マリエハムン迷宮④

 巨大過ぎて、一瞬目の前に壁ができたのかと思ったが違うらしい。


「…………っ!」


 驚きのあまり声を出す事もできない。

 この迷宮、モンスターが全然出現しないから楽勝かと思えば、出てくるボスモンスター全てが規格外。


 俺は驚愕の表情を浮かべながらもボスモンスターを『鑑定』する。

 どうやらこの巨大な彫像『コロッサス』というボスモンスターの様だ。

 それにしても大きなボスモンスターである。

 どうやって倒したらいいのか検討もつかない。


 取り敢えず、距離を取ろうと後退ると、コロッサスの眼光がギラリと光る。

 そして、ゆっくり動き出したかと思えば、俺に向かって手を振り下ろしてきた。


 手を振り下ろす。

 だだそれだけの事ではあるが、それをやるのは全長五十メートルの巨大な彫像。

 とんでもない圧が俺を襲う。


「や、やばっ!」


 物理・魔法攻撃を無効化する『影纏』を纏っているが、巨大な彫像が手を振り下ろしてくるのだ。

 怖いものは怖い。


 俺は足下の影に潜ると、コロッサスの攻撃をやり過ごした。攻撃を避けた俺は、影の中からコロッサスの様子を窺う。

 しかし、コロッサスは手を振り下ろした姿勢のまま微動だにしない。


 俺は影を伝いコロッサスの背後に回ると、取り敢えず『影刃』で攻撃を仕掛けてみる事にした。


『影刃』はよく切れる。

 取り敢えず、足と腕に狙いを定めるとコロッサスの事を手足を切り取り動けない様にすべく、『影刃』を放った。


 黒い影の刃がコロッサスの足と腕の付け根を通り過ぎていく。すると、その攻撃により俺が後ろにいる事に気付いたのか、コロッサスが俺のいる方向に顔を向けてくる。

 そして、身体の向きを変えようとした時、コロッサスの足と腕が付け根から崩れ、胴体が地面に落下した。


 五十メートルもあるコロッサスの胴体が落下したのだ。とんでもない轟音が響き渡り、まるで地震でも起こったかの様に大地が脈動する。

 しかし……。


「よかった……」


 狙い通りコロッサスを動けなくする事には成功した。『影刃』を放ったにも拘らず、足と腕がもげなかったらどうしようと思っていたが、杞憂に終わった様だ。


 コロッサスに視線を向けると、手足をもがれ、まるでコケシが倒れたかの様になっている。


 こうなれば、もう動く事はできないだろう。

 そんな事を思っていると、コロッサスに思いもよらない変化が現れる。

 コロッサスの身体が急に球体になると、その球体から五体満足の新たなコロッサスが生まれたのだ。

 足と腕、胴体に五等分した為か、一体一体の大きさは小さくなっているが、厄介極まりない。


 まさか分裂すると思いもしなかった俺は唖然とした表情を浮かべる。


「い、いや、それ反則じゃ……」


 斬ったら斬っただけ分裂する。

 こんなのどうやって倒したらいいのだろうか。


 俺は動きを止めるため、ひたすら『影刃』をコロッサスの足と腕の付け根に向かって放ち続ける。

 しかし、コロッサスの足と腕の付け根を切り落とすたびに、球体となり、新たなコロッサスが生まれていく。

 これでは切りがない。

 元は一体だったコロッサスが『影刃』で切り飛ばし続けた結果、百体を超えるまでに分裂している。


 流石にこの数のコロッサスを相手にしてはいられない。

 俺はコロッサス全てに向けて影を伸ばすと、第十階層のボスモンスター、リバイアサンと同様に『影転移』で迷宮の外へと転移させた。


 最初からこうすればよかったのだ。

 迷宮の外には、兵士も沢山いたし、俺一人では多勢に無勢でも、あれだけ多くの兵士がいるのだ。

 俺に倒す事ができなかったが、多分大丈夫だろう。


 コロッサス全てを転移させた俺は、第二十一階層に向け歩き出した。

 第二十一階層に繋がる階段を降りてみると、そこは草原だった。


 爽やかな風が吹き抜け、草が揺れている。

 近くには湖もあり、視線を向けると鯱の様な大きさの魚が飛び跳ねている。


「うん。迷宮だもんね」


 鯱の様に大きい海獣が飛び跳ねる湖があるとは、恐ろしい。

 でも、問題はない。

 要は湖に近寄らなければいいのだ。


 俺は『影探知』で階層内を探っていく。

 どうやら、湖の中以外にモンスターは存在しないらしい。

 これなら安心して階層を抜ける事ができそうだ。

 ふと気配を感じ、湖に視線を向けると、足を生やした鯱型モンスターがこちらに向かってくるのが見えた。


 鯱に足だけが生えている。

 なんとも奇妙な生き物だ。


「『影転移』」


 俺はそう呟くと、鯱型モンスターを迷宮の外へ送っていく。


 取り敢えず、この迷宮を手に入れたらあの鯱型モンスターもデリートしよう。この迷宮に癒し要素以外は何も要らない。

 湖の中にいる鯱型モンスター全てを迷宮の外へ送ると第二十二階層へと歩いていく。


 しかし『影転移』は素晴らしい魔法だ。

 戦わずにしてモンスターを排除する事ができる。

 これなら安心して迷宮を踏破できそうだ。


 そこから先は速かった。

 第二十九回層まで続く草原フィールド。

 襲ってきそうなモンスター全てを迷宮の外へ送った俺は今、第三十階層……ボス部屋の目の前にいた。

 いよいよ、最後のボスモンスターだ。


 このボスモンスターを迷宮の外に追い出せば、晴れて迷宮は俺の物。自分勝手に改装して、俺だけの癒し空間を作り出す事ができる。


 俺はボス部屋の扉を開けると、ゆっくりとした足取りで部屋の中心へと進んでいく。

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