元バルト商会での一幕①
俺の名前は佐藤悠斗。
高校入学当日の帰り道、公園で寄り道したら不良に絡まれ、カツアゲをされている最中に、この世界ウェークに召喚されてしまった十五歳だ。
この世界で十五歳が成人の年にあるといっても、元の世界では、親の保護下にある高校一年生……高校一年生だった筈なんだけど……。
「ねえ、鎮守神……? 首に『奴隷の首輪』らしき物を嵌めながら咽び泣いているこの方々は……どちら様? っていうかなんで、この人達は『奴隷の首輪』を嵌めながら咽び泣いているの? 見ているだけで、なんて言うか……居た堪れない気持ちになってくるんだけど……」
異世界転移されなければ、元の世界で楽しい楽しいスクールデイズを送っていた筈なのに、何、この状況?
誰か第三者視点で見て欲しい。
部屋の中央に置かれたちょっと豪華な椅子に座る俺。
その傍らに控える鎮守神と、王都でショッピングモール運営している筈の屋敷神。
そして、鎮守神が連れてきた『奴隷の首輪』を嵌められ、咽び泣く三人の大人……。
なんだこれ?
いや、本当になんだこれ?
まるで、返しきれない借金を抱えた債務者の前で踏ん反り返る悪徳金融の社長にでも、なったかの様な気分なんですけど?
「鎮守神、聞いてる?」
っていうか鎮守神、なんで俺の質問に答えてくれないの?
いつもは間髪入れずに答えてくれるのに。なんていうか、もう……本当に居た堪れないよ?
なんだか悪役にでもなったかの様な気分なんだけど……。
俺から話す事もないし、この人達、本当にどちら様??
『奴隷の首輪』を嵌めた方々の咽び泣く声が部屋中に響き渡る中、鎮守神にチラリと視線を向ける。
すると、鎮守神は俺に向かってニコリと笑顔を浮かべた。
えっ、何その笑み??
それはいいから、俺の質問に答えて欲しいんだけど……。
そんな事を考えながら、鎮守神の視線を向け続けていると、鎮守神は俺から視線を外し『奴隷の首輪』を首に嵌めた方々に厳しい視線を向ける。
「黙りなさい……悠斗様の御前ですよ」
「「「ひっ、ひぃっ……」」」
鎮守神は『奴隷の首輪』を嵌め咽び泣く人たちに冷めた視線を送ると、溜息を吐きながら話し始めた。
「彼等は悠斗様の名を貶めようとした大罪人トゥルクの……トゥルク派の評議員達です」
「評議員……」
そういえば、商人連合国アキンドは、Sランク商人の中から選挙で選ばれた八人の評議員が国の運営をしている。マスカットさんもその内の一人だ。
それにもう少ししたら選挙も始まるとか言っていた様な……って、うん?
「……いや、待って、今なんて言ったの? トゥルク派の評議員とか言わなかった?? 商人連合国アキンドを統べる八人の評議員の内、三人が何でこんな所にいるの!? しかも『奴隷の首輪』をつけて!? どういう事、これ?」
「はい。我々が
「そ、そうなんだ……」
仮にも、神様を相手に賭け勝負をするとは、なんて無謀な事を……。
「この者達は、我々との勝負に負け一生を奴隷として過ごす身……つまり、この者達は悠斗様の所有物といっても過言ではありません」
「いや、過言だと思うけど……」
俺はそんなジャイアニズムを持ち合わせていない。
鎮守神は一体、俺の事を何だと思っているのだろうか?
「この者達、身分こそ奴隷ではありますが、不遜な事に、この国では評議員という立場にある様です。彼等を上手く利用すれば、この国を乗っ取る事も容易い事。商人達の集まるこの国を抑える事は経済の要を支配する事に他なりません」
「い、いや、まあそうかも知れないけど……」
いきなりとんでもない事を言い出すのは止めてほしい。鎮守神ときたら、なに商人連合国アキンドを乗っ取ろうとしているの!?
「では私に全てお任せ下さい。この者達に教育を施し、悠斗様の為に生きる事が喜びに変わる様、徹底的に洗脳させて頂きます。ご安心下さい。その過程で精神が壊れてしまう様な柔な人間は、ちゃんと人形にリサイクル致しますので」
俺の知っているリサイクルと違う。
「いや、いいからっ。大丈夫だからっ」
「いえいえ、遠慮は不要です。それに、こんな愚図共といえど評議員。その立場についている間は乱暴に扱う様な事致しません」
「い、いや、まあそうなんだけど……けどね……」
俺がそういうと鎮守神は残念そうな表情を浮かべる。
「そうですか? 悠斗様がそこまで嫌というのであれば仕方がありません。この者達の処遇を私に任せて頂けない場合、この者達を人形に変えるか、殺すかしなければなりませんが……どちらに致します?」
「ええっ!? な、何でそうなるの」
そういうと、鎮守神は髭を摩りながら顔を綻ばせる。
「当然の事です。この者達は我々の事を知りすぎてしまいました。こうなれば、この者達の運命は二つに一つです。私に任せて頂けますか? それともこの者達を人形に致しますか?」
「ううっ……!」
なんだか煙に撒かれた気分だけど、元より選択肢はなかった様だ。
「わかったよ。それじゃあ、鎮守神に任せるよ……」
「はい。確かに承りました」
俺が力なくそういうと、鎮守神は笑顔を浮かべた。
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