凋落の一途を辿る顕蓮会①
私の名は汚澤直之。顕蓮会の教祖だ。
今、私は酷く困惑している。
「……おかしいですね」
私が眉間に皺を寄せて、タブレット画面を見ていると、側近の一人が声をかけてくる。
「教祖様。何か気になる事でも?」
「ええ、考え過ぎかもしれないけど少しね……」
顕蓮会の信者を表すバッジ。それには、発信機が付けられている。
発信機はそれぞれ、普通の信者を表す青いバッジ。広域暴力団の中でも使い捨てにして構わない暴力団信者を表す赤いバッジ。広域暴力団の中でも中枢を担う信者を表す黒いバッジ。そして、情報に特化した信者を表す緑色のバッジ。
タブレット画面に視線を落とすと、神興会に赤いバッジが集まりつつあった。
神興会の教祖。そして、幹部に襲撃をかけるよう手配をしたが、どうやら様子がおかしい。各地に分散していた赤いバッジが、次々と神興会の本部へと集まっていく。
「……念の為、赤の信者に連絡を取りなさい。誰でも構いません。何故、神興会に信者達が集結しているか確認を取るのです」
「はい。畏まりました」
「……頼みましたよ」
そう言うと、側近はその場から姿を消した。
そして、数分後……。
「た、大変です。教祖様っ!」
慌てた様子の側近が乱暴に部屋の扉を開け中に入ってくる。
何が起こったかはわからないが、どうやら悪い予感が的中したらしい。
「……落ち着きなさい。何が大変なのですか?」
「は、はいっ! じ、実は赤の信者が、皆、神興会に改宗した様なのです!」
「何ですって? 赤の信者が改宗? それは一体、どういう事なのですか?」
「そ、それが、いまいちよく分からないのです。赤の信者に話を聞いても要領を得ず、訳の分からない事を繰り返すばかりでして……」
「訳の分からない事?」
「は、はい。赤の信者が言うには、神興会の神に直接お会いしたとか何とか……」
「……神興会の神ねぇ」
神なんて存在する筈がない。
例え、実際に存在するとしても、平信者の下に降臨するなんて信じがたい事態だ。
絶対にあり得ない。
「まあいいでしょう。赤の信者が顕蓮会を捨て、神興会に改宗したと言うのであれば、それはそれで構いません。顕蓮会を捨て改宗したという事は、この私の庇護下から離れたという事。信者が経営する病院に連絡をし、すぐに見せしめを行いなさい」
「み、見せしめですか……」
「ええ、聞こえなかったのですか?」
「は、はい! わかりました!」
見せしめを行うよう言いつけると、側近は直ぐに行動に移す。
赤の信者は何かしらの弱みを持つ者が多い。
家族が不治の病に罹っている者。
家族に苦しめられ帰る事ができぬ者。
金銭問題を抱えている者。
折角、顕蓮会が心の支えになっていてやったというのに恩を仇で返すとは、恩知らずな信者達だ。
こういう輩をこれ以上輩出しない為にも、見せしめは必要となる。
「しかし、赤の信者を失ったのは痛いですね。赤の信者ほど、動かしやすい駒はなかったのですが……」
一体、何が起こっているのだろうか?
今まで、信者が一斉に改宗するなんて事、起きた事はなかった。
まさか本当に神興会に神が憑いているとでも言うのだろうか?
いや、あり得ない。
首を振ると、スマートフォンを取り出し、黒の信者筆頭へと電話をかける。
「ああ、私です。赤の信者が神興会に改宗しました。あなた達にも働いて頂きますよ? 何、簡単な事です。改宗した赤の信者を脅しかけてくれたらそれでいいのですよ。ええ、わかりました。それでは、お願いしますね……」
取り敢えずはこれで良し。
後は黒の信者が勝手に片付けてくれる。
何人か、見せしめてやれば、恐れをなして顕蓮会に戻ってきたくなるだろう。
こういうのは、改宗し、他の宗派に行ったから悪い事が起きる様になったのだと思わせるのが肝心だ。
クツクツと笑みを浮かべていると、またもや、慌てた様子の側近が乱暴に部屋の扉を開け中に入ってくる。
「た、大変です。教祖様っ!」
「一体、どうされたのですか? 先ほどから慌しい……」
これでも私は忙しいのですよ?
その事をわかっていますか?
「い、いえ、見せしめを行う為、信者の経営する病院に連絡を取ったのですが、どうやら皆、病状が回復しており、つい先程、退院したと連絡が……」
「な、何ですって!? それはどういう事です!」
そんな事はあり得ない。
赤の信者の家族は皆、重篤な不治の病に罹っている者ばかり。
それにその病院は治療に主眼を置いている訳ではなく。
末期がん患者等が数ヶ月間の余命を平穏に暮らす為にケアする為の病院だ。
それなのに、なんで病気が治る?
治療をしている訳でもないのに治る訳がないだろっ!
「わ、わかりません! ただ、赤の信者達の家族は皆、退院してしまっている為、こちらで見せしめを行う事は難しく……」
「はあっ……」
私はため息を吐くと、側近を部屋から追い払う。
「あなたには失望しました。赤の信者の処理は黒の信者にやって頂きます。下がりなさい……」
「は、はいっ! 申し訳ございませんでした!」
鬱陶しい側近を部屋から追い払った私は深いため息を吐いた。
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