悠斗合流②
「さて、それではまず、片付けから始めましょう」
「片付け?」
「はい。片付けです」
鎮守神はそう言うと、パチンと指を弾く。
すると、部屋の至る所から人形達が這い出てきた。
「怖っ!?」
まさか部屋の至る所から人形が這い出る様に出てくるとは思いもしなかった。
縛られ横たわる人達も目を剥き驚きの表情を浮かべている。
「ああ、驚かせてしまい申し訳ございません」
「いや、それより何を片付けるの?」
「それはですね……」
鎮守神がそう呟くと、人形達がどこからともなく万能薬を取り出し、血の池に伏し気絶している男の口に含ませた。
すると男の身体に刻まれた傷が次々と塞がっていく。
流石は万能薬、効果はてきめんの様だ。
それにしても、あれだけの傷を負い、血を流していてよく生きているものだと感心してしまう。
「うっ……ここは?」
「おはようございます。ぐっすりとお休みだった様ですが、よく眠る事ができましたか? それともあのまま眠りに就いていた方が、あなたにとっては幸せだったでしょうか?」
「あ、ああっ、ああああああああっ、あなた様はっ……! あっ……」
万能薬を口に含ませてすぐ、血の池に伏し気絶していた男が目を覚ます。
その男は鎮守神の顔を見るなり、顔を青くし、身体を痙攣させたかと思えばそのまま失神してしまった。
相当強いストレス体験をしたのだろう。
鎮守神の顔を見ただけで顔を青くし、身体を痙攣させるなんて一体何をしたらそんな状態に追い込めるのか見当もつかない。
「やれやれ、仕方がありませんね。起きなさい」
鎮守神は気絶した男の頬を数度ビンタし、強制的に目を覚まさせると、泣きそうな表情を浮かべる男の襟を掴み俺に視線を向けさせる。
「うっ、うーん……う、うわっ! うわっ! うわぁぁぁぁぁ! 起きましたっ! 起きましたからもうやめて下さいっ!」
「ようやく起きましたか……塵芥にも劣る人間如きが手間をかけさせてくれますね? そういえば、あなた、悠斗様に自己紹介をしていないのではありませんか? これからあなたの主になるお方です。さあ自己紹介なさい」
「は、はいっ!」
鎮守神にそう促されると、男は泣きそうな表情を浮かべながら自己紹介を始めた。
「お、お初にお目にかかります、悠斗様! わ、私はバルト商会の会頭、バルト。塵芥にも劣るしがない商人にございます。こ、今回の件、私の思い上がり甚だしく悠斗様の治めるユートピア商会の評判を下げ、少なくはない損害を与えてしまいました。わ、私の矮小な命一つでは、悠斗様に与えてしまいました損害を補填する事は到底できません。つ、つきましては、バルト商会の従業員共々、ユートピア商会の繁栄の為にこの命尽きる迄、尽くさせて頂きたく思います」
男がそう言い終わると、鎮守神が軽く手を叩く。
「素晴らしい。素晴らしい決意です。悠斗様に与えた損害を思えば、当然の償いではありますし、到底足りないとは思いますが、従業員共々、ユートピア商会の繁栄の為に尽くす姿勢には、私、感銘を覚えました」
いや、これ絶対無理やり言わせたのだろう。
バルトと名乗る男の視線は既に鎮守神に向いている。なんとなく恐怖に震えている様にも見えるけど、絶対に見間違いではないだろう。
そんな事を思いながら事の推移を見守っていると、鎮守神は拍手を止め、首を振った。
「しかし、まだまだです」
「えっ!?」
鎮守神にそう言われた、今回の件の首謀者バルトは、恐怖に震えながらも『これ以上何を求めるの』とでも言わんばかりの表情を浮かべる。
鎮守神基準で言えば、恐怖による強制で先程言わされたであろう言葉では足りなかったらしい。
なんとも無慈悲な鎮守神である。
「まず一つ、今のお話では動機が全く分かりません。あなたが塵芥にも劣る存在であることや、思い上がり甚だしいこと事態に異論はありませんが、あなたの頭の中には何が詰まっているのです? 脳に蛆でも沸いているのではありませんか?」
随分と辛辣な言い方である。
俺やユートピア商会で働く従業員達には優しいお爺ちゃんキャラなのに、敵には辛辣な態度を取る事にしている様だ。
鎮守神が苦言を呈すると、バルトは慌てふためきながら補足説明を話し始める。
「も、申し訳ございません! じ、実は私、商人連合国アキンドの評議員トゥルク様傘下の商人でして、先日行われたトゥルク様主催の懇親会で、ユートピア商会を潰した……いえっ! ユートピア商会を倒産に追い込んだ者に白金貨十万枚を与えるとのお達しがあり、白金貨十万枚に目が眩んだ結果、愚かにも行動を起こしてしまった次第です!」
「えっ!? トゥルクさんが黒幕なのっ?」
「は、はい。その通りです。オーランド王国の女王フィン様も、万能薬を教会に販売しているユートピア商会の事をよく思っていない様でして、トゥルク様の心証を良くする為のポイント稼ぎに丁度良く……はい……」
トゥルクさんと言えば、エストゥロイ領にフェロー王国内最大のカジノである『トゥルクのカジノ』を運営する商人連合国アキンドの評議員の一人だ。
まさかそんな人の恨みを買っているとは思いもしなかった。
カジノで勝ち過ぎた事で恨みを買ってしまったのだろうか?
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