第30話 ゼウスの成長速度は異常

 アリサの能力成長には目を見張るものがあった。


 まず、どのステータスも成長が同じよう伸びていく。魔力も力も賢さも、まんべんなく伸びていく。

 そして成長速度が僕の成長速度の大体3倍ほどなのだ。


 例えば僕の加護の【坂本龍馬】のレベルが一つ上がったとする。

 そうすると大体防御や魔力は1、賢さなどは4ずつ上がっていく感じだ。それは最近分かってきた。


 だが、アリサの加護の【ゼウス】の場合は、レベルが1つ上がることにどのステータスも5から8くらい伸びていく。

 それから元のステータスも平均で50くらいあって、即戦力と言って差し支えなかった。

 もちろんアリサがケガをしないように超過保護で臨んでみたのだが、あっさりとアリサは戦い方を覚えてしまった。うちの妹、天才です。


「アリサ、後ろのヤツ頼む!」

「うん、にいさん! 【ファイア】」


 ただ近接の戦い方はあまり好きではないのか、覚えたての【炎】属性の魔法を好んで使っていた。

 妹の方が先に魔法を使えるようになったというのは少し不思議な気分だったが、まあいいんじゃなかろうか。僕もすぐに覚えるはず……だし。


 というわけで僕たちが今日来ているのはダンジョンの6階層だった。


 メンバーは僕、アリサ、姫様にバルデスさん、あとはバックパッカーのミルカの5人編成。

 ミルカさんは後ろの方でアリサの支援をしながら適度に戦闘に参加して経験値を稼ぐ。

 バルデスさんは後ろの二人を護衛しながら時折前線にも加わって全体をサポートする役割。


 そして姫様は僕と一緒に前線を切り開く。いくらパーティでの戦いをしているとはいえ、ダンジョンでは囲まれたら最後だ。姫様の実力的にはここで戦ってもまだおつりがくるくらいの実力ではあるものの、ミルカはレベルが足りてないし僕もアリサも自分を守るのにいっぱいいっぱいだ。

 姫様一人で何とかするのも難しい。


 5階から6階に下ってきた階段を背に、ひたすら魔物と戦って経験値を稼ぐ。

 特にミルカさんのスキル【輸送】はレベルが上がるほど一度に転送できるものの質量が多くなる。非常に大事なスキルだし、それに何よりこのスキルで人を運搬できないかとひそかに画策していたりする。

