ユートピア商会2日目

 現在の時刻は午前8時50分。

 ユートピア商会オープン2日目、今日もお客さんが、開店前から商会前に列をなして並んでいる。


「皆さん、オープン2日目、今日も張り切っていきましょう! 本日もよろしくお願いします!」


「「「よろしくお願いします!」」」


 朝礼が終わると、従業員たちはそれぞれの持ち場へと向かう。


 現在の時刻は午前9時。

 さて、準備は万端、ユートピア商会オープンである。


 悠斗は、入り口の扉に手をかけると、大きく扉を開き声を上げる。


「おはようございます! ようこそユートピア商会へ! 只今よりオープンです!」


 その言葉を待っていたかのように、客たちはぞろぞろ並んで店内に入っていく。


「ようこそ、ユートピア商会へ! 店内へは順番に並んでお入りください。」

「そこの方! 順番は抜かさないようお願いします!」


 客入りは上々、客足は途絶えることがない。


「それでは皆さん、俺は庭で採用面接を行ってきますので、なにか問題が発生したらすぐに教えてください。」


「「「はい!」」」


 悠斗は従業員たちにそう言い残すと、今度は、面接試験を行うため邸宅の庭へと向かう。


 昨日の内に、受付時間だけ変更した募集案内を貼り出したところ、新たに20名、そして従業員たちの紹介によるスラム出身者30名の計50名が邸宅の庭に集まっている。


「本日はお忙しい中、お集まり頂きまして、誠にありがとうございます。ユートピア商会の会頭、佐藤悠斗と申します。早速ではありますが、これから10名ずつ集団面接を行いたいと思います。合否については、面接後すぐにお伝えいたしますのでよろしくお願い致します。それでは、並んでいた順に10名ずつ着いて来て下さい。」


 そういうと、悠斗は面接対策されないよう広場の少し離れたところに10名を集める。


「それでは皆さん。そちらの椅子にお掛けください。」


 悠斗はウッチーの用意してくれた椅子に腰掛けるよう採用希望者に声をかける。


「それでは、これより最終面接を始めます。」


 ちなみに面接官はウッチー、トッチー、俺の3名である。


「まずは、簡単な自己紹介をしてもらおうと思います。名前と年齢、出身と特技について教えてください。自己紹介後に簡単な質問をさせて頂きます。では、そちらの方から順番にお願いします。」


 そういうと、悠斗は右側に座っている女性に声をかける。


「はい。私はジュリアと申します。年齢は18歳、フェロー王国出身です。昨日まで商業ギルドの受付嬢として従事しておりました。そのため、接客や算術、交渉術など、様々な場面でユートピア商会のお役に立てると考えております。よろしくお願い致します。」


 ジュリアは丁寧にお辞儀をすると、直立姿勢のまま、悠斗たちの質問を待つ。


「ジ、ジュリアさん!?」


「はい、悠斗様。ジュリアです♪ あまりに魅力的な求人内容に居てもたってもいられず、来てしまいました。」


 そう、つい先日お会いした商業ギルドの受付嬢、ジュリアさんである。

 どうやら、商業ギルドを辞め、俺の商会の面接を受けに来たようだ。

 一瞬、商業ギルドからのスパイか? とも考えたが、そう言った考えを持っている人は、ウッチーとトッチーの【自動防御ディフェンス】を抜けることはできない。驚くことに、わざわざ商業ギルドを辞め、面接を受けに来たとみて間違いないだろう。


 それにしても、そんな急に商業ギルドを辞めて大丈夫なんだろうか?


