領主様との話し合い⑤
「ロ、ロイ様! 大変です! フェリーが……。陛下の命令により王都行きフェリーの運航が停止となりました!」
「な、なんだと! 陛下は……。いや、ノルマンは何を考えているのだ!」
突然の事で頭が付いていかない。
「えっ? 一体どうしたって言うんですか?」
俺がそう呟くと、ゴタさんが神妙そうな表情を浮かべる。
「お、恐らく一週間後に予定していた領主会議の開催を妨害する為、陛下がフェリーの運航を停止したのでしょう。しかし王都の食料はエストゥロイ領を含む他領からの輸入に頼っている筈……。運航停止の期間にもよりますが、そんな事をすれば王都は深刻な食糧難に……」
「くっ! 陛下は王都に住む者の事を……。民の事を考えているのかっ!」
ロイ様がテーブルに拳を打ち据える。
「ゴタ! 馬車の準備を! すぐに王都に向かうぞ!」
「し、しかし、せめて過半数以上の他領の領主様が集まらねば領主会議を開く事はできません! それにこうなった以上、領主様方の大半はエストゥロイ領に向かって来られるでしょう。領主様方と足並みを揃えない事には国王陛下の罷免も……」
「くそっ! どうしたら良いのだ!」
何やら大変な事になってた様だ。
王弟陛下の話によれば、領主会議によって現国王を罷免し、王弟殿下が王位につくとの事。
この領主会議が開かれなければ、接収された土地もヴォーアル迷宮の攻略許可も手にする事ができない。
折角、学園長の説得もしたし色々お膳立てしたというのに、それらが台無しになってしまうのは少し嫌な感じだ。
チラリと収納指輪に視線を向けると、先ほど作成したばかりの〔転移門〕と〔瞬間移動〕を付与した魔石の事を思い出す。
要はあれだ。フェリーを使わず王都に移動する事ができれば問題は解決する訳か……。
しかし、この〔転移門〕と〔瞬間移動〕を付与した魔石を表に出すのは少し拙い気がするし、一体どうすれば……。
ユートピア商会に国と同じ位の力や権威があれば問題ないんだろうけど……。
何かいい方法はないだろうか?
そんな事を考えているとロイ様が声をかけてくる。
「悠斗君。急用が入ってしまった。折角、冒険者ギルドに来て貰ったというのに申し訳がない」
「いえ、こればかりは仕方がありません。また後日、依頼のあった人形を持って伺わせて頂きます」
「すまないね。君が廃坑から回収した金庫については、調査の後、必ず報酬を渡す事を約束する」
「はい。俺はここで失礼致します」
俺はロイ様に一礼すると、ギルドマスター室を後にした。
「それにしても、どうしようかな?」
ギルドマスター室を後にした俺は〔影転移〕で邸宅内に戻ると、鎮守神のいる地下迷宮に足を運ぶ。鎮守神には、ドレーク人形に似た人形を作って貰わなければならない。
迷宮内を歩いていると、人形達に指示を出している鎮守神を見つけた。
「鎮守神。今大丈夫?」
「おお、悠斗様。勿論です。それで私に何か用ですかな?」
「うん。実は領主様の娘さんにドレーク人形みたいな人形の作成を依頼されちゃって……」
「ドレーク人形ですか?」
「うん。まるで元Sランク冒険者のドレークさんをデフォルメしたかの様な、目と口に特徴的なメイクの人形なんだけど……」
俺がそう言うと、鎮守神はポンッと手の平を叩く。
「おお、あの人形の事でしたか。人形に名称など必要ないだろうと考えておりましたが、悠斗様はお優しいですな。あんな人形にまで気をかけて下さるなんて……。しかし困りました。丁度、数時間前、その人形にオーランド王国での諜報活動を命じた所なのです。
それに、あの人形はユニークスキルを持つ珍しい素体を元に作成しておりますので、例え、領主様の依頼であったとしてもお渡しする事はできません。勿論、悠斗様がその人形を使って頂くのには申し分ないのですが、領主様に差し上げるのは……」
「そっか、それはそうだよね」
ドレーク人形はユニークスキル〔収納魔法〕と希少スキル〔悪魔召喚〕を持つ特殊な人形だ。
鎮守神としても失いたくない人形の一つだろう。
「しかしながら、領主様の元に諜報要員を送るというその考え、とても素晴らしく思います。領主様も娘の前で重要な話はしないでしょうが、私の作成する人形は優秀です。その建物にさえ侵入してしまえば、もはや情報は筒抜けといっても過言ではありません。要はあの人形と同じ見た目の人形を用意すればよろしいのですね?」
「う、うん。まあそうなんだけど。別にあれだよ? ユートピア商会で販売している人形に、ドレーク人形と同じ様なメイクを施すだけでも全然いいんだからね?」
俺そう言うと、鎮守神は首を振る。
「悠斗様の優しさはお分かりになります。私の作成する人形達に過酷な思いをさせたくないと、そう考えているのでしょう?」
いや、全然違いますけど……。
領主様に渡す為に、態々犯罪者を捕えて人形化しなくてもいいって言ってるんですけど……。
黙っていると、それを肯定と捉えたのか鎮守神はゆっくりと頷いた。
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