新興宗教『神興会』②
「す、凄い……」
これが教祖様の力か……。
教祖様の施術を受ける前と後とでは、身体の調子がまるで違う。
自分の身体じゃないみたいにとても軽い。
これが邪気を祓うという事か……。
「如何ですか? これが邪気を祓うという事です」
「凄いです! まるで、俺の身体じゃないみたいに身体が軽いです!」
「そうですか。それは良かった。しかし、油断は禁物です。邪気は正気なくして祓う事ができないのですから……。邪気に当てられ身を崩す方は、この世にまだまだ存在します。あなたも正気を積み邪気を祓えるよう研鑽に励んで下さい」
「はい! わかりました!」
神興会。
なんて素晴らしい宗教なのだろうか。
悪戯好きな神様が好き勝手にアレコレしている。
どこぞの狂皇様が狂信している宗教とは大違いである。
「それでは、信者、悠斗。あなたには青年部長の位を授けます」
「青年部長の位をですか!?」
よくわからないけど、なんだか凄そうだ。
「ええ、青年部長の役割は神興会の教えを広め、思想を同じくする者を集める事にあります」
「で、でも、一体どうすればよろしいのでしょうか?」
思想を同じくする者を集めるというのは、中々、難しい様に思える。
俺にできるだろうか?
「簡単な事です。あなたに取り憑いていた邪気はこの私が祓いました。今のあなたは正気に満ち満ちております。その正気を以って邪気に悩む方々を救うのです」
「も、もっと具体的に教えて頂けませんか!? どの様な方々が邪気に取り憑かれているのでしょうか?」
「そうですね……。邪気に取り憑かれている方は様々です。自覚症状のない者もいます。しかし、邪気に取り憑かれている方の殆どは、何らかの病に苦しんでいたり、身体に不調を抱えている者が多い傾向にあります。私の場合、正気を纏った手による施術で邪気を祓いますが、あなたの場合は、あなたにできる別の方法で邪気に悩まされる方々を癒して差し上げなさい。勿論、私の下に直接導いても構いません」
なるほど、病に苦しんでいたり、身体に不調を抱えている人か……。
邪気に取り憑かれている人は多くいる。
俺がそうだったんだ。間違いない。
教祖様は『私の下に直接導いても構いません』と言っていたが、教祖様が一人一人の邪気を祓うとなると大変だ。
「わかりました! 教祖様には及びませんが、神興会の青年部長として人々の邪気を祓うお手伝いをさせて頂きたいと思います!」
「その意気です。神興会に入会して頂く際には、入信誓約書に記入して頂く事を忘れてはなりませんよ」
「はい! 教祖様。邪気を祓って頂きありがとうございます」
入信誓約書を受け取った俺は、それを手にしておばさん達と共に教祖様のいる部屋を後にした。
「おめでとう。悠斗君」
「青年部長だなんて凄いじゃない。これから一緒に神興会を盛り上げていきましょうね」
「はい! 本日はありがとうございました」
邪気が取り憑いている事を教えてくれたおばさん達に感謝の言葉を述べる。
聞いた所によると、このおばさん達は神興会の女性部長と副部長だったらしい。
簡単に言えば、神興会の幹部。
組織の中心となる人達だったみたいだ。
そして神興会は、邪気に苦しむ人々を救う為に、教祖の伊藤様が立ち上げた新興宗教らしい。
仮入信にお金はかからず、年会費もない。
どの様に運営しているのか尋ねて見ると、正入信者の『御神体供養』による寄付と『神興新聞』の購読料で神興会の運営資金を賄っている様だ。
因みに正入信する事で、毎月一度、教祖様の正気の一部を分けて貰う事ができるらしい。
俺の場合、未成年であった為か、成人するまでは仮入信扱い。
早く成人して正入信したいものだ。
まあ、その話は置いておこう。
折角、教祖様より青年部長の位を頂いたんだ。
神興会の青年部長として、人々に取り憑いた邪気を祓い、神興会を布教しなければ。
となれば、早速、行動に移そう。
俺にはまだ人々に取り憑いた邪気を見る事はできない。
しかし、邪気に取り憑かれた人の特徴については、教祖様より直々に教えて頂いた。
要はアレだ。
病気に苦しんでいる人、全員が邪気に取り憑かれていると、そういう事だろう。
それなら話は早い。
俺は『影探知』で、この辺りにいる邪気に取り憑かれていそうな人を探知していく。
すると、近くで、苦しみ倒れ込む人を探知した。
『影転移』でその場に急行すると、おばあさんが胸に手を当て倒れ込んでいる。
「おばあさん! 大丈夫ですか!?」
近くによりそう呼びかけるも、おばあさんは呻くばかりで返事をする余力はなさそうだ。
これは相当大きな邪気に取り憑かれていると見て間違いない。
勿論、邪気が取り憑いた事により病状が悪化し、この様な状況に陥っているのだろうという意味合いだ。
つまり、今、病気を治しても邪気を祓わない事には根治しない。
とはいえ、このまま放っておく事もできない。
邪気を祓うのは教祖様に任せるとして、今はこのおばあさんを助ける事に集中しよう。
俺はおばあさんに『聖属性魔法』をかける事にした。
『聖属性魔法』は人を助けるのに最適な魔法だ。邪気を祓う事はできなくても、おばあさんを苦しめる病気を治す事位はできる。
「おばあさん。大丈夫ですか?」
「し、心臓が……。心臓が……痛くない?」
『聖属性魔法』をかけられたのは初めてなのだろう。
おばあさんが驚いた表情を浮かべている。
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