異端審問官①
「あら、あらあら? いつの間に……あの子……ルチアを攫っていくなんて、いけません。いけませんね。」
神託スキルを持つ修道士ルチアをこのままにしておく事は出来ない。
この事は神託にもなかった出来事だ。
まだ発現したばかりとはいえ、神より言葉を賜わる事のできる神託スキルは危険だ。
大司教ソテルがこれまで入念に準備してきた事、そのすべてをひっくり返されかねない。
「追わなくてはなりませんね……。」
ソテルは神託スキルにより、ルチアの居場所を特定する。
「フェロー王国の王都にある邸宅ですか……まさか本当にあの商会の関係者とは思いもしませんでした。それにしても、あの子……こんな所に何の用があって来たのでしょうか?」
考えても、考えてもスヴロイ領近くにある森深くに入り込む理由が見つからない。
「……考えていても仕方がありませんね。あら、あらあら? 異端審問官……ようやくの到着ですか。ここは一旦、神託通り彼等にすべてを任せましょう。」
そう呟くと、ソテルは笑みを浮かべながら空間属性魔法の
ソテルがフェロー王国の王都にある教区教会へ
「……遅いぞ。ソテル。どこに行っていた。」
大司教ソテルを待つ8人の異端審問官が、怒りの表情を向ける。
「これは、これは……ドミニカ様。遠い所からお越し頂きありがとうございます。ようこそ教区教会へ。神事に没頭するあまり遅れてしまいました。申し訳ございません。」
「ご託は良い。ソテル……異端者について詳しく話せ。神託でこれから我々が何をどう成すべきかについても教えろ。」
「わかりました。」
ソテルはそう呟くと、神に祈りを捧げ神託スキルを発動させる。
「ああ、ああ……これは困りました。これを言ってしまっていいのでしょうか?」
異端審問官長ドミニカは、ジロリとソテルを睨みつける。
「時間が惜しい。さっさと話せ。」
「ふふっ、それでは神より賜ったお言葉を伝えます。異端審問官壊滅だそうです。まるで商会に触れるなと言わんばかりの神託ですね。ああ、困りました。困りました。しかし……。」
「……これも神の与えたもうた試練なのだろう。神の与える試練に間違いはない。異端信仰者を正統側へ復帰させる事こそ我らが使命。これまでも我らは強大な力を持つ異端信仰者を正統側へと導いてきた。異端審問官として異端信仰者を放置することはできん。」
異端審問官壊滅というこれほどまで直接的な神託を賜わったのは驚いた。
しかし、不利な神託を賜わったのは、何もこれが初めての事ではない。
何度となく不利な神託を賜わりそれを覆してきた。
「そうですか、そうですか。それでは神託で賜わった異端信仰者の情報をお渡しいたします。」
ソテルは、空間から1枚の紙を取り出す。
「これは神託で賜わった異端信仰者の情報を記入したものです。ここに異端信仰者のすべてが書かれています。どうぞお受け取り下さい。」
「協力感謝する。では行くぞ。」
ドミニカはソテルから紙を受け取ると、異端審問官を引き連れそのまま教区教会を出ていく。
「ふふっ、ルチアの事を除けば、すべては神託通り……しかし、異端審問官壊滅とは……商会とはそれほどの力を持っているものなのでしょうか? いけません、いけませんね。神託を疑ってはなりません。異端審問官を退ける程の力を持つ商会、そしてその商会主である佐藤悠斗にアラブ・マスカット……あの子を追い、ルチアを取り戻すのは彼らを壊滅させてからに致しましょう。」
ソテルは教区教会を去って行く異端審問官たちに視線を向けると、微笑を浮かべ異端審問官たちの背中に向けて小さく呟く。
「さようなら、異端審問官長ドミニカ。あなたはこれまで聖モンテ教会の為、良く尽くしてくれました。後の事はすべて私に任せ、神の御許にお帰りなさい。」
異端審問官壊滅、これほどまで直接的な表現の神託を私は聞いた事がない。
おそらく、彼らは今回確実に滅ぶ事になる。
ソテルは小さく祈りを捧げると、
異端審問官壊滅と神託を賜わった以上、ソテルも行動に移らなければならない。
「ああ、ああ……なんと言う事でしょう。これが神の意思なのですね。」
異端審問官長ドミニカとその他7人の異端審問官を倒したところで、異端審問官壊滅とはならない。
神国で育てられている異端審問官候補生たちを根絶やしにしない限り、異端審問官が滅ぶ事はないのだ。
しかし、異端審問官壊滅が神の意思であるならば、神託を賜わった聖モンテ教の大司教として、それを実行に移さない訳にはいかない。
「ああ、ああっ! 私は今歓びに震えています。今の私は、同じ聖モント教の門徒を神の御許に送りとどける正に天使。これが神の意志なのですね。おお神よ、いま御身に敬虔なる門徒をお送り致します。」
ソテルは敬虔なる異端審問官を育てるドミニカ修道会を眼下に収めると口元を歪め狂気的に笑い出す。
「さあ神託を実行に移しましょう。」
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