グランドマスター来訪①

 冒険者ギルド本部から馬車を走らせる事、十日。

 フェロー王国の王都に辿り着いたワシは早速、冒険者ギルドフェロー王国王都支部に向かう事にした。


「ここがフェロー王国の王都か、随分と雰囲気が変わったな……商人達が逃げ出したと聞いていたのだが」


 フェロー王国の前国王がユートピア商会の土地を接収した事から始まった騒動は耳に新しい。

 それをまあ、よくここまで立て直す事ができたものだ。


『グラン様、冒険者ギルドに到着致しました。しかし、これは……』


 どうやら冒険者ギルドに到着した様だ。

 御者がそう声をかけてくる。


「うむ」


 ワシはそう返事をすると、馬車から降り冒険者ギルドの建物に視線を向ける。

 すると、そこには建物をキャンパス代わりにストリートアートが描かれ、ペンキ塗れとなった冒険者ギルドの姿がそこにあった。


「あ、あがっ……なぁ、なんだこれはぁぁぁぁ!」


 冒険者ギルドの前には、冒険者と思われる浮浪者が屯し、中から人が出てくるのを今か今かと待ち構えている様に見える。


 お、落ち着けワシ……。

 まずは状況整理からだ。状況整理から始めよう。

 な、何が……冒険者ギルドに一体何が起こっている。

 どうしたら、冒険者ギルドがこんな事になるんだ。

 普通に考えてあり得ないだろう。


 すると、一人の冒険者と目が合った。

 冒険者はゆっくり立ち上がると、フラフラとした足取りで、睨み付けてくる。


「ああ? なんだ、おっさん……その馬車に描かれた紋様。もしかして、冒険者ギルド関係者か?」


 なんだコイツは?

 い、いや、そんな事よりも、どういう状況だ??

 何故、冒険者ギルドの建物がペンキ塗れになっている。


「おい、おっさんっ! 俺の話を聞いてるのかよっ!」


 おお、いかんいかん。

 あまりにショッキングな光景に思わず現実逃避してしまった。


「……ああ、ワシは冒険者ギルド本部から来たグランドマスターのグランだ。ギルドマスターのモルトバはどうした? 君達は一体何をしている」

「モルトバのクソ野郎はギルドの中だよっ! あんた冒険者ギルドのグランドマスターなんだろっ!? だったらなんで、なんで仲間を借金奴隷に堕としたっ! なんで冒険者ギルドは、そんな馬鹿な事を許したんだっ!」

「……な、仲間を借金奴隷として売り飛ばした? そ、それは冒険者を奴隷商人に借金奴隷として引き渡したという事か?」

「そうだっ! あのクソ野郎、白金貨を配り始めたかと思えば、突然、それを返せと言いだして、返せない奴を捕らえ、借金奴隷に堕としやがったんだよっ!」


 言っている意味がわからん。

 白金貨を配り始めたかと思えば、それを突然回収し、返せない者を借金奴隷に堕とすだと??


 本当に今、冒険者ギルドで何が起こっているのだ。


「……君の言い分はわかった。モルトバの奴は中にいるのだろう? ワシが直接話をつけてくる。君達は、そのままそこにいろ。間違っても、ワシの後を付いてくるんじゃないぞ?」

「あっ? 冒険者ギルドの中に入るだって? そんなの無理に決まってるだろっ!」

「ふむ。確かに普通に入るのは難しいかもな……」


 冒険者ギルドの建物は有事に備えて強固に作られてる。

 建物に剣戟を浴びせようが、火をつけようが全く意味を成さない。


「まあ、ワシに任せておけ」


 そういうと、ワシは『魔法の鞄』からマスターキーを取り出した。

 このマスターキーがあれば、冒険者ギルドの扉の鍵を開ける事ができる。


 冒険者ギルドの入り口に近付くにつれ、建物の周りに屯している冒険者達の視線が険しくなっていく。


 しかし、今、冒険者に構っている時間はない。

 建物の扉の鍵を開け、中にいるモルトバと話をしなくてはならない。


 ワシが取り出したマスターキーで、扉の鍵を開けると、冒険者達が立ち上がる。


「おい、おっさん。ご苦労だったなっ。あとの事は俺達に任せなよ」

「そうそう。どうせ中にはモルトバのクソ野郎しかいないんだ」

「俺達は、モルトバの野郎に借金奴隷にされた仲間達を取り戻す義務があるんだよ」

「そんな訳だから、まあ、そこをどけや、な?」


「はぁ……」


 ワシがそうため息を吐くと、冒険者達は怒りの形相を浮かべた。


「……駄目だ。ワシ以外の者を冒険者ギルドの中には入らせない。君達はここで待っていろ」

「なんでだよっ!」

「当り前だろう。君達が付いてきたのでは、話し合いにならないではないか」

「だ、だが、しかしよぉ!」

「ワシは言った筈だ。ワシに任せておけと……これでも、ワシは冒険者ギルドを纏めるグランドマスターだ。ギルドマスターの起こした不祥事はワシにも責任がある。有耶無耶にするつもりは一切ないから安心してほしい。それでは駄目か?」


「いや、それなら……仕方がねーなっ!」

「まあ、任せておけ」


 ワシはそう返事をすると、マスターキーで冒険者ギルドの扉を開ける。

 そして、余計な邪魔が入らぬよう、扉の鍵を再度閉めると、モルトバがいるであろうギルドマスター室に向かう事にした。


「確か、ギルドマスター室は二階だったな……」


 冒険者ギルドの中は真っ暗だった。

 一階を見渡してみると、書類が彼方此方に散乱している。

 一体何があったのだろうか?

 念の為、剣を抜き警戒しながら二階に続く階段を上がっていくと、ギルドマスター室に光が灯っているのが見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る