短編SS 紙祖神の一日

 私の名は紙祖神。

 ロキ様やカマエルは、そんな私の名からカミーユと呼ぶ。

 そういえば、カマエルの別名の一つがカミーユだった様な気がする。カマエルは私をカミーユと呼ぶ時、どの様な気持ちで呼んでいるのでしょうか?


 まあこの話は置いておきましょう。

 問題は今、目の前に聳え立っている『生命の木』についてです。


 この『生命の木』紙にしてしまっても大丈夫でしょうか?

 『生命の樹』である『セフィロトの樹』を私の力で紙にしたら無限に再生する『再生紙』ができ、『世界樹ユグドラシル』を紙にしたら何故かは分かりませんが様々な絵柄に変わる『包装紙』ができあがった。


 木を紙に変える自分の能力とは長く付き合ってきたつもりだったが、神樹を紙に変え、様々な力を持つ紙を作ってからというものの、他の木々を紙に変えたらどうなるのか検証したくて仕方がない。


 今、私の目の前に聳え立つ『生命の木』も素晴らしい紙に生まれ変わる筈だ。いや、私の目の前にあるという事は、この『生命の木』も私の力によって紙に生まれ変わりたいと、そう思っているのかもしれない。いや、そう思っている筈だ。


 私はキョロキョロと周囲を見渡す。


「誰もいませんね? 誰もいませんよね?」


 誰もいない事を確認した私は『生命の木』にそっと触れると『生命の木』に光が灯る。


 何、問題はない筈だ。

『生命の木』は天界のそこら中に生えている。

 一本位無くなっても誰も気付きはしまい。


『生命の木』に光を灯した私は、元『生命の木』だったものに視線を落とす。

 そこには、まるでルーズリーフの様な冊子が置かれていた。


「何故、ルーズリーフ?」


 取り敢えず、手に取って見るも何ら変わらない普通の紙からできたルーズリーフにしか見えない。

 これは失敗したかもしれない。


 まあ『生命の木』から作ったのだから、何かしらの効果があるのだろうけど、再生紙や包装紙とは、随分と勝手が違う様だ。


「はあっ、これは検証が必要ですね……」


 よく分からないものを作る為、周囲に気を遣いすぎた。

 何だか、無性にむしゃくしゃする。


 チラリと視線を空に向けると、空には『天まで届く木』という大樹が聳え立っているのが見える。


 天界にあるのに『天まで届く木』とは、またよく分からない名前の世界樹だ。

 しかし、あの木を紙に変える事ができたら、さぞかし気持ちのいい事だろう。


 いや、もういっその事、紙に変えてしまおうか?


 私の頭に一瞬邪な感情が宿る。

 よく考えてみたら、天界には至る所に世界樹という名の巨木が生えまくっている。


 今更、あの『天まで届く木』を紙に変えた所で、どうとでもなる様な気がしてきた。

 それに今、天界を支配しているのは、教会を支配し、新たな天界の主神となったロキ様だ。


 まあ周りの人間関係ならぬ神関係に辟易としていて、割り当てられた仕事から逃げ回っているロキ様ではあるが、あの悪戯好きのロキ様であれば、『天まで届く木』を紙に変える位、許してくれるかも知れない。


 そうであれば話は早い。

 私は早速『天まで届く木』が生える場所に足を運んだ。


「はぁー。流石は『天まで届く木』本当に高いですね」


『天まで届く木』を見上げるも雲に阻まれ樹頭は見えない。今からこの『天まで届く木』を紙と化する事を考えるだけで激ってしまう。


「ああ、もう我慢ができません」


 そう呟くと私は『天まで届く木』まで駆け出した。

 こうなった私を止める事はもう誰にもできはしない。


 木の幹に手を当てると『天まで届く木』に光が灯る。

 その光が『天まで届く木』全体を包み込むと『天まで届く木』が紙に変化した。


 しかし、ここで想定外の事態が起こる。

『天まで届く木』がまるで、一枚一枚の薄い紙が積み上がってできた建造物の様に姿を変えてしまったのだ。


 この反応は普通の木を紙に変えた時の反応に似ている。

 仮にも『天まで届く木』は世界樹の一つ。

 てっきり、何かしらの効果を持つ紙に生まれ変わるものだと、そう思っていた。


 呆然とした表情を浮かべながら、紙と化した『天まで届く木』を眺めていると、突然、強い風が吹く。


「あっ……」


 この日、天界に紙吹雪が舞った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る