絵空代表との会談。苦悩する教祖①
「全く……。顕蓮会の教祖も困ったものね」
私こと、絵空琴はため息を吐く。
「その通りでございます。しかし、神興会の教祖、伊藤は今や新興宗教の中でも大きな勢力……。絵空様の票の地盤を固める為にも、欠かせぬ存在かと……」
「そうね……。まさか顕蓮会を押しのけ信仰宗教が台頭してくるとは思いもしなかったわ」
私の票はこの地を裏から治める顕蓮会により保証されている。
それが危ぶまれた今、嫌々でも神興会の教祖と交渉せねばならない。
「……神興会の伊藤様は頷いてくれるでしょうか?」
「頷いてくれないと私も困るわ……。でも、大丈夫。私には夫が付いていますから……」
私の夫は顕蓮組の組長。
新興宗教である神興会も顕蓮組には逆らえない筈だ。
それにもし歯向かってきたら、議員特権を使い潰せばいい。
立法を司る私達議員にはそれだけの力がある。
「とりあえずは、私の部屋を見せ教祖を牽制しましょうか……」
そう呟くと、神興会の教祖がこの場所に来る前に、話し合う場所を整える事にした。
◇◆◇
「な、何が……」
一体何が……。
車に揺られ国民政党の絵空代表との会談場所へと向かっている間に一体何があったというのですかぁぁぁぁ!
私こと神興会の教祖、伊藤はスマートフォンの画面を眺めながら心の中でヒステリックな悲鳴を上げた。
そんな私を見て、屋敷神と呼ばれる老人が心配そうな表情を浮かべる。
「どうされたのですか?」
「どうもこうもありません! これを見て下さい!」
そう言ってスマートフォンの画面を見せると、屋敷神は首を傾げる。
「……顕蓮会の信者を始めとした他宗教の方々が続々、神興会に改宗する事は素晴らしい事ではありませんか」
「で、ですが、これは流石に……」
不意に見てしまったスマートフォンの画面。
そこには、神興会の幹部である財前友則の報告書が映し出されていた。
怖い位の速さで増えていく信者数。
恐ろしい額となっている寄付金。
私の知らない私が起こした事になっている奇跡の数々。
信者達の想いが重い。
あまりの重圧に潰されそうだ。
「落ち着いて下さい。物事は全て順調に進んでおります」
「順調って……。これ以外にも何かが進行しているのですか!?」
そう声を荒げると屋敷神は私から視線を切った。
「まあまあ、その話は置いておきましょう。絵空代表との会談場所に到着したようです。準備はよろしいですね?」
有無を言わせぬこの対応、私を何だと思っているのだろうか。
(心の中で)言っておきますけどね。私、ただの専業主婦ですから!
専業主婦兼カルト宗教の教祖様ですから!
うう……。どういう事よ……。
一体、どういう事よっ!
なんで私ばかりこんな目に合うのよぉぉぉぉ!
思えば、こんな事になったのは、佳代子さんと沙良さんが佐藤悠斗君を連れてきた辺りからだったような気がする。
いや、財前友則さんが神興会に入信してからだっただろうか?
今からでも遅くはない。もう辞めてしまおう。
教祖様を引退しよう。私を教祖様に据えてバックレた元お友達の様に全てを投げ出して逃げてしまおう。
そうだ。それがいい。
神興会は私がいなくてもやっていける!
決意を新たに車から出ると、絵空代表の待つ一室に赴く事にした。
「教祖様、こちらで絵空代表がお待ちです」
「ええ……」
ふふふっ、屋敷神さん。
この私を止められるものなら止めて見なさい。
絵空代表には悪いけど、ここは会談をぶち壊しにして、神興会から逃げ出してやるわ!
そんな事を考えながら国民政党の絵空代表の待つ部屋に入る。
「ああ、初めまして。私、国民政党の代表を務めております絵空琴と申します。態々、おいで頂きありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ初めまして。私は神興会の教祖。伊藤と申します。本日はお招き頂き誠にありがとうございます。それにしても、随分とご立派な趣味をお持ちですね……」
私は軽く口元をヒクつかせながらそう言う。
黒塗りのソファに壁に飾られた『仁義』の額縁。
象牙の置物に、金の代紋。そして飾られた三本の日本刀。
そして、絵空代表のボディガードっぽいサングラスをかけた黒服。
表情がもう堅気の人間ではない。
まず百パーセント。暴力団の事務所だ。
「ええ、そうなんですよ。私の旦那の趣味でして……。ああ、決して暴力団関係……。なんて事はありませんよ?」
「そうですか。私も国民政党の絵空代表が暴力団と関係があるとは思っておりませんよ。それで、本日はどんな御用でしょうか?」
驚きのあまり会談をぶち壊しにして、神興会を辞める意思が挫けてしまった。
これは無理だ。これは絶対に無理だ。
というよりこの人、なんでこんな所で会談しようと思ったの?
会談ってあれよね。
面会して話し合う事よね?
脅迫しようとか思っている訳じゃないわよね??
「実は神興会の教祖様にお願いが……」
「……お願いですか?」
「ええっ。あなた……私の下につきなさい」
「はあっ?」
今、何と言ったのだろうか?
私の下につきなさいとか言わなかった?
それは一体、どういう事で??
それ、本当にお願い??
命令の間違いじゃなくて??
私が怪訝な表情を浮かべていると、絵空代表の表情が曇っていく。
「……聞こえなかったのですか?」
「えっ? そう言われましても……」
私としては下に付きたい気分で満々なのですが、御付きの屋敷神がそれを許してくれそうにないのです。
そんな事を考えながら、屋敷神に視線を向けると、屋敷神は何かを企んでそうな笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます