グランドマスターとの話し合い③

「えっと、屋敷神も話し合いに参加してくれないかな?」


 俺がそういうと屋敷神は微笑を浮かべた。


「勿論です。相手は冒険者ギルドのグランドマスター。微力ながらお役に立てればと思います」

「うん。ありがとう」


 取り敢えず、屋敷神が話し合いに参加してくれるなら安心だ。

 相手はグランドマスターと、ギルドマスター。

 譲歩する必要はないとわかっているけど、俺一人で話し合いに参加し、情に絆されたらどうなるかわからない。

 その点、屋敷神なら淡々と物事を進めてくれそうだ。


 そんな事を考えていると、グランドマスター達の来訪を告げるチャイムが鳴った。


「……お越しになられた様ですね。それでは悠斗様はこちらでお待ち下さい。彼等を客間にお通しした後に、迎えに上がります」


「うん。わかった」


 いよいよ、グランドマスターとの対面か……。

 なんだか緊張してきた。


 緊張を紛らわす為、お茶を飲んで待っていると、屋敷神が迎えにきた。


「お待たせ致しました。それでは、参りましょう」

「う、うん」


 屋敷神と共に客間に向かうと、そこには草臥くたびれた表情を浮かべた二人の男が直立不動の姿勢で待っていた。


 一人はフェロー王国王都支部のギルドマスター、モルトバ。そして、もう一人が冒険者ギルドのグランドマスターなのだろう。双方共に相当心労が溜まっている様だ。

 眼の下にクマを浮かべ、心なしかゲッソリしている様に見える。


「お待たせ致しました。悠斗様、こちらは冒険者ギルドのグランドマスター、グラン様とギルドマスターのモルトバ様です」


 客室に入って早々、屋敷神がそう呟く。


「ご紹介に預かりましたグランです。モルトバ共々、本日は、話し合いの機会を頂き、ありがとうございます」

「いえいえ、こちらも冒険者ギルドの方とはもう一度話をする必要があると思っておりましたので……立ち話はなんですので、まずはお座り下さい」

「いえ、私達はこのままで結構です」


 いや、そんな事を言われても困る。

 立ちっぱなしで話し合いをするのはごめんだ。


「話し合いに移る前にまずは謝罪をさせて下さい。モルトバが、悠斗様にお掛けしたご迷惑の数々、申し訳ございませんでした」

「……申し訳ございませんでした」


 横からチラリと見えるその表情は本当に反省している様に見える。


 しかし、俺は騙されない。


 考えてみれば当たり前の事だ。

 最初に渡した白金貨百万枚を含む白金貨二千百万枚の賠償金、これが謝罪一つでチャラにできれば、それに越した事はない。


 一度謝罪し、俺の溜飲を下げた所で譲歩を引き出したいのだろう。

 しかし、俺は譲歩しない。

 というか、今の所、その理由がない。


 そもそも、悪い事をしたら謝罪するのは当然の事だし、謝罪して万が一、俺がそれを受け入れたからといって、譲歩する理由には成り得ないのだ。


 俺が困惑の表情を浮かべていると、屋敷神がグラン達に話しかける。


「まあまあ、まずは頭を上げてお座り下さい。謝罪は受け入れましょう」

「ほ、本当ですかっ! あ、ありがとうございます!」


 屋敷神の言葉にグラン達は喜色の表情を浮かべながら顔を上げる。


「いえいえ、お礼を言われる程の事ではありません。さて、謝罪を済ませた所で、改めて話し合いを始めましょうか。まずは席にお掛け下さい。その上で、今回の件に関するグラン様の見解を聞かせて頂きましょう」


 屋敷神がそう言うと、場の空気が凍りつく。

 そう言えば、場の空気が凍りつく事をわかっていてやっているのかどうかは不明だが、流石は屋敷神、容赦がない。いきなりその話に斬り込むとは……。


 グランは額にかいた汗を拭きながら、屋敷神に向かって話しかける。


「ワシの……いえ、私の見解と致しましては、今回の件は、全面的にこちらに非があると考えております。つきましては、御商会より受け取った白金貨百万枚の返還と、賠償金の白金貨二千万枚を支払いを近日中にさせて頂きたく考えております」

「ほう。それは気前がいいですね。冒険者ギルドとして、白金貨二千百万枚を一度に拠出して問題ないのですか?」

「……そうですね。白金貨二千百万枚の拠出は痛いですが、商人連合国アキンドの評議員を敵に回したくはありませんので……」


 おお、流石は冒険者ギルド本部のグランドマスター。

 モルトバとは格が違う。

 白金貨二千百万枚をポンと出してくるとは思わなかった。


「そうですか。白金貨の返還、そして賠償金の支払いについてはわかりました。受け取り次第、領収証をお渡し致しましょう」

「はい。よろしくお願い申し上げます」

「ああ、そういえば、折角、茶菓子を用意したのです。どうぞ、お召し上がり下さい。その饅頭は当商会の人気商品なんですよ?」

「ほう。そうなんですか。それは楽しみだ……」


 グランがテーブルに置かれた切腹饅頭に視線を向けると、笑顔を浮かべたまま固まった。


「な、中々、ユニークな名称の饅頭ですね。せ、切腹饅頭ですか……」

「はい。腹を割って話し合いをする時の茶菓子として、とても重宝されているのですよ?」

「そ、そうなんですか……」

「はい。そういえば、モルトバ様の処分はどうされるおつもりですか?」

「モ、モルトバの処分ですか?」


 そう問いかけられたグランは頬に汗を浮かべる。


「これ程の事を仕出かしたのです。冒険者ギルド本部としてモルトバ様をどの様に処分するつもりなのか気になるではありませんか」


 屋敷神はそう笑顔で呟くと、和菓子切で切腹饅頭の腹に斬り込みを入れた。

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