「ジュリアさん。まずはお座りください。」


「はい。失礼いたします。」


 ジュリアを椅子に座らせると、悠斗は口を開く。


「ジュリアさん、商業ギルドを退職してここに来たように聞こえたのですか、間違いないですか?」


 ジュリアは笑顔を浮かべ悠斗の問いに答える。


「はい。昨日商業ギルドを退職し、面接を受けにきました。」


 昨日って、そんな簡単に商業ギルドを辞められるものなのだろうか? それに、うちに入った後、すぐに転職されてしまっても困る。

 悠斗は疑問を口にする。


「昨日、商業ギルドを退職されたそうですが、そんな簡単に商業ギルドを退職できるようなものなんですか?」


「いいえ。商業ギルドの受付嬢の勤務は、基本的に3ヶ月更新となっております。私の場合、丁度、昨日が更新期限となっておりましたので、更新せず、こうして面接に来た次第です。」


 知らなかった。受付嬢って3ヶ月更新なんだ……。

 当然、更新されなければ職を失う。

 3ヶ月ごとに、仕事を失うかもしれないというストレスを抱えながら、あんな笑顔でギルドの受付嬢として働いていたなんてすごいな……。


「私からもよろしいでしょうか?」


 トッチーからもジュリアさんに質問があるようだ。


「当商会では、迷宮で行う実技研修があります。この研修は、従業員の身を守るため必ず行って頂くのですが、モンスターを倒す覚悟はおありでしょうか?」


 ジュリアは少し考える素振りを見せると、しっかりと、トッチーの目を見て答える。


「はい。それが従業員の身を守るため行われるのであれば、必ずやり遂げて見せます。」


「……わかりました。質問は以上です。」


「ジュリアさんありがとうございます。それでは次の方どうぞ!」


 悠斗の声に反応し、高齢の男性が立ち上がる。


「はい。私はドミニカと申します。年齢は60歳、フェロー王国出身です。昨日まで商業ギルドの顧問として従事しておりましたが定年を迎え退職。60歳になりますが、休日はBランク冒険者として活動しており、ユートピア商会の様々な場面でお役に立てると考えております。よろしくお願い致します。」


 またもや商業ギルド出身者である。

 今商業ギルドはどうなっているのだろうか?


「ドミニカさん。まずはお座りください。」


「はい。失礼いたします。」


 ドミニカを椅子に座らせると、悠斗は口を開く。


「ドミニカさんはなぜ当商会の採用試験を受けようと思ったんですか?」


「はい。求人内容が魅力的なこともありますが、何より、ユートピア商会に勢いを感じました。商業ギルドにも、継続雇用制度というものが存在しますが、何もやることのない、名ばかりの閑職です。私はそんな環境に身を置きたくはないのです。」


 なるほど、その気持ちはなんとなくわかる気がする。


 俺のおじいちゃんは自営業だったけど、職場で働いているとき一番目が輝いていた。

 俺の父さんに事業を譲ってからというものの、生活に張り合いが無くなり、一気に老けてしまったけど、たまに父さんに頼まれ仕事を手伝う時には、年齢を感じさせない働きっぷりを見せていたっけ……。


「……わかりました。質問は以上です。」


「ドミニカさんありがとうございます。」


 その後、50名の面接したところ、そのうち30名がスラム出身で、20名がフェロー王国出身、それもつい先日まで商業ギルドで従事していたということが分かった。


 商業ギルドは一度に20人もの従業員がいなくなって回るのだろうか?

 とはいえ、従業員を確保することはできた。


 そう、面接まで辿り着いた人は全員合格としたのである。

 【鑑定】持ちのスラム出身者を30名確保できたし、商業ギルドの情報を持つ元ギルド員20名も確保することができた。


 何より驚いたのが、商業ギルドの福利厚生の酷さである。

 仮にも、商人たちを纏める商業ギルドなんだから、ちゃんとしたものかと思えば、時間外手当は付かないし、休日出勤手当もつかない。賞与や退職金もないそうだ。それでいて給与は月額固定の白金貨2枚とか、職場環境がブラックすぎる。


 ちなみに、ジュリアさんやドミニカさんをはじめとする新たな従業員たちには、明後日から研修を受けてもらう予定だ。

 いつも通り、支度金として白金貨3枚を配り、明日は従業員宿舎への引っ越しを行ってもらう。


 さて、採用面接は終わった。

 今日はユートピア商会オープン2日目、従業員たちと共に頑張ろう。

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