評議員の災難②
「そうですか……それでは、ハンデも差し上げましょう。これから行うゲームの内容をあなた方で決めて頂いて構いません。それでいかがですかな?」
「私達がゲームの内容を決めて構わないの?」
「はい。勿論構いません」
この老人、一体何を考えているのだろうか?
それでは、あまりにこちらが有利すぎる。
何の狙いがあってそんな事を言うのか考えていると、ナーンタリが話しかけてくる。
「おい。カーリナ、この勝負、絶対受けるべきだって! 教会との取引だぞっ! まさかお前、このチャンスを不意にするつもりじゃないだろうな!?」
煩い。本当に黙っていて欲しい。
こいつのお陰で全然考えが纏まらない。
「…………」
この勝負を受けるかどうか決めかねていると、老人が椅子から立ち上がる。
「カーリナ様は勝負を受けるか否か決めかねているご様子。しかたがありません。それでは、カマエル、私達は帰りましょうか」
「もういいのか?」
「ええ、勝負に乗ってこないのであれば仕方がありません。当初の目的は達成致しました。引き上げる事に致しましょう」
老人はそう言うと、カマエルと呼ばれた赤色の髪の美丈夫と共にテーブルから離れようとする。
「ち、ちょっと待って!」
思わず私がそう口にすると、老人は立ち止まり振り返った。
「なんでしょうか?」
「受けるわ、その勝負……」
「その言葉、お待ちしておりました」
私がそう呟くと老人は深い笑みを浮かべた。
「勝負の内容は私が決めてもいいのよね?」
「ええ、勿論です」
そう言うと、老人は再び椅子に座る。
「それでは、早速、勝負内容を伺わせて頂きましょうか」
「ええ、そうね。もう一度確認するけど、本当に私達が勝負内容を決めてもいいのよね?」
「はい」
「それは、あなた方にとって不利な勝負内容でもいいの?」
「はい。ある程度こちらに勝ち目のある勝負であれば構いません」
「そう……」
老人の言質を取った私はほくそ笑む。
「それじゃあ、ダイスを振って大小を競う『
「ほう、大小ですか、勿論構いませんが、本当にその勝負でよろいしのですか?」
「ええ、ただし……」
そう呟くと、『大小』で使用する三つのダイスの内、一つを老人の目の前に転がす。
「私達は二つのダイスを、あなた達は一つのダイスを使って勝負して貰うわ」
「しかしそれでは、『大小』の内、私達は四から十一までの出目の場合にのみ勝負を行う事のできる『小』にしか賭ける事ができないのですが……」
しかも、一から三の出目を出したら『小』に賭ける事すらできなくなってしまう。
しかし、それはダイス二つを使用する私達も同じ事、ただし、私達の場合出目が『ニ』『三』『十二』の出目が出ない限り、『小』に賭けていれば、高い確率で勝つ事ができる点で違いがある。
「そうね。しかし、それはこちらも同じ事。こちらの方が確率的に有利な事は認めるけどね。でも、『ある程度勝ち目のある勝負であれば構わない』と言質は取ったわ。今更、無効とは言わないわよね?」
そう言うと、老人は考える様な素振りを見せる。
「分かりました。それで構いません。一つだけ確認させて下さい。あなた方がニ、三の出目を出した場合の取り扱いはどうなりますか?」
私達が?
そんな事、決まっている。
「勿論、あなた達と同じよ。双方が一から三の出目を出した場合のみノーゲームとなるわ」
「なるほど、承知致しました」
もう質問はない様だ。
それではゲームを始めよう。
「勝負は一度、双方の代表者一名がダイスを振り、ダイスの合計を予想して、四から十一の『小』か十二以上の『大』かを予測するゲーム『大小』で行います。ダイスの合計が一から三の場合、双方がその出目を出した場合に限りノーゲーム。分かったわね」
「はい。ご解説頂きありがとうございます」
そう言うと、老人はテーブルに置かれたダイスを握る。
あちらは屋敷神と名乗る老人がダイスを振る事にした様だ。
当然、こちらは私が……。
そんな事を考えながら、テーブルに置かれたダイスを手に取ろうとすると、何故か、ナーンタリがダイスを取り上げた。
「おっと! このゲームのルールは決めさせてやったんだから、ダイスは俺に振らせろよ」
「はぁ?」
何を馬鹿な事を言っているのだろうか?
カジノで全てを失ったナーンタリにそんな大役を任せる事ができる筈がない。
というより、こいつと共に沈むなんて絶対に嫌だ。
「大丈夫だって、俺達は『小』に賭けるぞ」
「ち、ちょっと、待ちなさいっ! ああっ!」
すると、ナーンタリは勝手に『小』に賭け、二つのダイスをテーブルに振ってしまう。
「なっ、なんて事をしてくれるのよっ!」
「大丈夫だって、大丈夫……ああっ!?」
「いやぁぁぁぁ!」
そう言って振られたダイスの出目は『十二』。
この男とんでもない事をしてくれた。
たった一度の勝負だというのに、この男、私を巻き込んで爆死しやがった。
「…………」
ナーンタリが普通に外した事に呆然としていると老人は『小』に賭けダイスを振った。
私達は祈る様に一から三の出目が出る事を願うも、そんな願いは通じず、『六』の出目が出てしまう。
「この勝負、私の勝ちですね。お可哀想なカーリナ様。落ち目のナーンタリ様にダイスを奪われなければ、いい勝負ができたものを……しかし、これも時の運です。トゥルク様が我々の琴線に触れ、ナーンタリ様が横にいたのか運の尽き……私達は勝負に勝ちました。早速、あなた方を拘束させて頂きましょう」
老人がそう呟くと、老人の隣にいた筈のカマエルと呼ばれていた赤色の髪の美丈夫の姿がない事に気付く。すると、私達の背後から首筋に向かって手が伸びてきた。
「さあ『奴隷の首輪』を嵌めようか」
「えっ? はあっ!?」
いつの間にか背後にいたカマエルに『奴隷の首輪』を嵌められた私は、首輪をペタペタ触り、絶望の表情を浮かべる。隣にいるナーンタリも同じ表情を浮かべていた。
「それではカマエル。邸宅に戻りましょうか」
「ああ、それで? こいつらはどうする?」
そう言うと、老人は私達に向かって冷めた視線を向けてくる。
「当然、持ち帰ります。この方々は奴隷ですから、それにしても不思議です。何故、この様に浅慮な方々が評議員になれたのでしょうか? まあ、どうでもいい事ですね。評議員の三分の一を掌握する事ができたのですから……トゥルク様を捕らえれば半数。あなた方がトゥルク様派閥の人間で本当によかった。悠斗様にいいお土産ができそうです」
老人はそう呟くと、深い笑みを浮かべた。
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