トゥルクの災難①

「なんで……なんで私が緊急招集をかけているのに幹部連中は集まらないのっ!!」

「お、落ち着いて下さいトゥルク様っ!」

「これが落ち着ける訳がないでしょう! 緊急招集よ? 緊急招集をかけたにも拘らず、幹部連中に連絡すら取る事ができないのよっ! 一体何が起こっているというのっ!?」

「トゥルク様っ! ま、まずは落ち着いて下さい! そ、そうです。丁度今、トゥルク様派閥の評議員、ライシオ様やカーリナ様、ナーンタリ様をカジノで接待中。あの方々に連絡を取って見ては如何でしょうか?」


 そう嘯く部下に私は冷たい視線を向ける。


「……あなた、まさかとは思うけど、私に直接連絡を取れと言っている訳じゃないわよね?」

「も、勿論、私が取り次ぎを……いえ、すぐに確認してまいります!」


 私がジロリと睨むと、部下はしどろもどろにそう応えながら、そのまま部屋から出ていった。

 全く最初からそうすればいいのだ。


 私は机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持っていくとため息を吐く。

 本当に一体何が起こっているというのだろうか。


 バルトの手紙を受け取った私は、即座に幹部を緊急招集した。

 具体的には、幹部を商人連合国アキンドに呼ぶ様、伝令を走らせたのだ。

 にも拘らず、何故かは分からないが通信用の魔道具で連絡を取ろうにも、全然、向こう側と通じない。


 馬車を使い伝令を走らせる事もできるが、それはそれで緊急招集の意味がない。全く、困ったものだ。


 椅子に座りながら貧乏ゆすりをしていると、先程、部屋から出ていった部下が、通信用の魔道具を持ち満面の笑みを浮かべながら部屋に入ってきた。


「ト、トゥルク様っ! や、やりましたっ! フェロー王国の王都に土地の買い付けに向かった者と連絡が取れましたっ!」

「ああ、そう……」


 なんだ、幹部達と連絡が取れた訳ではないのか。

 私は少しだけ落胆するも、表情には浮かべず通信用の魔道具を受け取る為、部下に向かって手を伸ばす。


「土地の買い付け……ああ、フィン様に頼まれていた土地の事ね。代わりなさい。私が報告を聞くわ」

「は、はい!」


 私が通信用の魔道具を受け取ると、向こう側から焦ったかの様な声が聞こえてきた。


『ト、トゥルク様!? は、話が違う。なんでトゥルク様に通信を回っ……』


 まるで何かを失敗した事を隠す様な声音に思わず眉間に皺を寄せる。


「あなた、何をそんなに慌てているの? まあいいわ。早速、報告を聞かせて頂きましょうか。ヴォーアル迷宮付近の土地の買付は上手くいったんでしょうね?」


 私がそう言うと、土地の買付を任せた部下がしどろもどろになりながら話し始める。


『そ、それが、私が買付に向かった時にはもうマスカット様にあの辺り一帯の土地を買い占められており……と、土地の買付にし、失敗してしまいましたっ! も、申し訳ございませんっ!』


 部下の言葉に私は驚愕といった表情を浮かべる。


「な、何ですって!? も、もう一度言ってみなさいっ! 今なんて言ったの!」


 これはオーランド王国の女王フィン様の依頼だ。

 フィン様の依頼は最優先。

 私があれ程、口が酸っぱくなる程、言って聞かせたというのに……!


 私は縋る様な思いで部下に聞き返す。

 もしかしたら、大役を任され緊張し、言い間違ってしまっただけなのかも知れない。

 しかし、返ってきた言葉は私にとって都合の良い返事ではなかった。


『も、申し訳ございません……』


 私は「ふうっ」と息を吐き深呼吸をすると、通信用の魔道具を強く握り怒りを露わにする。


「……ざけるなっ」

『えっ?』

「『えっ?』じゃねーよ! ふざけるなって言ったんだよっ! 私は言ったよなぁ! オーランド王国の女王フィン様の依頼だから最優先に、って言ったよなぁ!」


 普段の口調からは想像もできない叱責に、通信用の魔道具を持ってきた部下が引いている。

 今叱責中の部下も通信用の魔道具口で、慌てているのだろう。時より『も、申し訳ございません』といった呟きが聞こえてくる。

 しかし、そんな事は知った事ではない。


「おい、てめぇ! 私はフィン様の依頼だから最優先にって言ったかどうかを聞いているんだよっ! 何とか言えや、このハゲ茶瓶!」

『は、はいっ! た、確かにトゥルク様からその様に仰せつかりましたっ!』

「だったら、なんで今頃そんな事を言ってくるのよ! 依頼した当日に動けや、馬鹿野郎! 通信用の魔道具があるのよっ! 商業ギルドに連絡して土地を押さえる事位、簡単にできるでしょうがっ! 少なくとも、私がフィン様から依頼を受けた時点では、土地をマスカットに押さえられていなかったわよっ! 私がテメェに依頼した日、テメェは何処で何をしていたっ!」


 私が怒りながらもそう問うと、怯えたかの様な声が通信用の魔道具から聞こえてきた。


『あ、あの日は、ゆ、友人と飲み会の約束があり、依頼を受けてからすぐ、き、帰宅しました!』


 あまりも馬鹿馬鹿しい回答をよくもまあ抜け抜けと……『帰宅しました』じゃねーよ。本当に反省しているのか、コイツは?

 本当の事をそのまま言えば許してくれるとか、まさかそんな事を思っている訳じゃねーだろうな。


 私は深いため息を吐くと、通信用の魔道具に向かって呟いた。


「マスカットが買い占めた土地、いくらなら譲ってくれるのか調べ、私に報告しなさい。今日中によ。もし、それができない様であれば、もうあなたは要らないわ」


 そう言うと、私は通信を切り深々と椅子に腰掛けた。

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