ボルウォイ領①
フェロー王国ボルウォイ領にあるスラム街。
ここでは今、三組の冒険者パーティーによるスラム街の掃討作戦が行われていた。
「おらおら! スラムの連中はここから立ち去れっ!」
「そ、そんなっ! ここを追い出されたら、私達にはもう行く宛なんてないんですっ!」
「そうだよっ……僕達の居場所を奪わないで!」
冒険者達による容赦ない暴行に耐えながら、懇願するスラム街の住民達。
冒険者達は、そんなスラム街の住民達を一瞥すると、スラム街から追い出す為に、容赦ない暴行を加えていく。
「そんな事、俺の知った事かよっ! お前達がスラムに居座るから悪いんだろうがっ! おら、ガキ! 邪魔なんだよ! サッサと退け!」
「な、なんでこんな酷い事ができるんだっ! この子達はまだ子供だぞ!」
「そんな事は知らねえよ! こっちは冒険者ギルドからの依頼できているんだっ! そこまで荒っぽい事はしちゃいないだろっ? 優しく立ち退かせているだけありがたいと思えっ!」
「はっ! よく言うぜ!」
「何を言っていやがる。何も違わねぇよ。冒険者ギルドからの依頼はスラム街に住む人々の立ち退き。それ以外、何も書かれちゃいねぇ。まあ国外じゃ疫病が流行っているからなぁ。疫病が流行りやすい環境にあるスラム街を整備したいんだろ」
「おっ? そういえばそうだな」
「そういやぁ、立ち退かせ方に指定はなかったわ!」
冒険者達はスラムの住民達を殴り飛ばすと、倒れた住民を引き摺り、荷台に乗せていく。
「だろう? それに、どうせに馬車に乗せて国外に捨てに行くんだ。今、死んでも構うこたぁねーよ」
「それもそうだな、なあ坊主。お前はどう思う?」
「ぼ、僕は……」
冒険者の一人が、近くにいた子供の頭を掴むと無理矢理転ばせる。そして、子供が何かを話そうとすると、笑い顔を浮かべながら、そのまま子供の顔面を地面に打ち据えた。
「はあっ? 聞こえねーよ!」
「……も、もう止め……」
「聞こえねーって、言っているんだよっ!」
そして、もう一度、子供の顔面を地面に打ち据える為、手に力を入れると、その手をそっと掴む者が現れた。
「はあっ!? なんだテメェは……!?」
急に水を差された冒険者が怒り心頭な表情を浮かべながら振り向くと、そこには白色のキャソックを纏った聖モンテ教会の教皇ソテルが立っていた。
「あら? あらあらあらあら? あなたは今、その子供に何をしようとしたのですか……ロキ様の召還に応じてボルウォイ領に来たのですが……随分と、大変な事になっている様ですね……それで、もう一度だけ聞きます。あなた方は一体何をしているのです?」
ソテルの狂気に染まった視線に恐怖を覚えた冒険者は、驚愕の表情を浮かべる。
「な、何でこんな所に、聖モンテ教会の教皇が……ち、違う! 俺達は冒険者ギルドの依頼でスラム街の住民達を立ち退かせようとっ……」
冒険者の言葉を聞いたソテルは、冒険者が片手で掴む子供の頭に視線を向けると、更に質問を重ねた。
「では、その手に掴んでいる子供は何です? 冒険者ギルドがスラム街の住民達を立ち退かせるのに、その行為は必要な事なのでしょうか?」
「い、いや、これはっ……」
ソテルにそう諭された冒険者は、咄嗟に掴んでいた子供の頭を放した。
冒険者が乱暴に放した為か、子供は頭から血を流し、うつ伏せになったまま動かなくなってしまう。
「ノーマン、この子の手当てを……お前達はロキ様がこちらに来られる前に、この暴動を鎮めなさい。ああ、そこに積まれている住民達の手当ても忘れない様に……彼等にはロプト神様の為に働いて貰うという使命があります。決して、誰一人として死なせてはなりませんよ?」
「「「はい」」」
ソテルがそういうと、後ろに控えていたノーマンと、不朽体と化した元教皇、枢機卿、そして異端審問官達が動き出す。
そして、冒険者達を一瞥すると、ソテルは立ち上がり憤怒の表情を浮かべた。
「ああ、ああっ! なんという事でしょう。なんという事でしょう! 久しぶりにロプト神様とお会いする機会を頂いたというのに、全て台無しっ! あなた方のお蔭で台無しですっ! どうしてくれるのです? どうしてくれるのです! あなた方が害をなした方々は、この世界の偉大なる主神ロプト神様が、その庇護に収めると決めた迷える子羊達……それをあなた方は……あなた方は踏みにじったのです!」
「い、いや、俺達はっ……俺達は知らなかったんだっ! 教会が関わってると知れば、誰がこんな事をっ!?」
「知らなかったで済む話ではありません……私はロプト神様よりボルウォイ領、クノイ領そしてスヴロイ領のスラム街に住む無辜の民達の保護を命じられました……」
ソテルは目から血を流すと、真っ赤に染まった眼球をギョロリと向け、冒険者を睨み付ける。
「なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのにっ! ここに来て見れば、その無辜の民をあなた方が暴行し、死の淵にまで追いやっているではありませんかっ! こんな事、到底赦される事ではありません! 赦される事ではありませんっ!!」
「ち、違う……違うんだっ! 俺は、俺達は、ただっ!」
「……何も違いません。あなた方の行った行動は、私を信頼して下さったロプト神様の心を踏みにじり、私の評価を貶める非常に腹立たしい行為……こうも、スラム街が荒らされ、住民達に危害を加えられては、もう弁解も聞きません……ああ、ああっ! なんという事を……なんという事をしてくれたのでしょうかっ……」
ソテルがそう絶叫を上げると、スラムに暗雲が立ち込めてきた。
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