商人連合国アキンド道中②

「はあっ……」


 この世界に転移してから『魔法の絨毯』に乗ってニ度目の盗賊との遭遇である。

 黒い布で顔を覆っているし、剣も持っている。

 今にも、並走している馬車に飛び乗り、馬車に乗っている人を皆殺しにしそうな、そんな雰囲気を感じる。


 悪運も運の内というし、見てしまったからには仕方がない。


 取り敢えず、急に馬車を停めるのは危険だし、御者さんだけは拘束しないでおこう。


 俺は『魔法の絨毯』に乗りながら、黒い布で顔を覆った人達に影縛をかけると、そのまま『魔法の絨毯』で馬車の上に乗り移る。

 そして『魔法の絨毯』をカードに戻すと、そこで俺の姿を始めて認識したのか、御者さんが叫び声を上げた。


「な、なんだテメェ! どこから現れたっ!」


 御者の人も顔を隠している。

 剣を持った人達は影縛で拘束したし、一応、聞いておこう。


「えっと、一応お聞きしますね? お兄さんは悪い人だったりしますか?」

「何を言っていやがる! サッサと馬車から降りろっ! 獲物が逃げちまうじゃねーか!」


 獲物、獲物か……。

 これはもう確定だろう。

 こんな風貌だし間違いない。


 でも、もう一度だけ念のために……。


「お兄さん達は本当に、悪い人って事でいいんですよね? 黒い布で顔を隠し、並走している馬車に危害を加えようとしていたし……」


 俺がそう言うと、御者さんは焦れた様な表情を浮かべる。


「ああ、そうだよっ! 悪い人だよっ! これからひと仕事しようって時に邪魔しやがって! 何度も言わせるんじゃねぇ! 子分共の拘束を解きやがれっ! 俺達はあの馬車の積荷に用があるんだよっ!」

「あの馬車の積荷?」


 並走している馬車に視線を向けるも、積荷は見当たらない。


「積荷無いじゃないですか」

「何を言っていやがる! 積荷は『魔法の鞄』の中にあるに決まっているだろうがっ! どこの世界に馬車に仮設足場の機材を引かせる馬鹿がいるんだよ! 魔法の鞄でもなけりゃ重量オーバーで運べる訳がねーだろっ!」


 並走している馬車『魔法の鞄』で仮設足場を運んでいるんだ……えっ? 仮設足場運んでいるの!?


「仮設足場を運んでいるとの事ですが、隣を並走する馬車の方とはどういったご関係で……?」

「同業者だよっ! お偉いさんが、どこぞの商会の評判を落としたいようでなぁ! 仮設足場を使っている商会の機材を、耐久性の低い偽物にすり替えるっていうのが俺達の仕事だ! なのに、あの野郎、俺の仕事を盗りやがった! ただじゃ置かねぇ!」


 なるほど、仕事を盗られたのか。

 それにしても、この人ペラペラとよく喋るな、仕事を盗られたのも案外その辺りに原因があるんじゃ……。

 まあいいか、それはこの人の問題だ。

 今はより多くの情報をこの人から聞いておこう。


「それは大変でしたね。もしかして、その『どこぞの商会』というのは『ユートピア商会』だったりします?」


 俺がそう質問すると、御者さんが笑いながら話し始める。


「ぐはははっ! よく分かったなぁ! その通りだっ! 実際にお偉いさんから依頼を受けたのは、あっちの馬車に乗っている奴だからよ。そのお偉いさんってーのにはあった事がないがなぁ!」

「そうですか、ありがとうございます」

「ぐはははっ! いいって事よっ……じゃねーだろ! 何を言わせているんだ、この馬鹿がっ!」


 この人、普段から自白剤でも愛飲しているんだろうか?

 質問したら質問しただけ馬鹿正直に教えてくれる。

 そんなんだから、仕事を同業者に盗られるんだと思う。情報管理がまるでなっていない。


 とはいえ、聞きたい事は聞けた。

 その『お偉いさん』とやらの情報は隣の馬車に乗っている人が知っているみたいだし、この馬車は、この人達ごと〔影収納〕の中にでも収めておこう。


 馬車を包み込む様に影で覆うと、俺は隣の馬車に乗り移り、馬車に乗っている御者さんごと影収納に沈めていく。


「な、なんだぁ! 何が起きてるっ!」


 馬車ごと影収納に沈んでいく御者さんに笑顔を向けると、軽く手を振った。


「じゃあね、悪いおじさん。情報ありがとう。また後でね」

「ち、ちょっと待てっ……」


 御者さんが何かを言う前に、影収納に収める。

 すると、乗り移った馬車を操縦してい御者さんが声をかけてきた。


「いやぁ、兄ちゃん、助かったよ! 兄ちゃんは冒険者かい?」

「実はそうなんですよ」

「そうかい、そうかい! 折角助けて貰ったんだ。いつまでもそんな所にいないで、馬車の中に入ってきなよ!」

「えっ、いいんですか?」


 この人、さっき俺と影収納に馬車ごと閉じ込めた御者さんの話を聞いていなかったんだろうか?

 いや、もしかしたら車輪の音や馬の走る音で、あまりよく聞き取れなかったのかもしれない。

 折角なので乗せて貰おう。


 御者さんが馬車のスピードを徐々に緩め止めてくれる。


「さあ、中に入った入った!」

「それじゃあ、遠慮なく、お邪魔しま……す?」


 すると、そこには凶悪な人相をした、どう考えてもその筋の人にしか見えない二人組が腕を組んで座っていた。


「おおっ、坊主があの馬車を追っ払ってくれたのかっ!」

「やるじゃあないか! さあ遠慮なく座ってくれ!」

「は、はいっ!」

「よし、それじゃあ出してくれっ!」


 男がそう言うと、俺が中に入ると同時に馬車が動き始めた。

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カクヨム様でここまで読んで下さいました皆様には本当に感謝ですw

4月12日夜には、アルファポリス様の規約により『非公開化』となります。

本当に、本当に皆様に感謝です!


もしよろしければ、4月19日前後に本作の書影がAmazon様もしくはhonto様から出ると思いますので、確認頂けると幸いです(本日、アルファポリス様の刊行予定に刊行予定日が掲載されました)!

本作には勿体ない程素晴らしいカバーイラスト&挿絵となっております。

Amazon様の評価に★1で「イラストは素晴らしいが本作と吊り合っていない」と書かれそうな位、のイラストを頂きました。


またコメントにつきまして、皆様のコメント、いつも大切に読ませて頂いております。一部の読者様は気付かれているかもしれませんが、コメントを元に作品の軌道修正なども行っておりますw


自分では気付けない点を気付かせてくれるので本当にありがたいです。

4月12日の夜を持ちまして、本作のカクヨム様での連載は非公開となりますが、カクヨム様から場所を変えアルファポリス様で連載は続きます。


厚かましいお願いとはなりますが、アルファポリス様にも偶にアクセス頂き、皆様の率直なコメントを頂けるとありがたく思います。

本作のWEB版のダウンロードも、12日を以ってダウンロードできなくなってしまいますので、是非、ダウンロード頂き、書籍版とどう違うか確認頂けると幸いです。

※アルファポリス様で登場人物紹介の絵と、1-3までの挿絵を見る事ができますw


2020年6月から連載を開始し、もう10ヶ月……皆様のお蔭で書籍化でき、本当に感謝しております!

皆様のコメントを参考に小説を作り上げていく感じがとても楽しく、皆様のコメントを見ながら作り上げていくのがとても楽しくて仕方がありません。


長く、本当に長くなってしまいましたが、皆様に最大級の感謝を!

本作をこれからもよろしくお願い致します。

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