教祖様に危険が及ばぬよう点検し、その隙をついて手にした私達だけの宝。


「さあ、午後十三時から東京国際フォーラムで行われる『御神体供養』の儀に間に合うよう、ちゃっちゃとこれを隠しましょう。とりあえず、家に運べばバレる事はないわ!」


 そう言って、エレベーターを降りると、丁度、財前がこちらに向かってくるのが見える。


「おや? 佳代子さんに紗良さん。外出ですか?」

「え、ええっ、ちょっと外でランチをと……。ねえ、紗良さん?」

「え、ええっ、その通りです。もしよろしければ財前さんもご一緒します?」


 心にもない事を言うと、一瞬、財前が考え込む。


「……いえ、お誘いはありがたいのですが」

「そうですか。残念ですわぁ! ねえ、紗良さん」

「はい。とても残念です。それでは財前さん。お仕事、頑張って下さいね」

「ええ、お二人も午後十三時開催の『御神体供養』の儀に遅れないようにお願いしますよ」

「ええ、それは勿論、神興会の幹部として当然の義務ですから……」


 キャリーバックを後ろに隠しながらそう言うと、財前との話をさっさと切り上げ、外に向かおうとする。


「……そういえば、佳代子さんに紗良さん」

「は、はい。何でしょうか?」


 しかし、そうは問屋が卸さなかったらしい。

 財前はキャリーバックに疑わしい視線を向けると、指をさしてくる。


「そのキャリーバックには、一体何が入っているのですか?」


 財前の質問に自然と冷や汗が浮かび上がる。


「も、勿論、私の私服ですわ……」

「……そうですか。紗良さんも同様で?」

「え、ええっ、勿論です。これは私服、私服に違いありません」

「ふむ。そうですか……。わかりました。足止めしてすいません」

「いえいえ、お気になさらずに、それでは私達はこれで……」


 一瞬バレたかと思ったが、何とか凌ぐ事ができた様だ。

 まったく、この老人は聡いから困る。

 とはいえ、この場を乗り切ればこの金品は私達の物……。


 財前に軽くお辞儀をしてその場から立ち去ろうとすると、私達に立ち塞がるかの様に悠斗君が姿を現した。


「佳代子さん、見つけました。これですよね? これが邪気の塊ですよね?」

「え、ええっ?」


 ど、どこから現れたの、この子?

 いや、それ所じゃ……。

 な、ななななっ、なんで、こんな所に爆弾持ってきているのっ!?


 悠斗君から手渡された紙袋。

 その中には、教祖様の部屋に置いてあった爆弾が入っていた。


 思わず紙袋を落としそうになるも、中身が爆弾である事を思い直し、ゆっくりと爆弾入りの紙袋を床に置いた。


「……どうした? それは、教祖様の部屋に置いてあった物ではなかったか?」


 財前からの問いかけに私は頬を引く付かせる。


「お、おほほほほっ、そ、そうよ。悠斗君、これは教祖様の物なんだから持ってきちゃダメじゃない。なんで、こんな所に持ってきちゃったの?」

「えっ? だって佳代子さんが教祖様の部屋のテーブルにある邪気の塊を持って来いって言ったじゃないですか……。えっ? 違うんですか??」


 悠斗君の屈託のない言葉に、私と紗良さんは大慌て。

 財前の厳しい視線が突き刺さる。


「……悠斗君。これはどういう事だ?」

「えっ? いえ、つい先ほど教祖様の部屋に向かって歩いていたらキャリーバック片手に教祖様の部屋から慌てて出ていく二人を見かけて……。声をかけたら、急に邪気を感じ取る練習をした方がいいって言い始めたから……」


 悠斗君の言葉を聞き、怒りのボルテージが上がっていく財前を片目に、私は持っていた紙袋から手を放した。

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