ボルウォイ領②
「ああ、ああっ……まったく、まったく、まったく、まったく何という事をしてくれたのでしょうか。ロプト神様に、私はロプト神様に何と申し開きをしたらよろしいのでしょう……」
ソテルの胸中を体現するかの様に雷が鳴り響いたかと思えば、雷が近くの木々を穿ち、ソテルを中心として禍々しい程濃密な魔力がその場を支配する。
「ああ、ああっ……あなた方……もうタダでは済まされませんよ?」
「あ、ああっ……た、助けて、誰か……誰かっ……」
「あら……あらあらあらあらっ? まさか、あなた方……何の覚悟もなくこの様な事をしていたのですか? まさか、まさか、まさか、まさかっ。そんな事はありませんよね?」
ソテルの真っ赤に染まった眼光に冒険者達は恐怖し、涙を流して懇願する。
「ち、違っ……俺達は冒険者ギルドからの依頼でっ……ほ、本当はこんな事やりたくはなかったんだっ! だ、だけど、こいつ等があ、あまりにも、あまりにもいい反応をするからっ……」
「馬鹿野郎っ! 何を言っているんだ! 違う。俺は違いますっ! 楽しんでいたのはこいつだけで……俺達は違うんですっ!」
冒険者達の弁解にソテルは、血の涙を流しながら憤怒の表情を浮かべた。
「……違いません。何も違いません。そう、何も違わないのです……わかりますか? あなた方にわかりますか?? どれだけ、この私がどれだけ……あなた方の行いにより、この私を信頼し任せて下さったロプト神様の御心を踏みにじってしまった事に心を痛めているのかを……本当に理解していますかっ!?」
「うっ、な、何を……やめ、止めて、止めっ……あぎゃあああああっ! 手がっ! 俺の手がぁぁぁぁ!」
ソテルはどこからともなく杭を取り出すと、感情のままに言い訳ばかりを繰り返す冒険者の左手を貫いた。
「ああ、ああっ! ロプト神様っ! 申し訳ございません。申し訳ございませんっ! この罪深き者共は全員、不朽体と化して、未来永劫身体が朽ち果て塵芥となるまでの間、ロキ様に身を捧げさせます。ですので、どうか、どうか……」
「あ、ああ、嫌だっ……嫌だぁぁぁぁ!」
ソテルの狂気に当てられた冒険者がその場から逃げようとすると、ソテルの側に控えていた不朽体がそれを取り押さえていく。
「離せっ! 離せぇぇぇぇ!」
「……あ、ああっ?」
この場から逃げようとした冒険者を眼下に収めると、ソテルは血の涙を手で拭い、冒険者の顔を両手で掴んだ。
「あなた、まさか……まさか、罪も償わず、この場から逃げようとしたのですか?」
ソテルの手には、ソテル自身の血がベットリと付いている。
その手で顔を掴まれ、顔を撫でられた冒険者は、あまりの恐怖に失禁しながら歯を震わせた。
「あ、ああっ、お、お助けをっ……」
「助け? 何故、あなたが助けを求めるのです? 何故、私に助けを求めるのです??」
「いや、違っ……」
「そう。違うでしょう。違うでしょう。違うでしょう。違うでしょう! ……おや、もう終わってしまったようですね?」
ソテルはそう言いながら横を振り向く。
冒険者の一人がつられて振り向くと、そこには凄惨な光景が浮かんでいた。
「不朽体に冒険者達の処理を任せましたが、思いの外早く、塵芥の鎮圧が済んだようですね……」
「あ、あ、ああっ……」
冒険者が振り向くと、そこには冒険者達の執拗な暴行により死の淵にあったスラム街に住む住民達とは打って変わり、血塗れになりながら地面に磔にされている冒険者達の姿が目に映った。
「安心なさい。あなた方もすぐに仲間に加えてあげますよ? あなたも心配でしょう……自分だけが、塵芥と同じ目に遭っていないのは……」
ソテルはどこからともなく取り出した杭を両手に持つと、口を大きく歪める。
「……懺悔の時です。あなたも、そこに磔にされている塵芥と同様、手足に杭を打ち込み、痛みに苛まれながら、後悔の念を胸の内に秘め、ロプト神様に祈りなさい……」
「あ……嫌だっ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だぁぁぁぁ……あぎゃあああああっ!」
