冒険者ギルドでの話し合い

「えっと……屋敷神? あんなこと書いた手紙を渡して本当に大丈夫なの?」

「はい。我々に非はなく、冒険者ギルド側の認識不足は明らかです。随分と惚けた性格のギルドマスターの様でしたので、あの様に全てを否定し、むしろ賠償金を請求しますよと、優しく教えて差し上げる位が丁度いいかと思いまして……」

「う、うん。まあ屋敷神が言うんだからそうなんだろうけど……」


 不安だ。

 屋敷神のいう事は最もなんだけど、こちら側から喧嘩を売った事にされていないだろうか?


 本当に不安だ。


「そういえば、悠斗様にご報告があります」

「報告?」


 なんだろう?


「冒険者ギルドがヴォーアル迷宮の攻略者を探しております」

「ヴォーアル迷宮の攻略者を? なんで今になって……」


 ヴォーアル迷宮を支配下においてから一月は経過している。今になって探す意味がわからない。


「単純に気付かなかっただけでしょう。全くお粗末な話です。悠斗様がヴォーアル迷宮を攻略してから一月経過しておりますので大丈夫かと思いますが、念の為ご留意下さい」

「うん。わかった」


 俺がヴォーアル迷宮を攻略した事が知れれば大変な事になる。まあヴォーアル迷宮は『影転移』で出入りしているし、レベル上げをする気もないからバレる事もないだろう。


 しかし、用心するに越した事はない。

 暫くの間、大人しくしていた方が良さそうだ。


 そんな事を考えていると、来客を知らせるチャイムが邸宅内に鳴り響く。


「誰だろう? また冒険者ギルドの人かな?」

「ええ、おそらくは……」


 すると土地神が冒険者ギルドの職員から受け取った書状を持ってやってきた。


「悠斗様、冒険者ギルドから書状が届きました」

「うん。ありがとう」

「いえ、それでは私はこれで失礼致します」


 土地神から書状を受け取ると、早速中身に目を通していく。そこには、一度冒険者ギルドで話し合いたいと面会の日程が書き記されていた。


「明日十時に冒険者ギルドで話し合いたいって書いてあるんだけど、どうしようか?」

「紙に記してもご理解頂けなかった様ですね。仕方がありません。当日は私も冒険者ギルドに立ち会いましょう」


 そうしてくれると、とても助かる。

 何せ、あの文章を書いたのは俺ではない。

 他でもない屋敷神が書いたのだから……。


「うん。ありがとう」


 しかし、何を話し合う気なんだろうか。

 相手は冒険者ギルドのギルドマスター。

 とても嫌な予感がする。


 翌日、屋敷神と共に冒険者ギルドを訪れると、到着してすぐギルドマスター室へと通された。

 受付のお姉さんの案内でギルドマスター室に入ると、新しく着任したギルドマスター、モルトバが話しかけてくる。


「やあ、久しぶりだね、悠斗君。元気にしていたかな? それにしても驚いたよ。まさか君がSランク冒険者になっているだなんてね。しかもユートピア商会の会頭もやっているそうじゃないか! いやはや、羨ましい限りだよ」


 いや、誰だこの人?

 何故だか知らないが滅茶苦茶馴れ馴れしい態度で話してくる。

 全然知らない人なんですけど??


 とはいえ、面と向かって『どちら様でしょうか』と聞くのも憚れる。

 そう考えてた俺は当たり障りのない挨拶をする事にした。


「えっと、お久しぶりです。モルトバさんもお元気そうで何よりです。それで、話し合いたい事とは一体なんでしょうか?」


 俺がそう話を振るとモルトバはソファーに視線を向ける。


「まあそうだな、まずはソファーに掛けてくれ」


 俺達はモルトバに言われた通りソファーに腰を下ろす。

 そしてモルトバが対面に座ると早速、手紙に書いてあった内容について話しかけてきた。


「まずは、急な呼び出しにも関わらず話し合いに応じてくれてありがとう。さて、手紙の内容についてだが、手紙についていた請求書はなんだい? 白金貨二千万枚と書かれていたけど、冗談だろう?」

「その件につきましては、私が回答申し上げます」


 屋敷神がそういうと、モルトバは驚きの表情を浮かべた。


 ただの付き添い人だとでも思っていたのだろうか?

 しかし、その認識は間違いだ。

 屋敷神が付き添いではない。俺の方が付き添いなのである。


 それにあの馴れ馴れしい話し方。

 もしかして、俺が相手なら簡単に論破できるとか、そう思っていたのだろうか?


 モルトバに視線を向けると、俺に向けていた視線とはまるで違う警戒した視線を屋敷神に向けていた。


 やはりこの人、俺の事を相当舐めていたらしい。


「……そういえば、名前を伺っていませんでしたね」

「おお、それは失礼致しました。私の名は屋敷神。どうぞよろしくお願いします」

「ええ、それで、あの手紙には私が初めに要求した事全てを否定し、その上で損害賠償を請求するとありました。まさか冒険者ギルドを相手にそんな事をする訳ないですよね?」


 モルトバが顔色を伺いながら屋敷神に話しかける。


「いいえ。あなたが魔道具の販売停止を求めるのであれば、たとえその相手が冒険者ギルドであったとしても請求し、回収させて頂きます。強制的にでもね……」

「それは物騒だな……しかし、こちらに被害が出ている以上、引く訳にはいかないんだよ。冒険者ギルドにも面子があるからね。その所をわかって欲しいなぁ……」

「……話し合いになりませんね。悠斗様、帰りましょう」


 そういうと屋敷神がソファーから立ち上がる。

 俺も慌てて立ち上がると、モルトバが怒声を上げた。

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