ミクロの愚痴②

「それこそ、王都は悠斗様の支配下に置かれてしまいますよ! 悠斗様がこの王都から撤退したらどうなると思っているんですか!? 悠斗様が亡くなったら? 悠斗様の運営するユートピア商会で何か問題が起きたら? それこそ国ごとお終いですよー!」


 流石に話が飛躍しすぎだ。

 確かに、俺が前国王ノルマンに土地を接収された事で、他の商人達は王都から他領へと拠点を移し、その過程で王都は壊滅的な被害を被っているかもしれないけど、よくよく考えてほしい。


 そもそも、前国王ノルマンが俺の土地を接収せず、土地を買い取る、又は他の方策でユートピア商会を穏便に王都から追い出していたらどうだろうか?


 恐らく王都は、こんな状況にはならなかったはずだ。


 今回、他の商人達が王都から拠点を移したのは、いつ、ユートピア商会と同じ様に、国の決定一つで土地を接収されるのではないかと危惧したからに他ならない。

 少なくとも俺はそう思っている。


 だからこそ、ミクロさんが言う様に、もし俺が土地を抱えたまま死んでしまえば?

 俺が王都から撤退すれば?

 ユートピア商会で何か問題が起きれば、すぐにでも他の商会が王都にやって来るのではないだろうか?


 そう。そもそも、国が土地の接収なんて馬鹿な真似をしなければ、ユートピア商会に変わる商会が王都に来ていてもおかしくはなかった。


 だからこそ、ミクロさんにはまず落ち着いてほしい。

 確かに金にものをいわせて土地を買い占める可能性はある。しかし、王都を完全な支配下に置く事は望んでいない。


 王都を完全に支配下に置くなんて面倒臭いし、十五歳である俺に国の運営などできる筈もない。

 それに、失業者を雇い入れるとしても、悪意ある者は弾くつもりだし、全ての人を救う訳ではない。

 王都に俺以外の商人は必要だし、俺だけで王都の経済を回すなんて土台無理な話だ。


「ま、まあ、ミクロさん落ち着いて下さい。話が脱線しています。それにそんな事で国が終る訳がないじゃないですか! 何故そんな突拍子もない話になったかは置いておくとして、一旦、その話は置いておきましょう」


 仮定の話をしていても仕方がない。


「まあいいでしょう。この話は次の機会にでもつけるとして、大通り一帯の土地を購入するとなると、安く見積もっても白金貨五十万枚(約五百億円)は必要となります」

「白金貨五十万枚ですか……」


 ユートピア商会の支店は二店舗ある。

 最近では、万能薬を教会に卸しているお陰もあって、一日当たりの売上は白金貨六千枚(約六億円)。王都支部の売上が落ちているから一日当たりの売上を白金貨五千枚(約五億円)と仮定しても、大体、三ヶ月程で回収が見込まれる訳か……。


 邸宅の地下にある迷宮のお陰で元手はかからず、売ったら売っただけその殆どが利益になる。

 そして、現在、商人達はまだ王都に拠点を移していない。

 王都は既に地下にある迷宮の管理下に置かれている事を考えれば、買い一択だ……。


「わかりました。即金で支払いますので、手続きを進めて下さい」


 俺がそう言うと、ミクロさんは驚きの声を上げた。


「ほ、本気ですか!? 悠斗様、今の王都の現状をちゃんと把握されています? 本当によろしいんですか!?」


 当然把握している。

 何せ、今の王都は迷宮の管理下に置かれているのだから。

 勿論その事をミクロさんに伝える予定はないけど……。


「はい。現状を正しく認識した上で、土地を買うと判断しました。それに大通りの土地の買い占めなんて、そうそうできる事じゃありませんよ?」

「で、ですが、それでは他の商人達が王都に拠点を移してきた場合どうするんですか? その時、大通りの土地は悠斗様に買い占められてしまっているんですよ!? 絶対に反発が起きますって!」


 ミクロさんは一体何を言っているんだろうか?

 土地を安く購入し、高く売りつけるのも立派な商行為だ。

 むしろ、王都から勝手に撤退しておいて文句を言う方がおかしい。

『あの時はこの値段だった』と文句を付ける奴は、商人でも何でもない。

 イチャモンを付けるだけのクレーマーだ。相手にする必要もない。


「何を言っているのかちょっとよく分かりませんが、それについては問題ありません。それに王都の土地は大通り以外にも余っている筈です。王都に移転してきた商人達は、そちらに拠点を構えればよろしいのではないでしょうか?」

「いえ、絶対問題が起きますって! 悠斗様は今の内に土地を安く買い叩き商人達に土地を販売しようと考えているのでしょうけれども、それを商人達が黙って見ている訳がないじゃないですか!」


 ああ、やっぱり。俺が土地を安く買い叩いて、商人達に売り付けると思われていたのか……。

 非常に惜しい。そしてその行為自体に問題は全くない。

 何度もいうが、安く買い付けた物を高く売る。正当な商行為だ。


「今の話、全く問題ないですよね? 安く買った物を高く売るのは立派な商行為です。それに購入した土地を売り付ける予定は一切ありません。なんでしたら、その事を念書に書いても構いませんよ?」


 するとミクロさんはキョトンとした表情を浮かべる。


「えっ? 土地を安く買い叩いて、商人達に売り付ける訳じゃないんですか?」

「はい。購入した土地を貸し付ける事はあっても売り付ける事はありません。それに俺は王都の大通りに購入した土地全てを使ったショッピングモールを立ち上げたいのです」

「土地全てを利用したショッピングモールですか⁉︎ いえ、何の事を言っているのかサッパリ理解できませんが……」

「はい。その通りです。その為の準備に数日を要しますが、配給が続いていてお客さんも少ないようですし、数日位閉めても問題ないですよね?」

「す、数日ですか……」


 俺の言葉にミクロさんが絶句してしまった。

 しかし、俺の理想を形にする為にはそれ位の時間は必要だ。

 それに、今の国民達には配給がある。問題ない筈だ。


「それではここと、この場所の土地を売って下さい」


 絶句しているミクロさんを尻目に、地図に丸を書くと、ミクロさんが覚醒した。


「は、はいっ。わかりました。少々、お待ち下さい」


 ミクロさんが書類を持って部屋を出る事十数分。


「お待たせ致しました。こちらの書類にサインをお願いします」


 俺はミクロさんから書類を受け取ると、よく読んでからサインをし、ミクロさんに返した。


「ありがとうございます。それでは、土地代として白金貨五十万枚をお願いします」

「はい。それでは商業ギルドカード支払いでお願いします」


 ユートピア商会で稼いだお金はギルドカードに貯めてある。俺はギルドカードをミクロさんに手渡した。ミクロさんはそれを機械の様な物に通すと、俺に返してくる。


「確かに受領致しました。それではこちらをお返し致します」

「はい。ありがとうございます」

「それでは、こちらが控えになります。そ、それで、悠斗様はこの王都で一体何をするつもりなんですか?」

「さっきも言ったでしょう? 俺は購入した土地全てを利用してショッピングモールを立ち上げようと思っているんですよ」


 俺はそう言うと、ミクロさんに笑顔を向けた。

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