その頃、教祖様は……
「それでは、教祖様。また明日」
「はい。佳代子さんも紗良さんもご苦労様でした。それでは、また明日……」
神興会の女性部長、佳代子さんと副部長の紗良さんを見送った私は、シャワーを浴び、肩と背中にサロンパスを貼ると、冷蔵庫に入っている缶ビールと缶つまを取り出し、グイッとビール缶を傾ける。
邪気を祓うとか何とか言って信者達の身体を指圧し続けるだけの毎日。
なんだかもう疲れてきた。
信者の殆どは老人だし、ここは整骨院じゃないのよ?
整骨院の仕事に嫌気が差して辞めたのに、これじゃあ前と変わらないじゃない!
それ所か、前より待遇が悪くなっている気がする……。
「……ふう。全く。教祖様も楽じゃないわね」
全く。邪気なんてある訳がないじゃない。
それに神棚に祀っている神様も、実はあれ超有名漫画のウイルスやビールが名前の由来となった破壊神様のフィギュアだからね?
もし神様がいるなら、まず率先して私の事を救ってほしい位だわ。
そんな事を呟きながら適当にテレビをつけると、ニュースが流れてきた。
大したニュースはやってないな。
リモコンを持つと取り敢えず、定額制動画配信サービスに切り替えようとする。
すると、少しだけ気になるニュースが流れてきた。
ニュースによると、今日、近くの病院で治る見込みのない患者全員が退院したとか、そんな報道がされている。
「へぇ~。そんな奇跡本当にあるのね~」
缶つまを食べながら、ビールを呷っていると、テレビから馴染みのある単語が聞こえてきた。
『いやはや、神興会の祀る神様のお蔭で一命を取りとめました』
『神興会には、感謝の念しかありません。明日、教祖様に会いに行ってきます』
『邪気というものは本当にあるのです! 神興会の教祖様がそれを取り除いて下さいます!』
テレビから流れる神興会という単語。
「ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ!」
思わずビールを吐き出した私は唖然とした表情を浮かべる。
「い、一体、どうなっているの??」
意味が解らない。
な、何でお友達が軽い気持ちで立ち上げた神興会がニュースでピックアップされているの!?
何だかもの凄く拙い気がする。
私は瞬時に電話線を引っこ抜くとため息を吐いた。
「はーっ、呑み過ぎね……。流石に呑み過ぎたわ……」
二百五十ミリリットル缶一本は飲み過ぎた。
酔っ払っているわ。絶対に酔っぱらっている。
そうでなければ、お友達の創り上げた新興宗教がニュースになる筈がない。
ニュースによると、最近会社を辞した某有名企業の元会長が神興会に出資するという話まで出ているらしい。
一体、何が……。
いや、本当に何が起こっているというのだろうか?
訳がわからない。
取り敢えず、私は『蒸気でホットアイマスク』を手に持つと、今日の所はもう寝る事にした。
「疲れているわね。まさか、ニュースで神興会の名前を聞く時が来るだなんて……」
絶対に夢よ。そうに違いない。
一抹の不安を抱えながら、『蒸気でホットアイマスク』を目に付けると私は一人熟睡する事にした。
◇◆◇
「おやおや、帰りが遅いと思えば……」
悠斗が帰って来ない事を心配した屋敷神が
「さて、どうする? この世界の神から大分、苦情が来ている様だが……」
「ふむ。そうですね……。どの道、神を統べる神となられた悠斗様に逆らう事のできる者などおりません。放って置きましょう」
「えっ、それでいいのか?」
屋敷神の言葉に
「ええ、悠斗様はウェークだけではなく、こちらでも信仰を集めようとしている模様……。喜ばしい事ではありませんか」
「ええっ!? それは本当に放置してもいい事なのか?」
「それはもう……。悠斗様が望むのであればね。
「そ、そうなんですか?」
「ええ、ここまで、案内ご苦労様でした。ここから先は私にお任せ下さい」
屋敷神が高らかにそう言い放つと、
「そ、そうか……。少々、不安に感じるが屋敷神がいれば大丈夫だよな?」
「ええ、安心してお待ち下さい。悪い様にはしませんよ」
「わ、わかった……。屋敷神の事を信じよう」
「ええ、任せておきなさい」
そう言うと
次元の向こう側へと消えた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます