教祖様の苦悩
翌日、神興会はかつて無いほどのパニック状態に陥った。
昨日抜いた電話線。
それを差し込んだ瞬間から、電話が鳴り出し止まる気配がない。
「はい。こちら神興会です。えっ? 教祖様との面会ですか?」
「教祖様の邪気払いは三ヶ月先まで予約が埋まっております。えっ? じゃあ、いつなら開いているのか? は、はい。すぐに確認いたします! 少々お待ち下さいませ!」
「ああーっ! もう、どうなっているのよ!」
私と佳代子さん、紗良さんの三人で電話対応をするも、引っ切り無しに電話がかかってくる為、対応しきれない。
そして、その理由はわかっている。
昨日のニュースだ。
何故、神興会の事がニュースになったのかわからない。
しかし、それ以外に考えようがない。
電話対応が一段落すると、今度は家のチャイムが鳴り始める。
恐る恐るインターホンを確認すると、そこには多くの人が列をなして並んでいた。
「もういやああああ!」
「き、教祖様! 教祖様、お気を確かに!」
「教祖様、カモミールティーを飲んで落ち着いて下さい!」
「はあっ、はあっ、はあっ……。ありがとう。紗良さん」
私はカモミールティーをグイっと飲むと呼吸を整える。
そして、笑顔を顔に貼り付けると、佳代子さんと紗良さんに視線を送った。
佳代子さんが扉を開けると、昨日、ニュースに映っていた某有名企業の元会長が姿を現す。
「初めまして、ワシの名は財前友則。本日は、神興会の入会と邪気祓いをお願いしに参りました」
「はい。どうぞお入り下さい。まずは入信誓約書の記入をお願い申し上げます。記入が終わりましたらこちらの部屋へどうぞ……。そのまま、邪気祓いに移らせて頂きます」
「おお、教祖様自ら邪気祓いをして下さるとはありがたい。入信誓約書の記入は既に済んでおります。こちらをどうぞお納め下さい」
「はい。ありがとうございます」
どうやら入信誓約書を書いて持参してくれたようだ。
入信誓約書を確認すると、紹介者欄に名前が入っている事に気付く。
見て見ると、そこには佐藤悠斗君の名前が記入されていた。
「なっ!?」
思わず、声が漏れてしまう。
な、何故、昨日入会したばかりの佐藤悠斗君の名前が……。
まさかこんな大物の勧誘をしたというの!?
「……どうか致しましたか?」
「いえ、なんでもありません。それでは、財前友則。このベッドにうつ伏せになりなさい」
「はい。それにしても、まるで整骨院のようですな」
ええ、その通りですよ。とは言わない。
そんな事を言っても意味がないからだ。
「よく言われます。私の邪気の祓い方は少々特殊なのです」
「ほう。少々特殊ですか……」
「ええ、私は正気を纏った手で、身体を支える中心となる骨盤や背骨を整え、骨のズレ等を強制する事により、筋肉のコリや疲労をほぐし、邪気を祓う事を得意としているのです。まず体験してみればわかります。術後に邪気が身体から消え去り、爽快感が身体を巡るのが体感できる事でしょう」
「そうですか、それではよろしくお願い致します」
財前友則がマッサージベッドにうつ伏せになると、まるで整骨院の施術の様に、骨盤を整え患部を揉み解し丹念に経穴を押していく。
「こ、これは素晴らしい……。確かに、身体が清められているようだ。心なしか教祖様の手が光っているように見える」
「ふふふっ、嬉しい事を言って下さいますがそれは言い過ぎですよ。手に光が宿るなんて、そんな非科学的な……」
そんな事を考えながら手に視線を向けると、本当に手が輝いていた。
「!!!!?」
ど、どういう事っ!?
なんで私の手が発光しているの!!?
手が発光しているのは、神となった悠斗の言霊によるものである。
これにより、本当の意味で邪気を祓う事ができるようになった教祖は困惑していた。
い、意味が解らないわ。
一体、私の身に何が起こっているというの……。
手が発光している事に驚いた私が手を止めると、邪気祓いが終わったと勘違いした財前友則が身体を起こす。
「ふう。流石は教祖様ですな。本当に身体が軽くなりました」
「そ、そうですか……。それは良かった」
「それで、こちらはお礼なのですが……」
「えっ? お礼ですか??」
そう言うと、財前友則の側近がアタッシュケースを持ってくる。
言われるがままに、アタッシュケースを開けると、そこには大量の壱萬円札が詰まっていた。
「!!!!?」
思わずアタッシュケースを閉め、首を右往左往する。
どどどどっ、どういう事よ。これっ!?
なんて物を持ってきてくれているの!!
ここ、オートロックのない古い集合住宅よ!?
唖然とした表情を浮かべていると、財前友則は笑みを浮かべた。
いや、何を笑っているのこのお爺さん!?
なんだか怖いんですけど!?
「ワシは神興会の信仰する神様の神託を受けて邪気を祓いに参りました。正直、半信半疑であったのですが、教祖様の施術を受け、確信を得ました……」
いや、本当に何を言っているのこの人?
「……教祖様のお力を十全に活かす事ができれば、邪気に取り憑かれた人々を大勢救う事ができる筈。是非、ワシにもそのお手伝いをさせて下さい」
「は、はあ……」
財前友則に対し、気のない返事をした翌々日、私は都内の一等地に住居と神興会の本部を移す事になった。
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