領主会議(ノルマン視点)①

「これはこれは、ノルマン陛下。財務大臣まで……。丁度、今、お呼びしようと思っていた所です」

「本日は領主会議の開催日、お忘れではないでしょう?」


「なっ、何故ッ……何故、貴公らがここに……」


 内務大臣のスカーリが王の間に重要書類を忘れたというので、一緒に来てみればなんだこれは……。

 まさかスカーリの奴、この私を裏切った訳じゃないだろうなっ!


 王の間の扉を開け呆然としているスカーリを睨み付ける。

 すると私の視線に気付いたスカーリは、ブンブンと首を振った。


 この焦りよう、裏切った訳ではなさそうだな……。


 だとすれば一体何がどうなっている。どうやって王城の中へ入った?

 領主会議の開催日時を伸ばし、領主達の説得に大臣を向かわせたがそれはどうなった⁉

 そもそも、フェリーの運航を停止していたにも関わらず、何故、王都に来る事ができる⁉


「いかが致しましたか、陛下? どうぞお座り下さい」


 エストゥロイ領の領主、ロイ・エストゥロイが私に着席するよう求めてくる。

 ぐっ……ここは覚悟を決めるしかないか。


「スカーリ、貴様は私の背後に立て」

「は、はいっ!」


 この様子を見るに、領主達の説得は失敗したと見て間違いない。

 愚鈍で惰弱な大臣共め……。


 内頬を噛むと、私は仕方がなく椅子に着席する。


「それでは、ただいまから領主会議を始めさせて頂きます。今回の領主会議は領主の連名により要請されたものです。議題内容は国王陛下の罷免、そして新国王の任命について……通常であれば、陛下に議長を務めて頂く所ではありますが、本会議に限り、私、サクソンが議長を務めさせて頂きたいと思います」


 私を裏切り、シェトランド陣営へと行った宰相サクソンが恭しくも頭を下げる。

 シェトランドの背後には、財務大臣まで立っている。


 くそっ! 裏切り者共が忌々しい。

 しかし、こうなっては仕方がない。

 まずはこの領主会議を乗り切る他、私に選択肢はない。


「それでは、早速、議案審議に入らせて頂きます。今回の審議内容は、国王陛下の罷免、そして新国王の任命についてです。それでは、第一号議案、国王陛下の罷免について、領主を代表し、ボルウォイ領の領主クラクス様。お願い致します」


 議長の呼びかけによりボルウォイ領の領主クラクスが立ち上がる。


「はい。第一号議案、国王陛下の罷免に関しまして説明申し上げます。現在、王都ストレイモイの財政は破綻寸前といっても過言ではない状況に置かれております。また陛下がユートピア商会に行った土地接収の影響により、商業ギルドとの関係は悪化。土地接収を恐れ商人達の他領への拠点移動も加速しております。このままでは来年の税収も当てにする事ができない程です。

 即位してから数ヶ月の期間でここまで王都の財政を悪化させた事から国王としての適性を欠くと判断致しました。よって第一号議案、国王陛下の罷免を提案致します」


「ありがとうございます。それでは、第一号議案について質疑応答を行います」


 ふん。くだらぬ戯言を……。

 宰相に向かって手を上げると、クラクスに視線を向ける。


「分からぬな。王都の財政は破綻寸前というが、それほどまで深刻な状況に置かれているだろうか?」

「どういう事でしょうか?」


 はっ! そんな事も分からないとは、よくそれで領主が務まるものだ。


「税収で補う事ができぬなら商人連合国アキンドに借りればいい。それこそ、担保となる土地は幾らでもある」

「担保となる土地というのは、どの土地の事を指しているのですか?」


 そんな事は決まっている。


「ユートピア商会から接収した土地だ。あの場所はその全てが更地になっている。フェロー王国の中心部といっても過言ではない場所にある土地だ。担保として十分ではないか」

「陛下の判断一つで、接収される危険性のある土地が担保になると、本当にそう思っているのですか?」


 何だそんな事か……。


「確かにあの時の判断が間違っていた事は認めよう。ただ、あれは私一人の判断で決めた事ではない。正式な手続きを踏み、大臣達と決議を執り決めた事だ。それに土地を担保に商人連合国アキンドから金を借りるんだ。商人達は、商人連合国アキンドからその土地を借りればいい。接収される事がないと分かっている土地に商人達を誘致すれば何もかも元通りだ。たった一度の失敗を理由に国王を罷免する議題を提出する等正気ではない」


 悔しいがあの時の判断が間違った事は認めよう。

 しかし、その間違いは様々な要因が重なり合った事によるものだ。

 それに正式な手続きは踏んでいる。決して独断で動いた訳ではない。

 たった一度の失敗で国王を罷免される等、馬鹿げている。


「なる程……。確かに、たった一度の失敗かもしれません。しかし、そのたった一度の失敗により、ユートピア商会を初め、数多くの商人達が拠点を他領に移したのです。それだけではありません。ティンドホルマー魔法学園は王都から他領へ移転。フェリーの運航を停止した事により、食糧の価格は高騰。これではあまりに国民が可哀想です。国の将来の事を考えるのであれば、次代の国王に王位を委ねるべきなのではありませんか?」


 うん? 何かがおかしいぞ。

 ティンドホルマー魔法学園の移転話はスカーリが決着させた筈。

 こいつ、その事を知らぬのか?

 それに国民が暴動を起こした事に対する糾弾もない。

 これならいけるか?


「確かに、クラクスの言う事も分かる。しかし、このタイミングで王位を譲ってはシェトランドが可哀相だ。安心してほしい。既に王都再建の道筋はついている。これからは襟を正し、国民の信頼回復に努める事を誓う。だからもう一度、私にチャンスをくれないだろうか」

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