商人連合国アキンド道中①
以前、マデイラ王国にいた頃、購入した地図を取り出すと商人連合国アキンドの大体の位置を確認する。
地図によると商人連合国アキンドは、フェロー王国の東側に位置するらしい。
大体、馬車を走らせ三日といった所だろうか?
商人連合国アキンドへ向かう手段は三つ、乗合馬車を利用するか、馬車を手配し走らせるか、歩いて向かうかだ。
乗合馬車とは、不特定多数の人を乗せ一定の路線を時刻表に従って運行される馬車の事だ。
しかし、この乗合馬車、何回も乗合馬車を乗り継がなきゃいけない上、定員は八名までと、使い勝手が酷く悪い。
馬車の手配も同じだ。
最低でも二日間、シャワーを浴びる事はできないし、水洗式のトイレを利用する事もできない。
歩いて向かうのは論外だ。
勿論、馬車で向かい夜寝る時とシャワーやトイレを利用する際、影転移で戻るという事もできなくはない。
しかし、御者さんや護衛を放置し、自分だけそういった方法を取るのは気が咎める。
となると俺が商人連合国アキンドに向かう手段は一つだけ……。
「やはりこの手段しかないか……」
四つ目の手段。
そう『魔法の絨毯』での移動である。
『魔法の絨毯』にはステルス機能も付いている為、飛んでいる所を誰にも気付かれる事なく商人連合国アキンドに向かう事ができる。しかも速い。
これはもう、魔法の絨毯で行くしかないだろう。
とはいえ、この移動手段にも難がある。
今の所『魔法の絨毯』で移動すると、百パーセントの確率で盗賊に襲われている馬車に出会っている。
何故かは分からないが、今回も同じ様に、盗賊に襲われている馬車に出会う気がしてならない。
まあいいか。
どちらにしろ、商人連合国アキンドに行く手段は限られている。
衛生面を気にしながら向かうには『魔法の絨毯』による方法しかないのだ。
俺は着替えや食べ物、その他諸々を収納指輪に収めると、早速、『魔法の絨毯』に跨り、商人連合国アキンドに向けて飛び立った。
『魔法の絨毯』に乗るのは久しぶりだ。
相変わらず、元の世界にあった様々な法則は一切無視で、風の影響も全く受け付けない。
それにしても……。
「暇だ……」
いや、こうなるんじゃないかないかとは思っていた。
商人連合国アキンドまで魔法の絨毯でも一日の距離にある。
元の世界にある乗り物である飛行機の時速は約九百キロ。東京からニューヨークまでの片道の移動時間が約十三時間である事を考えると、元の世界の技術って実は凄かったんだなと思う。
『魔法の絨毯』もこの世界基準で言えば、とても便利なんだけど、如何せん、元の世界の飛行機と比較してしまう。
マデイラ王国からアゾレス王国に行く時や、アゾレス王国からフェロー王国に行く時は、まだ見ぬ大地に対する憧れや『魔法の絨毯』から見る雄大な景色に、時間を忘れ乗り続ける事ができたけど、なんというか……もうそういうのはいい。
ある程度の高さで飛んでいると、なんというか『さっきも同じ様な景色を見たな……』という気分になってくる。
幸いな事に、この『魔法の絨毯』は、絨毯のどこかに触れ、目的地や行きたい方向を思い浮かべる事で簡単に操作する事ができる。
俺は『魔法の絨毯』に寝そべり、時折、眼下に広がる景色を見ながら商人連合国アキンドに向け進んでいく。
そこから数時間後……。
「退屈過ぎて死にそうだ……」
段々と日が沈んできた。
何が悲しくて一人寂しく『魔法の絨毯』に乗っていなければならないのだろうか。
ただ『魔法の絨毯』に乗っているだけというのも疲れてきた。
結構進んだし、今日の所は影転移で邸宅に戻ろう……。
俺は一度、着陸するとマーキング代わりに〔土属性魔法〕で矢印の標識を作り、地面に突き刺すと影転移で邸宅に転移した。
邸宅に転移すると、屋敷神が用意してくれた料理を食べ、風呂に入ると今日の所は、さっさと眠る事にする。
何もせず『魔法の絨毯』の上で景色を眺めているだけというもの疲れるものだ。
意外と疲れが溜まっている。それに明日も早い。
「明日は何かあります様に……」
別に面倒事を望んでいる訳じゃないけど、一日中、『魔法の絨毯』の上にいるのはキツイ。
俺はそう呟くと、ゆっくり目を閉じた。
朝、目が覚めて身体を起こすと、俺は『ん~っ』と背伸びをした。
目覚めた俺は、朝風呂に入ると、屋敷神の用意してくれた朝食に舌鼓を打ち、昨日、マーキングした場所に影転移する。
そして『魔法の絨毯』を召喚すると、再度、商人連合国アキンドに向かって『魔法の絨毯』を走らせた。
早朝という事もあってか、朝日が眩しい。心なしか、空気が澄んでいる様に感じる。
流石は異世界。コンクリートジャングルの広がる東京とはまるで違う。
商人連合国アキンドに向かって『魔法の絨毯』を走らせていると、眼下に馬車が見えてきた。
なんだか久しぶりに馬車を見た気がする。
進行方向に大きな壁に囲まれた国が見えるし、あの馬車も商人連合国アキンドに向かう馬車なのだろう。
しかし妙だ。
何故か馬車が並走している。
馬車ってそんな感じの乗り物だっただろうか?
馬車に視線を向けていると、馬車の中から黒い布で顔を隠した者達が剣を片手に現れるのが見えた。
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