これ以上悪さのできない様、目の前にいる冒険者達の手足に杭を打ち込むと、ソテルの側にロキが舞い降りた。
「はぁ~。なんだか嫌になっちゃうね? 人間が人間を区別し、差別する世界。この世界の主神はこのボクなのに、これじゃあボクの品性まで疑われちゃうよ。ねえ、ソテル。君もそう思うでしょ?」
ロキに話しかけられた聖モンテ教会の教皇にして、ロキの第一使徒ソテルは、目を爛々と輝かせ、嬉々とした表情を浮かべながら頷いた。
「ええ、ええっ! ロプト神様の仰る通りです。冒険者等という塵芥如きが、ロプト神様の御言葉を蔑ろにし、無辜の民に襲い掛かるなんて、不信心な……全く許せません」
「いや、そういう事をいってる訳じゃないんだけど……まあいいか♪」
そういうソテルの足下には、苦しそうに呻く、半生半死となった冒険者達の姿があった。
スラム街には、ロキの力により不朽体と化した元教皇や枢機卿、異端審問官達が陣取り、冒険者達の行いにより怪我をしたスラム街の住民達の保護に努めている。
ロキは地面に伏している冒険者達に視線を向けると、一つ質問を投げかける事にした。
「さて、君達に聞きたい事があるんだけど、君達はなんでスラム街の人々に危害を加えていたのかな? 誰かの命令? それとも、君達の意思でそうしたのかな?」
「うっ……ううっ……」
ロキがそう質問するも、冒険者達は呻き声を上げるだけで返事をしようとする気配がない。
すると、ソテルが憤怒の表情を浮かべながら地に伏す冒険者の頭を掴んだ。
そして、冒険者の顔に自分の顔を近付けると、目を見開き呪詛を吐き出すかのように声を上げる。
「あなた……何故、ロプト神様に話しかけられて返事をしないのですか? 何故、あなた如き塵芥がロプト神様に声をかけて頂いているのですか? 何故、あなたは、ロプト神様に直接声をかけて頂いて無言でいられるのですか?? あなた如きが、あなた如きが、あなた如きがっ、いけません……いけません。ロプト神様の質問を無視するなど、あってはならない事です。そうでしょう? そうでしょう?? 何とか言ったらどうなのです?」
「あっ……ああっ、も、もうやべでぐで……」
そういうと、ソテルは何度も何度も、冒険者の顔を地面に向かって打ち付けた。
「ああ、ああっ! 違います。違いますっ! ああ、ああっ……」
(ガスッ!)
「そういう事を言っている訳ではないのです。ロプト神様の質問を無視し、あまつさえ聞いてもない事を答えるだなんて……」
(ガスッ!)
「いけません。いけませんっ!」
(ガスッ!)
「あら? あらあらあらあらっ? どうしたのですか。どうしたのですか? 大変です。こんなに血を流して、一体どうしたのです?」
ソテルが冒険者の顔を覗き込むと、白目を剥いて失神している。
どうやら、数度、顔を地面に打ち付けた事で失神してしまった様だ。
「ああ、ああっ……ご自分達がスラム街の人々に行っていた事をそのままやって差し上げただけでしたのに気絶してしまいましたか……これでは、ロプト神様の質問に回答させる事ができません。ああ、ああっ! ロプト神様、不甲斐ない私をお許し下さい……」
手を血で染め、涙を流し赦しを請うソテルの姿に、流石のロキもドン引きしてしまう。
「……う、うん。いいよ、ソテル。君は一切悪くない。それじゃあ、その調子で他の冒険者達にも話を聞いて見ようか。彼の末路を見たからには、無駄口を叩かず、素直に質問に答えてくれるかもしれないしね♪」
ロキがソテルに笑顔を向けると、ソテルは涙を流しながら歓喜する。
「ああ、ああっ! 不甲斐ない私にも慈悲を下さり、ありがとうございます。ありがとうございます!」
そして、地に伏す冒険者達に視線を向けると、口を大きく歪めながら呟いた。
「……それでは」
「次の人、行ってみようか♪」
ロキとソテルの呟きに冒険者達は絶望的な表情を浮かべた。
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