グレナ・ディーン学園長の説得④

 俺がグレナ・ディーン学園長に出した条件は三つ。


 ①迷宮・迷宮核に関する情報を口外しない事。

 ②俺に関する情報を口外しない事。

 ③迷宮核の研究は俺の管理する迷宮内で行う事。


 俺の持つ迷宮核は四つ。その内、二つは既に設置済み。今の所、残りの迷宮核を使うつもりはないし、学園長が迷宮核の研究をする事は俺の利益にも繋がる。


「そんな事でいいのですか⁉︎ まったく問題ありません! ぜひ迷宮核の研究させて下さい!」


「それでは、契約成立ですね。ああ、研究結果の公表については俺の名前を出さない事を条件に許可します。また研究結果や進捗状況については月に一度、報告する様お願いしますね?」


「はい! わかりました!」


「じゃあ、屋敷神。よろしく」


 屋敷神は立ち上がると、壁に手を当てる。


「では、失礼して……」


 そして、屋敷神そう呟くと壁から扉の様なものが浮かび上がってきた。


 壁に突然できた扉に学園長は呆然とした表情を浮かべる。


「グレナ・ディーン学園長。こちらに悠斗様の管理する迷宮への扉を設置致しました。迷宮核の研究はこちらで行う様にして下さい。また申し訳ございませんが、この扉は学園長以外の方には見えず、通る事ができない様に設定させて頂きました」


「と、とんでもございません。むしろ、私しか通れない方が好都合です! ち、ちなみに迷宮核以外の研究もこちらでさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 学園長が屋敷神に向かってそう言うと、屋敷神が俺に視線を向けてくる。


「屋敷神はそれでも大丈夫? 屋敷神に負担がかかる様なら諦めて貰うけど……」


「問題ございません」


「そう。負担に感じる様であれば言ってね」


「はい。お心遣い頂きありがとうございます」


 俺は学園長に顔を向け話しかける。


「よかったね。問題ないみたい。ただし、迷宮内だからといって無茶な事はしない様に。あと研究するのはいいけど、学園運営に支障をきたさない様にする事。約束だからね!」


「ありがとうございます! それでは早速研究を……。と行きたい所ではありますが、先に機材の搬入をしなければなりませんね」


 すると屋敷神が口を開く。


「研究に必要そうな機材でしたら既に迷宮内に整えてございます。もし不足がありましたら、遠慮なく申しつけ下さい」


 流石は屋敷神。痒い所にも手が届く。


「あの一瞬でそんな事まで……。ありがとうございます。精一杯、迷宮核の研究をさせて頂きます」


「それじゃあ学園長、コレを……」


 俺が迷宮核を学園長に手渡すと、迷宮核を受け取った学園長の手が震え出す。


「こ、これが迷宮核……」


「はい。迷宮核です。替えが利くような物ではありませんので大切に扱って下さいね」


「は、はい! わかりました! そ、それではお師匠様、私はこれにて失礼します」


 学園長は迷宮核を両手で持つと、一礼して迷宮内に行ってしまった。

 学園長室に残された俺達は唖然とした表情を浮かべる。


 まさか迷宮核を渡してすぐに、迷宮核の研究に走るとは思いもしなかった。

 とはいえ、ああなった学園長を止める事はできそうもない。


「なんだか忙しみたいだし、俺達は帰ろうか?」


「そうですね。学園長も迷宮に籠ってしまいましたし、私達も帰ると致しましょう」


 俺達はソファーから立ち上がると、魔法学園を後にした。


 邸宅に繋がる階段を上がっていくと、迷宮の入り口に鎮守神が立っていた。


「お帰りなさいませ悠斗様。学園長との話し合いを終えお疲れとは思いますが、エストゥロイ領の領主ロイ様の使者が客間でお待ちです。いかが致しましょうか?」


「えっ? 領主様の使い⁇」


 エストゥロイ領の領主と接点はない。

 一体何の用だろうか?


「客間だね。すぐに向かうよ」


 俺は屋敷神と別れると鎮守神先導の下、客間に向かう事にした。

 扉をノックし、客間に入ると直立姿勢のまま待っていたであろう使者の方と視線が合う。


「おお、あなたがSランク冒険者の佐藤悠斗様ですね」


「えっ? はい。佐藤悠斗です」


 なんだろう?

 Sランク冒険者と言うからには、依頼か何かかな?


「まずはそちらのソファーにお座りください」


「はい。ありがとうございます」


 使者の方はソファーに座ると、軽く自己紹介を始める。


「本日は、急な来訪にも関わらずお会いする機会を頂きありがとうございます。私、エストゥロイ領の領主ロイ様に仕えておりますゴタと申します。早速ではありますが、ロイ様より伝文を預かって参りました」


 ゴタさんは鞄から一枚の封筒を取り出すと、それを俺に渡してくる。


「ロイ様からは悠斗様に直接渡す様に仰せつかっております。急かす様で大変申し訳ないのですが、こちらを読み返事を頂けますでしょうか?」


「わかりました」


 ゴタさんから封筒を受け取ると、開封して中身を確認する。

 そこには、冒険者ギルドのギルドマスター、ヨルズルが捕まった事、そして至急引き受けて欲しい依頼がある事が書かれていた。


「えっ? ヨルズルさん捕まったんですか⁉︎」


 俺の言葉に使者のゴタさんが首を傾げる。


「はい。ロイ様よりユートピア商会で働く冒険者が盗賊となったヨルズルを捕らえたと聞いております」


 しかも盗賊となったヨルズルさんを捕らえたのはユートピア商会の従業員らしい。

 し、知らなかった。あのヨルズルさんがギルドマスターを辞め、いつの間にか盗賊になっていたとは……。


「そうですか……」


 何があったんだろう。ギルドマスター職を辞して盗賊になるなんて……。転落人生を絵に描いたような話だ。まあヨルズルさんの話は置いておこう。問題は領主からの依頼だ。


「また廃坑ですか……。それに金庫の回収?」


 依頼内容は、廃坑内に落ちた金庫の回収と書いてある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る