その頃、ヨルズルの別荘では……
悠斗が廃坑内でドレークと戦っている頃、ヨルズルの別荘には数名の男が潜んでいた。
彼らの目的は、エストゥロイ領冒険者ギルドのギルドマスター、ヨルズルの殺害。
ここ最近、ヨルズルと繋がりのある盗賊団が次々と冒険者により捕まっている。
ヨルズルに上納金を渡す事で、今まで仲良くやってきたつもりだったが、そう思っていたのは俺達だけだったらしい。
ドレーク様からもヨルズル殺害の許可は得ている。
そして、万全を期すためドレーク様より預かった魔剣フラガラッハもある。
何でもこの剣には、いかなる鎧も切り裂き、この剣を使用する者には風を支配する力を与え、いかなる者からも真実を白状させる力があるという。
ヨルズル……。奴は根は腐っていても元Aランク冒険者。油断できない相手だ。しかし、この魔剣フラガラッハがあれば問題ない。
これでヨルズルを斬ればあら不思議。ヨルズルに金庫の開け方を白状させる事ができる。つまり、これさえあればこの金庫の中にある白金貨は全てドレーク盗賊団の物。
くくくっ、盗賊団を裏切った罪。
「…………」
それにしてもヨルズルの奴、遅いな……。
ドレーク様に悠斗とかいうSランク冒険者を引き渡したら帰って来るんじゃなかったのか?
いや、廃坑内に閉じ込めドレーク様の遊び相手になって貰うんだったか?
……まあいいか。
そんな事を考えていると、地面が激しく揺れる。
「なんだ? さっきからずっと揺れてるな?」
この別荘の真下は空洞が広がっている。
その空洞はドレーク様とヨルズルが数年かけて補強し、柱を立てる事で何があっても崩れない様にしたと聞いていたが……。
この揺れ方はヤバくないか?
俺は仲間達に視線を向ける。
『揺れが酷い様だがどうする? 撤退するか?』
『心配し過ぎだ。廃坑が崩れる訳がない』
『その通りだ。それに裏切り者のヨルズルを生かしたままにしておけるものか。ここで確実に仕留めるぞ』
言われてみればその通りだ。
廃坑が崩れる筈がない。何せこの場所は危険であるが故に誰も近寄らず、人が寄り付かないからこそ、奪い取った物を保管したり、我々の様なお尋ね者が堂々と密会できるのだ。
考えすぎだな……。
『余計な事を聞いた。すまなかったな』
俺がそう呟くと仲間達はゆっくり頷く。
そして待つ事一時間。
さ、流石に遅くないか?
悠斗とかいうSランク冒険者をドレーク様に引き渡すだけだろ? 何でこんなに帰りが遅いんだ?
緊張感を持ちながら待っていたせいか酷く喉が渇く。
ふとテーブルの上を見ると、ハーブティーのポットが置いてある。
俺はゴクリと喉を鳴らすと、仲間達に話しかける。
『なあ。まだ帰って来ない様だし、少しアレ飲んでもいいか?』
『アレ?』
テーブルに置いてあるハーブティーのポットに視線を向ける。
『正直俺も喉が渇いていた所だ。少しだけ休憩といこうぜ』
『ああ、そうだな』
俺はドレーク様から預かった魔剣フラガラッハを壁に立てかけると、ハーブティーの入ったポットに手をかける。そしてハーブティーをカップに並々注ぐと、ゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み干した。
『く~っ! うめぇ!』
『ああ、このハーブティー飲み易いな』
『もう一杯くれ!』
『俺にもだ!』
そして俺達は、ハーブティーの二杯目を飲み干した。
『よし。喉の渇きも潤せただろ。さあ、ヨルズルの奴が帰って来るのを……。あれっ?』
ハーブティーの二杯目を飲み干すと、急に眩暈が襲ってくる。
『な、なんだ。急に身体が重く……』
『拙い。もしやこれは……。毒……』
くっ……。まさかそんな罠が仕掛けてあるとは……。
腐っても元Aランク冒険者……。伊達や酔狂で冒険者ギルドのギルドマスターをやっている訳じゃなかったか……。
す、すぐにこの場を離れねば……。
これが奴の……、ヨルズルの仕掛けた罠だとすればここに居るのは危険だ。
「あっ! ぐっ……!」
急いでこの場から離れようとするも、立てかけた魔剣フラガラッハに足をかけ転倒してしまう。
身体が怠い……。激しい頭痛に筋肉痛、関節痛等酷く身体中が痛む。何だか寒気もしてきた。
余りの怠さに起き上がるのが辛い。
『お、おい……。何をやっている。早く、早くこの場から離れるぞ』
『ま、待ってくれ。俺の事は置いて行っていい。せめてこれを……。俺の足元にある魔剣フラガラッハだけは持っていってくれ……』
仲間達も辛そうな表情を浮かべている。
今の俺と同じ様な症状に見舞われているのだろう。
『わ、わかった。それはドレーク様のものだからな。それだけは回収しよう』
仲間の一人が俺の横に転がる魔剣フラガラッハを手に持つ。
『ああ、すまない……。ん? なんだ?』
俺がそう呟くと急に地面が大きく揺れ出した。
『な、なんだ! 何が起こっている!』
『こ、この揺れは! 待避……! 早く待避するんだ!』
しかし逃げたくても身体が動かない。
地面の揺れと身体の異常。その二つが俺達をこの場から逃すまいと邪魔をしてくる。
そして、ビシリという音が部屋中に響き渡る。
音の下方向に視線を向けると、仲間が手に持つ魔剣フラガラッハが光りを放ち罅割れた。
非常に嫌な予感がする。
『そ、それを放せェェェェ!』
咄嗟に叫び声を上げるも、身体は動かず、仲間が魔剣フラガラッハを投げ捨てると同時に罅割れ大爆発を起こした。
爆発に巻き込まれた俺達は爆風に煽られ、別荘の外に放り出される。
『がっ……。あっ……』
消えゆく意識の中、薄く眼を開くと別荘が地下に沈んでいく。それを最後に俺達は意識を手放した。
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