悠斗と第二王子の話し合い①

 邸宅の客間のドアを開くと、そこには〔私のグループ〕の会頭にして商人連合国アキンドの評議員マスカットと初老の男性、そして俺と同じ位の年齢の男の子の姿があった。


「悠斗殿。ご多忙にもかかわらず貴重なお時間を頂き、誠にありがとうございます」


 うん? なんだか今日はマスカットさんと俺との距離が遠く感じる。


「いえ、それ程の事でもありません。それでそちらの方は……?」


 俺はマスカットさんの隣に視線を向けると、初老の男性と男の子の紹介を促す。


「この方々はフェロー王国のサクソン宰相。そして第二王子のシェトランド様です」


「ご紹介に預かりましたサクソンです。そしてこちらが第二王子のシェトランドです。本日は悠斗殿にお願いがあり参りました」


 フェロー王国の宰相に第二王子⁉

 フェロー王国の宰相と第二王子が俺に何の用が……。


 まさか、王都ストレイモイを秘密裏に制圧している事がバレた?

 それとも、ユートピア商会跡地の土地を全て迷宮壁でコーティングしている事がバレたのだろうか……。


 俺は平静を装うと涼しい顔で呟く。


「お願いですか……。怖いですね。一体何をお願いされるのでしょうか?」


 一国の宰相と第二王子からのお願い。

 一体何だろう。何をお願いされるのか本当に怖い。


 そんな事を考えていると、俺に対して宰相が頭を下げてくる。


「ユートピア商会の土地接収の件、誠に……。誠に申し訳ございませんでした」


 ああ、何かと思えばそんな事か……。


 正直、王命により土地を接収されてしまった事に対して思う所はある。

 しかし、王都を迷宮の支配下に置いた今、別にどうでもいいという気持ちもある。


 既に、エストゥロイ領で商会経営を行っているし、未練といえば子供達を王都のティンドホルマー魔法学園に預けたままであるという事位。そのティンドホルマー魔法学園も近い内、エストゥロイ領に移転してくる。


「頭を上げて下さい。それで、宰相様と第二王子様は俺に何を願いに来たのですか? 折角、来て頂きましたので話位はお聞きしますが、例えば何の補償もなくユートピア商会に王都に戻って欲しいとお願いされても、学園長に移転を中止する様、口利きを願われたとしても困りますよ? ユートピア商会を追い出したのも、魔法学園を軽んじ学園長を怒らせたのもあなた方なのですから……」


 未練がなくなった割に辛辣な事を言ってしまったかもしれない。


 俺の言葉に客間の空気が凍り付く。

 しかし、そんな事は俺に関係ない事だ。


 俺が笑顔を浮かべながらそう言うと、宰相が汗をハンカチで拭きながら口を開いた。


「……は、はい。誠に、誠に申し訳ございませんでした。お怒りはごもっともです。恥を忍んでお願い申し上げます。どうか……。どうか王都に戻って来ては頂けないでしょうか。接収した土地もお返し致しますし、建物を建てる費用もこちらで負担致します。勿論、私にできる事でしたら何でも致します。なのでどうか……。どうか……」


「国王陛下は何と仰られているのですか?」


 俺がそう言うと宰相は口を噤む。

 やはり……、今の言い方。国王には内緒でここに来た様だ。


 国王に内緒で来た様だし、国王の暴走を止める事ができなかった宰相にできる事なんてたかが知れている。全く話にならない。


 俺が呆れた表情を浮かべると、宰相の隣にいる第二王子が口を開いた。


「兄上には私から話を通します。それに兄上は……」


「シェトランド様、それ以上は……」


 宰相に横から口を出された第二王子は少し言い淀むも、俺にまっすぐ視線を向けてハッキリ話し出す。


「サクソン。こちらはお願いをする立場だ。それにこの話をしなければ、悠斗様も納得しまい」


 宰相が第二王子の言葉に宰相は黙り込む。

 そして第二王子は「できればご内密にして欲しいのですが」と俺に呟くと話を続ける。


「現国王である私の兄上、ノルマンは近々責任を取り退位する予定です。このまま兄上に国政を任せていては大変な事になりますから……。領主会議で決を取り、後任には私が付きます。悠斗様、此度の件、大変申し訳ございませんでした。接収した土地も、土地に建物を建てる費用も私が必ず補償致します。他にも私にできる事がありましたら何でも言って下さい。できる限り対応させて頂きます。ですので……。ですのでどうか王都に戻って来ては頂けないでしょうか?」


 第二王子は俺に頭を下げると、頬を汗が伝う。


 随分と緊張している様だ。

 身分からいえば俺は平民。これから国王様になる予定の第二王子様とあろう者が簡単に頭を下げていいものなのだろうか?


 俺はマスカットさんに視線を向ける。

 するとマスカットさんは口をニヤリと笑うと口パクで『好きにしろ』と呟いた。


 エストゥロイ領に商会を開いた今、王都に未練はない。しかし、折角王都を迷宮の支配下に置いたんだし、このチャンスを活かしたい。どうせなら、王都にある迷宮も手に入れておきたい。


「それでは一つだけ……。王都にあるヴォーアル迷宮。あの迷宮の攻略許可を下さい。ああ、迷宮核を取ろうと思っていないので、その点ご安心を……」


「ヴ、ヴォーアル迷宮をですか!?」


 宰相が声を強張らせる。


「迷宮の攻略許可ですか……。悠斗様も知っての通り、ヴォーアル迷宮は王都の資源です。本当に迷宮核を取らないと約束して頂けますか?」


「はい。迷宮核をを約束致します」


「そうですか……。わかりました」


 流石は第二王子。話がわかる。

 第二王子の隣では、宰相が唖然とした表情を浮かべていた。

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