領主会議(ノルマン視点)④

「自らの王位を守る事が、王都に住まう国民達の幸せに繋がると考えているのであればそれは間違いです。既に国民の心は陛下から離れてしまっているのですから……」


「な、なんだと……」


 エストゥロイ領の領主ロイの言葉に私は口を震わせる。


 国民の心が離れているだと?

 私がこれまでどんな思いで頑張ってきたと思っているのだ。

 国民の事を思い、国をより良い方向に導く為にこれまで邁進してきたのだぞ?


 それに税収が減れば、国民の生活にも影響が出てくる。

 国民はその事をちゃんと理解しているのか?


 ユートピア商会の土地接収を決めた時もそうだ。

 あの決定も税収が上がり、国が豊かになるのであればと、断腸の思いで行った事だ。

 結果としてあの判断は過ちであったが、軽い気持ちで決定した訳ではない。

 それなのに、国民の心が離れている? 国民の心が離れているだと?


「国民が暴動を起こし、王城を占拠するという事はそういう事です」

「確かに、暴徒と化した国民達が王城に雪崩込み、一時的に占拠されてしまったが……」


 あれは仕方がないだろ。王城を守る筈の外門がいつの間にか消えていたのだ。

 あんな事さえなければ、王城は占拠されていない。


「信頼というものは一度失うと、もう二度と戻ってきません。どんなに素晴らしい事を主張しても、どんなに素晴らしい事を成し遂げようにも、信頼がなければ、国民の支持を得る事はできないのです」


「だからこそ、これから立て直そうと……」


「これから立て直すですか……陛下は国民の声を聞こうとしましたか? 自分の足で王都の現状を見て回り国民の声を聞いていれば話は違ったかもしれません。しかし、暴動が起こる程に国民は今の王政に怒りを感じています。王都に住む国民達が望んでいるのはそんな事ではないのです」

「だ、だがっ!」

「今もそうです。王弟殿下が内々にユートピア商会と話を付け、食糧品と生活物資の無償配付をしているからこそ、暴動は収まりを見せています。しかし、この物資の無償配付も長くは持ちません。時間が限られているのです」


 ロイにそこまで言われては言葉も出ない。


 だが、仕方がないではないか!

 失敗を取り戻す事はできない。しかし、私にやれる事など限られている。

 それを何とかしようとしても時間が足りない。


 どうすればいいのだっ!


 それに、それに元はと言えば、ユートピア商会が悪いのではないか!

 商業ギルドのギルドマスターを偽ってまで、国を……王都を嵌めたウエハス。


 ウエハスの背後には大きな組織、いや国が動いているのかもしれない。

 そんな所からの恨みを買ったユートピア商会が全て悪いのではないか!


 何故、私が全ての責任を取らねばならぬ!

 何故、私が責任を取って国王を罷免されねばならぬのだ!


 違うだろう!

 責任を取らねばならぬのはユートピア商会であって私ではないだろ!


 何が『王弟殿下が内々にユートピア商会と話を付け、食糧品と生活物資の無償配付をしているからこそ、暴動は収まりを見せています』だ。マッチポンプもいいとこだろうが!

 自らマッチで火をつけておいて、それを自らポンプで水を掛けて消すような事を仕出かしておいて、何が『王弟殿下が内々にユートピア商会と話を付け』だ!


 ふざけるな!

 何故、この私が国民の怒りを買い、こんな状況に追い込まれねばならぬのだ!


「ロイ様。もうよろしいでしょう」

「ま、待て! 私はまだっ……」


「それでは議題の採決に移りたいと思います。第一号議案、国王陛下の罷免に関しまして、賛成の方は挙手をお願い致します」


 私が呆然とした表情を浮かべる中、一人、また一人と手を挙げていく。

 そして、最後にロイが手を挙げると議長を務める宰相サクソンが目を瞑る。


「……賛成多数で、本議案は原案通り承認可決されました」


 サクソンのその言葉に、私は宙を仰いだ。

 悔しさのあまり言葉すら出てこない。


「これを以って国王陛下を罷免。次に新しい国王の任命について、領主を代表し、ボルウォイ領の領主クラクス様。お願い致します」


「はい。第二号議案、新国王の任命についてですが……」


 ああ、全てが終わってしまった。

 余りの絶望感に、領主達の姿が歪んで見える。


 私はただ税収の落ちた王都を立て直す為、私なりに考え、周りの意見を聞いた上で判断をしてきたつもりが、何故こんな事になってしまったのだろうか?


 私はただ国民から尊敬され慕われ続けた我が父、トースハウン前国王の様になれればと思い行動に移したというのに……。


「王弟殿下であるシェトランド様を新たな国王に任命したいと思います」


 ああ、私は何処で何を失敗してしまったのだろうか……。

 弟であるシェトランドの顔すらよく見る事ができない。


「それでは議題の採決に移りたいと思います。第二号議案、新しい国王の任命に関しまして、賛成の方は挙手をお願い致します」


 一人、また一人と手を挙げていく。

 そして最後の一人が手を挙げると、我が弟、シェトランドが次代の国王になる事が決定した。


「……賛成多数で、本議案は原案通り承認可決されました。以上をもちまして本日の会議の目的次項は終了しましたので、本会議は閉会と致します。ご審議頂きありがとうございました」


 サクソンの言葉に領主達の拍手が送られる。


「私は、私はこれからどうなるのだ……」


 私の呟きに、新たに王となったシェトランドが口を開く。


「兄様は、教会へ預けたいと思っております。甘いと思われるかもしれませんが兄上を流刑に課す事は私にはできません」


 ああ、もう陛下と呼んではくれないのだな……。

 弟にそう呼ばれ、国王で無くなった事を認識する。


 私が口を開こうとすると、突然、空間が歪み、祭服を纏った女性が現れた。


「あなたですね? 教会に預けられる前国王様と言うのは……私、聖モンテ教会の教皇にしてロプト神様の第一使徒、ソテルと申します」

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