お断り

「おかしい……手紙を出したのが一週間前、なのにユートピア商会からは何の返答も、会頭である佐藤悠斗君が来る様子もない。一体何故……」


 悠斗に手紙を送付してから一週間、ギルドマスターのモルトバは困惑していた。


 佐藤悠斗君の冒険者ギルドでのランクはSランク。

 齢十五歳にしてSランク冒険者になった者など、誰もいない。

 そして折角、苦労してSランク冒険者となったにも拘らず、その地位を捨てる様な愚行に出る者もこれまでの人生の中で見た事もない。


「もしや、手紙が届いていないのか?」


 私から佐藤悠斗君に送った手紙は冒険者ギルドの職員に持っていかせたものだ。

 その可能性は限りなく低いと分かっていても不安になってしまう。


 それとも悪戯だとでも思われたのだろうか?

 それならまだわかる。

 何故なら、私が悠斗君に送ったのはあくまで手紙。

 冒険者ギルドからの正式な書状ではない。


 しかし、正式な書状で送付すれば、冒険者ギルドに記録を残す事になる。

 そうなっては悠斗君が可哀想だと思って手紙を書き記したのだが、悪戯と認識されてしまえば仕方がない。正式な書状で呼び出し、悠斗君の認識を聞いてみる事にしよう。


 アゾレス王国では色々とあったが、あの時より私は大人になった。


「君、これを悠斗君の元へ届けてくれ」

「はい。わかりました」


 私は冒険者ギルド所定の様式に文字を記すと、悠斗君の住む家に送付させた。

 今回は冒険者ギルドからの正式な様式に従い書状を送付した。これなら悪戯と思われまい。賠償金の契約書も付けたし、冒険者ギルドにとんでくるだろう。


 しかし、悠斗君にも困ったものだ。

 大事にしないよう、この私自ら手紙を送ってやったというのに返事もなしとは……。

 Sランク冒険者というのは強大な力を持っている為か、常識がない者が多くて困る。


 私はため息を吐くと、椅子からゆっくり立ち上がり蹴伸びをした。

 最近デスクワーク続きで身体が鈍っている。偶には迷宮に潜るとするか……。


 迷宮といえば、最近になってヴォーアル迷宮に異変が起きたらしい。なんでも第二十一階層以降にゴーレムが出現したそうだ。

 しかもゴーレムの中には、シルバーゴーレムやゴールドゴーレム、ミスリルゴーレムが紛れているらしく、よくユートピア商会で働く従業員……もとい、我が冒険者ギルドのAランク冒険者が狩ってくる。


 フェロー王国の王都に、空前のゴールドラッシュ到来。


 商人達からの需要も高く、冒険者ギルドには良質な金銀ミスリルを求めて毎日の様に商人達がやってきている。

 しかし、そう旨い話ばかりではない。

 現状、第二十一階層以降に出現するゴーレムを倒す事ができるのはひと握りの冒険者に限られている。


 それもそのはず、魔法無くしてゴーレムは倒せない。

 それに数多のゴーレムひしめく階層で、特定のゴーレムを狙って倒すのは至難。


 ゴーレムを倒した後も問題だ。

 ゴーレムの身体は重く、とてもじゃないが一体丸々持ち帰る事は難しい。

 しかし、ユートピア商会で働く冒険者達は『収納指輪』という特別性の指輪を持っている。


 だからこそ、多くのゴーレムを持ち帰る事ができるのだ。


 うん?

 待てよ……。


 よく考えてみたら借りればいいじゃないか。

 ユートピア商会で働く冒険者達の持つ『収納指輪』。これさえあれば、これまで以上にゴーレムを持ち帰る冒険者が増える筈。


 なんでこんな簡単な事を思い付かなかったんだ。

 これも冒険者ギルドの為になる事。

 冒険者ギルドに属している以上、多少融通して貰うのは当たり前の事だ。相互扶助は冒険者の美徳だからな。


 しかもユートピア商会の会頭はSランク冒険者の悠斗君だ。

 Sランク冒険者は冒険者ギルドの模範的な存在。

 次に会う時、提案してみよう。

 なに、彼なら快く受け入れてくれる筈。全く問題はない。


 そんな事を考えていると、部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。


「入ってくれ」


 私がそう言うと、焦った表情を浮かべたギルド職員が入ってきた。

 一体、どうしたというんだ?

 彼には悠斗君に書状を渡してくるよう命じた筈……。


「た、大変ですギルドマスター!」

「どうしたんだ。まずは落ち着きなさい」

「い、いえ、しかし、まずはコレをお読み下さい」

「うん? 手紙?」


 ギルド職員から手紙を受け取った私はそれに目を通していく。


「な、なんだこれはっ!」


 そこには私の出した手紙の内容を真っ向から否定する事が書かれていた。

 しかし、それだけではない。

 もし万が一、魔道具の販売停止と回収を求める様であれば、それにかかる費用全てと逸失利益を冒険者ギルドに請求すると書かれている。

 請求書の概算額は白金貨二千万枚……小国一つを購入する事のできる金額ではないか。

 こんな馬鹿げた金額払える訳がない。


「加害者が偉そうに……盗人猛々しいわ! 冒険者ギルドから除名されたいのかっ!」


 私は手紙と請求書をグシャリと握り潰す。

 Sランク冒険者だからといって、ギルドマスターを見下しおってからに……。

 これは早々に話し合う必要がありそうだ。

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