商人連合国アキンド緊急評議員会議

「これより、緊急評議員会議を始める。」


 ここは商人連合国アキンドの中枢、【代表評議員】バグダッドは鋭い視線を【執行担当評議員】リマに向けると、事の経緯の説明をリマに求める。


「なぜたった1週間もの間に、白金貨10,000枚(約10億円)もの支援金をアキンドが拠出しなければならなくなったのか、その理由を説明して頂きたい。」


【執行担当評議員】であるリマが檀上に上がると、釈明を行う。


「事の始まりは、元Aランク商人佐藤悠斗が一時脱退を申し出たことから始まります。

 皆様は、商業ギルドに属する商人同士が手を取り合い協調性を持って運営を行っている中、一時的とはいえ、商業ギルドを脱退した商人が、好き勝手に商いをし、市場を乱されることを望んでおいででしょうか。

 かの商人は、商業ギルドに加入していたにも関わらず、これに背く行動に打ってでたのです。

 そのため、商人連合国アキンドの【執行担当評議員】として、フェロー王国、王都のギルドマスター、ミクロに命じ、元Aランク商人佐藤悠斗の店で販売されている商品の価格と、同業の商人の販売する商品の価格との差額を商業ギルドが負担することに致しました。

 遺憾なことに佐藤悠斗率いるユートピア商会の策略により、このような結果を招いてしまったことには申し開きもございません。」


「聞けば、マスカットは元々、反対意見を述べていたようではないか。」


「リマ殿の勇み足であったのでは?」


「いえいえ、そうとも限りません。誰がこんな事態を考えたでしょうか。普通の商会であれば、こんな事にはなっていないはず……。私が評議員になってから数十回同様の事が起きましたが、普通の商会であれば、1週間と経たず頭を下げに商業ギルドにやってきたものです。つまり、元Aランク商人、佐藤悠斗が異質なのであって、それを責めたてるのはどうかと思います。はい。」


「だとして、これからどうするというのだね!」


「このままでは、いたずらに支援金が搾取されてしまう。」


 議論が白熱する中、リアが口を歪ませ発言する。


「もちろん解決方法を考えてきました。いま中途半端に支援金を打ち切ることはできません。途中で支援の手を止めることは商業ギルド、いえ、商人連合国アキンドの信頼性が著しく損なわれることでしょう。」


「では、どうするというのかね?」


「現状、佐藤悠斗と同業の商会では支援金を充てにして大幅な大安売りをしています。支援金の支払いは1ヶ月後、それまでの間、彼らの約束手形は取扱停止扱いといたしましょう。」


「なにを言っているか分かっているのか? 大安売りをしている今、手元に資金は残っていまい。彼らの約束手形の取扱いを停止しては商売が……いや、生活すら成り立たなくなってしまう。」


「だぁ~かぁ~らぁ。そんな商人たちに、これ以上支援金を支給する必要はないって話ですよ。」


 そんなリマの物言いに、バグダッドは顎に手を当て考え込む。


「約束手形の取扱いを停止された商人たちへの補償はどうするつもりだ?」


 一時的とはいえ、約束手形の取扱いを停止させられることは、商人にとって致命的ともいえる信用問題を引き起こす。


「補償? この支援金がその代りですよ。必要ないでしょう。なんなら私が商会ごと買い取って差し上げてもいい。」


「貴様ッ!」


 すると、今まで何も発言せず事の推移を見守っていた【監査担当評議員】アラブ・マスカットが手を上げリアに質問をする。


「先日の会議で元Aランク商人、佐藤悠斗に対する対応は『静観』と決まっていたはずだが……なぜ、商人連合国アキンドがリマ氏発案の支援金を負担するという話になっているのだね。」


 リマは、グッと奥歯を噛みしめマスカットを睨みつける。


「なにを仰るかと思えば、詮無きことを……。今までも同じ対応を、敵対する商人に科してきたではきたではありませんか。アラブ・マスカット氏が懇意にしている佐藤悠斗だけ、その例外とするのはなかなか……。私情を挟まないで頂きたいですね。」


「ふむ。私が佐藤悠斗氏に私情をとな……笑わせてくれる。リマ殿はユーモアのセンスがあるようだ。」


 マスカットの言葉に、リマは青筋を立てて睨みつける。


「どういうことですか? 私を侮辱しているのですかな、アラブ・マスカット!」


「いやはや、まるで何にでも噛みつく獣のようだな。話をすり替えないで頂きたい。私は、なぜ評議員会議で決めた『静観』という行動指針を破り、リマ氏発案の『支援金の支給』がまるで既定路線のように走っているのか。問いただしているのだよ。」


「……先程お話し致しましたとおり、今までも同じ対応を、敵対する商人に科してきたではきたではありませんか。アラブ・マスカット氏が懇意にしている佐藤悠斗だけ、その例外とするのは……。」


 マスカットは言葉を遮ると、厳しい視線をリマへと向ける。


「評議員会議で決定した『行動指針』、それよりも『慣例』が優先される。本気で言っているのか?」


 マスカットの苦言にリマはうまく言葉を紡ぐことができない。


「本気でそう思っているようであれば、リマ氏は評議員としていささか問題があるようだ。評議員会議の決定は慣例よりも優先される。頭に刻んでおくといい。」


 マスカットの言葉に静まり返る会議室。

 当の本人は気にもせず、【代表評議員】であるバグダッドに視線を向ける。


「評議員会議で決定した行動指針は絶対。リマ氏はこれを深く心に刻むように。しかしながら、リマ氏の先走った行動により通達されてしまった『支援金の支給』、これについては支払う他ないか。支援の手を途中で止めることは商人連合国アキンドの信頼性が著しく損なわれることに繋がる。問題はその損失金額をどれだけ抑えることができるのか……リマ氏、当事者として何か意見はあるか?」


「で、でしたら本件を私にお任せ頂きたい。任せて頂けるのであれば私の責任で、支援金の金額をこれ以上増やすことなく、見事収束させて見せましょう。」


「ほう。私の責任で……ね。ということは、当然、これ以上の『支援金の支給』に関してはリマ氏が責任を持つ。そう言うことですかな?」


 リマはギリッと唇を噛むと、「もちろんです。」と口にする。

 こうなってしまった以上、この件を収めないことには評議員としての立場が危うい。


「それでは、意見を纏めたいと思います。『支援金の支給』を含めリマ氏に本件を任せても良いとお考えの評議員はご起立願います。」


 すると、マスカットを除くすべての議員が立ち上がる。


「マスカット殿、如何いたしましたかな?」


「本件を独断専行の過ぎるリマ氏に任せて大丈夫なものか、考えあぐねてていてな。最後に質問を一つだけしてもいいかね。」


 マスカットの言葉に、バグダッドが頷くとリマに視線を向け問いかける。


「今回支援金の対象となっている商会、彼らに不利益が無いよう収めることができる。そう考えていいのだな?」


「……もちろんです。」


「ならば、私から言うことは何もない。」


 そう言うと、マスカット自身も立ち上がる。


「全員賛成ということで、支援金の上限は白金貨12,000枚までとし、本件は評議員リマ氏に任せるものと致します。リマ氏には、責任をもってこれにあたること。これにて緊急評議員会議を閉会とする。」


 バグダッドが緊急評議員会議を閉会すると、リマを残し評議員たちが会議室から退出していく。


 リマ以外誰もいなくなった会議室。

 リマは悠斗とマスカットへの怒りを隠すこともなく壁を殴りつけるのであった。

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