絵空代表との会談。苦悩する教祖②
私が困惑した表情を浮かべていると、屋敷神が絵空代表を諌めてくれる。
「絵空様。お戯れを……。教祖様が困っておいでです」
屋敷神の言葉に絵空代表は少しだけ顔を歪めると、軽く目を閉じる。
「……そうね。仮にも、数多くの信者を抱える神興会の教祖様に失礼だったわ。立ち話もなんですし、まずはどうぞお掛け下さい」
「え、ええ、ありがとうございます。それでは失礼して……」
苦笑いを浮かべながら黒塗りのソファに座ると、絵空代表のボディガードっぽいサングラスをかけた黒服が、煎茶と茶菓子をテーブルに置く。
く、空気が重い……。
目の前には視線の怖い絵空代表。
絵空代表の背後には、私の事をサングラス越しに睨み付けるボディガード。
そして、私の背後で薄笑いを浮かべる屋敷神。
車の中で覚えた台本は何だったのだろうか。
絵空代表の『私の下につきなさい』発言で何を喋ればいいか吹き飛んでしまった。
っていうか、ここ百パーセント暴力団事務所よね?
こんな所に国民政党の代表がいていいの??
政治の闇の深さを感じるわ……。
空気の重さを紛らわす為、無心に煎茶を啜っていると、絵空代表が話しかけてくる。
「その煎茶、美味しいでしょう? 京都の老舗から取り寄せた特注品なのよ」
「ええ、とても美味しいですね。いつまでも飲んでいたいですわ……」
できればこの会談が終わるまでの間、喋る事なくずっと飲んでいたい。
しかし、神はそんな私のささやかな願いを聞き届けてくれる気はないらしい。
「そうですか、気にいって頂けて何よりだわ……。さて、そんな事よりも話の続きを致しましょ? そこのあなた……。あれを持ってきなさい」
絵空代表が笑顔を浮かべ手を軽く叩くと、黒服が黒いアタッシュケースを持ってきた。そのアタッシュケースをテーブルに置き、開けるとそこには札束が入っているのが確認できる。
「……これは一体、どういうつもりでしょうか?」
そう尋ねると、絵空代表は黒い笑みを浮かべる。
「五億よ。ここに五億入っている。私の下につくのが嫌というなら、せめてこれで神興会を売りなさい」
「神興会を売る?」
えっ?
そんな事できるの??
だったら私、神興会を売り払いたいんだけど??
神興会本部にはそれ以上の寄付金がある。
しかし、このカルト宗教の教祖様という重責から逃れる事ができるのであれば、安いものだ。何なら、タダでプレゼントしてもいい。
チラリと背後に視線を向けると、屋敷神が首を横に振るのが見える。
絶対ダメという事だろう。
折角、絵空代表が救いの手を差し伸べてくれているのに、その手を振り解かなければならないなんて……。
私はなんて不幸な女なのだろうか。
絵空代表に顔を向けると、そのタイミングで屋敷神が勝手に話はじめる。
「お断わり致します。と、教祖様は言っておられます」
「!!?」
屋敷神。突然の凶行に私はピシリと固まる。
な、何を勝手な事を言ってるの?
見てみなさいよ。私の目の前にいる絵空代表が般若の様な表情を浮かべているじゃない……。
「……えっと、あなたは付き添いの方かしら? 私は教祖様に問いかけているの。何故、あなたがそれに回答するの?」
全くである。
勝手な推測を私の言葉として話さないでほしい。
「教祖様の秘書として当然の事を言ったまでです」
「当然の事ですって?」
「ええ、教祖様の異に沿わぬ事を直接、教祖様に言わせる事は教祖様に対して大変失礼に当たります。神興会は我が神を祀る神聖な教団……。それを金で買収しようだなんて言語道断です。あなたは神興会を敵に回すおつもりですか?」
屋敷神がそう言った瞬間、この部屋の空気が重くなる。
黒服は空気の変化を察したのか、懐に手を入れ何かを握る様な動きをした。
拙い。今すぐこの場所で銃撃戦でも起こりそうな空気だ。
何とかしないと……。
空気を変える為、私はテーブルに置かれた茶碗を手に取り、煎茶を啜る。
すると、ほんの少しだけ空気が和らいだ気がした。
茶碗を置き、絵空代表に視線を向けると、絵空代表が目を見開いて私の事を見ている。
どうやら気のせいだったらしい。
空気が更に重くなっている。
「……そうですか。国民政党の代表であるこの私のお願いを断ると、そう考えてもよろしいのですね?」
「ええ、問題ございません」
「……そう。それなら、この話は決裂ね」
そう言うと、絵空代表はスマートフォンを片手に取り、どこかに電話をかけ始めた。
「これは、独り言だけど……。私の夫がね。ある組織のトップを務めているの。まあ、あの金の代紋を見ればわかると思うけど……」
金の代紋に視線を向けると、そこには難しい書き方で『顕蓮組』と書かれている。
絵空代表の夫が務める組織。
まず百パーセント『顕蓮組』とかいう暴力団組織だろう。
「私を虚仮にした人がどうなるか、思い知らせてあげるわ。弱小教団の教祖様……。それにしても、中々、繋がらないわね。いつもなら直ぐ繋がるのに……」
すると、部屋の扉を開け、大勢の黒服が室内に入ってきた。
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