第二ラウンド①

「な、何故っ……」


 ど、どういう事だ……。

 ロキはワシのグングニルと、トールのミョルニルの力で確実に葬った筈……。

 死んでいる事も間違いなく確認した。


「何故って言われてもねえ?」


 ロキはそう楽観的に呟くと、王座から立ち上がる。

 そして、軽く蹴伸びをすると笑みを浮かべた。


「君、まさかボクの力があの程度だと本気で思っていたの?」

「な、何っ? ワ、ワシとトールの二人掛りでお前の相手をしたのだぞ!」


 すると、ロキはため息を吐いた。

 ため息のつき方がこなれ過ぎていて、一々癇に障る。


「ふ~ん。でも倒せてないじゃん♪ オーディン、君の力はそこまで落ちてしまったんだね♪」

「き、貴様ぁぁぁぁ!」


 そういって、グングニルでロキを刺し貫くと、ロキの姿が黒くなりそのまま影に消えていく。


「どこだっ! どこへ行ったぁ! この卑怯者めっ! さっさと出てこい!」


 叫びながらグングニルを振り、辺りの物を壊して回ると、『ガシャン』と音を立てて、窓にトールが突っ込んでくる。


「親父っ! この国、なんだか様子がおかしいぜ! 人間が影に……皆、溶けるように消えちまった!」

「何っ!? どういう事だっ!」


 ワシがトールに向かってそう叫ぶと、どこからともなくロキの声が聞こえてくる。


『君達の力は全て視させて貰ったよ♪ どうやらあれが君達の持つ力の全てみたいだね♪』


「この声……ロキか! どこだ! どこにいる!」


『安心して、すぐに会えるよ♪ それじゃあ、第二ラウンドを行うに相応しい場所に転移させるね♪』


「な、何っ!」


 ロキがそう呟くと、足元の影が広がり、周囲が黒一色に染まっていく。

 気付いた時には外にいた。


「ど、どういう事だ……一体何が……」

「お、親父……」

「なんだ? 一体どうした……なぁ! なにぃ!」


 トールに呼ばれて振り向くと、そこには防壁に覆われたフェロー王国があった。

 フェロー王国を護るように数多の天使が配置されており、倒した筈の熾天使ラファエルやサマエル、今度は大天使カマエルまでいる。

 いや、それだけではない。

 屋敷神に土地神、鎮守神に紙祖神、猿田毘古神まで……。


 錚々たる面々に唖然とした表情を浮かべていると、ロキの声が頭に響いてくる。


『さあ、それじゃあ、第二ラウンド開始だよ♪ 今度はこの国を支配する事ができるかな?』


 ロキが頭に声を響かせると、一斉に天使がこちらに向かって飛んでくる。


「ふ、ふふふふっ……ふざけるなぁぁぁぁ!」


 なんだこれは、ワシは確かにフェロー王国を蹂躙した筈。なのに何故……何故、何故、元通りに戻っている!?

 ワシが混乱していると、トールのミョルニルが天使達に雷撃を走らせる。


「親父! そんな事を言っている場合じゃねぇ!」

「……ああ、そうであったな」


 確かに、そんな事を言っている場合ではない。

 見た所、ワルキューレや英霊の乗り移った死兵は無事のようだ。

 それならば問題ない。


「フェロー王国を蹂躙せよ!」


 ワシがそう叫ぶと、ワルキューレと死兵が天使に向かって殺到していく。


「親父! あいつら、後ろにあるフェロー王国を護っている。それなら……」

「ああ、もう一度お前の力を見せてやれ!」

「よし……いくぜっ! 雷鳴と共に俺の名を刻みなっ!」


 トールは黒い山羊の引く戦車に乗り込み、宙に浮かび上がると、天使達の後ろに控えるフェロー王国全土を積乱雲が覆っていく。

 そして、トールが神器『ミョルニル』を振り下ろすと、フェロー王国全土に向け雷の柱が降り注いだ。


「な、なにっ!? どういう事だっ! 何故、フェロー王国を護らない!?」


 何かがおかしい。

 しかし、その何かがわからない。


『あー! まさか、国に雷を落とすなんて、なんて事をー。もうこれは許さないぞー! そんな悪い奴らには鉄槌を下してやるー』


「ぐっ……ロキの奴、馬鹿にしおって……」


 なんだ今の棒読みの様なセリフは! ふざけおって……。


 ロキの言葉に憤りを感じていると、フェロー王国を護る天使達の向こう側に、全身を黒い影で覆ったかのような人間が現れた。

 その人間は、両肩に鳥を乗せ敵サイドの神と何かを話している。


 一体なんだアレは……それにしても、あの鳥どこかで見た様な……。


 戦いの最中ではあるが、妙に気になる。

 ゲリとフレキ引く戦車に乗り込むと、王座に座り敵サイドの状況を確認する。

 すると、そこには、もう会えぬと思っていた一対の渡鴉『フギンとムニン』がそこにいた。


「フフフ、フギンとムニン!?」


 生きていたのか?

 いや、それよりなんであんなに懐いている!?

 真っ黒ではないか!

 人間かどうかもわからない真っ黒な奴に何故そうも懐いている!?


「い、いやいやいやいや、そんな事を言っている場合ではない! ワルキューレに英霊達よ! フギンとムニンを奪い返せ!」


 ワシがそう命令すると、ワルキューレ達は天使達を屠りながらフギンとムニンを誑かすあの黒い人間?の下に一直線に向かっていく。


 するとまたもやロキから茶々が入る。


『あーあ、それは悪手だよ? 悠斗様は臆病だから、そんな事をすれば……』


「はぁ?」


 すると突然、ワルキューレと英霊達が持つ武器が光を放ち大爆発を引き起こした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る