 いやだって、さすがに拠点のある1階からここまで来るのに時間かかりすぎだし。


 というわけで、死にそうな思いをしながら戦っているわけだったが。


「ちょっと姫様? 離れすぎなんですが……」

「そっちはバルデスに任せた!」


 呼びかけに対して笑顔で答える姫様。……そうじゃないんだけどなあ。


 姫様は魔物がたくさんいる方、いる方へと進んでいってしまう。

 ただでさえ戦力が欲しいときにこの動きをされるとしんどい。

 唯一の救いは、姫様が討ち漏らしたりしないおかげで多少なりともこちらへくる魔物が減っている(ように感じる)くらいだろう。


「アリサ、大丈夫?」

「う……うん。ま、まだ、へいきだよっ!」


 無理をして笑顔を作るアリサ。超かわいいが、ちょっと無理をさせすぎているかもしれない。


「バルデスさん。そろそろ引き際ですかね」

「ああ、そうだな」


 バルデスさんはまだ身体的に余裕が残っているようにも見えたが、長い間肉体労働をしているせいで精神的に参っているのかもしれない。

 さすがバルデスさん。


「姫様! そろそろ戻りますよ」

「分かった! じゃああと100体倒したらもどるわ!」

「もっと早く帰ってきてください!」


 遠くの姫様と大声でアホみたいなやり取りを交わす。なんだよ、あと100体って。


 姫様が戻ってくる間、何とか彼女の退路を確保するために戦い続けることになった僕たちは、5階で臨時キャンプをしている間、ずっと愚痴を言っていた。





「そういえば、そろそろこのダンジョンに来て4か月くらいになるわね」

「もうそんなに?」


 姫様が調理師のテリアさんが作ってくれた携帯食を食べながらそう話した。


「じゃあ平均的に見て、そろそろダンジョンが開く頃です」


 バルデスさんが補足説明をしてくれる。

 たしかに、そんな話を聞いたようなことがあるな。


「まあ前回は姫様が外側からぶち壊してくれましたからね」

「そうだったかしら」


 あの時は本当にびっくりした。さすがにダンジョンの入り口を破壊する姫様がこの世にいるとは思わなかった。


 バルデスさんは嬉しそうに火をくべながら話す。


「とうなると、このダンジョン生活も、もうすぐ終わるということですね」

「そうね、いったん家に戻ってゆっくり湯船につかりたいわね」


 それには少しばかり姫様も賛同するところがあったらしく、頷いている。

 ちなみにダンジョン内ではお風呂はいまだ存在しておらず、簡単なシャワー室みたいなのがあるだけだ。ちなみにシャワーではなく魔石に水魔法を発動させているだけだが。


 たしかに、そろそろ湯船にどっぷりと浸かりたい気持ちは分かる。

 お風呂というか、銭湯を次のダンジョン探索の時に作ろうかな。


「そういえば」


 次のダンジョン探索というワードで、ずっと聞きたかったことを思いだした。


「姫様たちは、次のダンジョン探索も参加されますか?」


 この質問は、「今回のダンジョン探索がどうだったか」ということについて聞いているのと同じ質問。

 つまり、もう一度ダンジョン探索をしたい気持ちになったかという質問だった。


 姫様は今回のダンジョン探索で一番の戦力として働いてくれたし、言動は滅茶苦茶でも実際にはかなり頼りになっていた。彼女がいなかったら、今頃必死こいて3階か4階のダンジョンを探索していただろう。

 だから、この質問は今後のダンジョン探索の展望を考えるうえで大事な質問で、できればもう一度来てもらいたいと考えていたのだったが。


 姫様は僕の質問を聞くと、口の端を上げる。


「当たり前ね。ねえ、バルデス?」

「え、当たり前なんですか。自分はもうダンジョンとかこりごりなんですが……」

「大丈夫大丈夫、何度でも連れてきてあげるから」


 にっこりと朗らかな口調で、姫様はそう言い切った。

 バルデスさんは戦慄しているが満更でもない顔、そしてミルカさんは苦笑いをしていた。


 その中でその言葉に一番喜びを示したのは、僕ではなくアリサ。


「ほんとですか!」


 その様子を見て、姫様はすごく驚いていた。


「な、なによ……」


 ちょっと照れ臭いのか語調がしぼむ姫様に対し、アリサは満面の笑みで答える。


「だって、リナさま、とってもかっこよくて、だいすきだから!」


 きゅんっ。ああ、ハート撃ち抜かれましたわ。姫様の。


「な、ななななんなのよ。べつに貴女と何かしたわけじゃないでしょう⁉」


 そう言いながら姫様の相好は崩れっぱなしである。

 しっかりしてください、姫様。


 だが、魔性の魅力を持つアリサはぐいぐいと行く。


「さっきのたたかってるすがたも、とおくからしかみえなかったけどかっこよかったし、たのもしいな、って!」


 純度100パーセントの好意に姫様ももう骨抜きである。

 その証拠に、隣でバルデスさんが大爆笑をしているが気付かずアリサにうっとりとした顔を見せている。


「アリサ……!」


 感動のあまり姫様はアリサに抱きついている。

 それに対しアリサも嬉しそうに腕に力を入れる。

 ちょっと、僕でさえアリサに抱きつくと嫌がられるのに、姫様なにやってんすか。


 というわけで女子同士の友情(姫様は惚れかけていたけど)を見たところで、僕たちはまた談笑に戻っていった。





 最後にステータスの確認。


【加護 坂本龍馬】 レベル 36→42


【スキル】――【型破り】レベル 2

       【運搬】 レベル 3 →4



【加護 レオナルドダヴィンチ】 レベル23 →34


【スキル】――【錬金】 レベル1 →2

       【研究者】レベル2 →3



【フィル】

【能力値】

 ・体力 166 →198

 ・力  142 →165

 ・防御  82 → 99

 ・魔力 172 →222

 ・敏捷 154 →192

 ・運  136 →165

 ・賢さ 252 →301


【魔法】


 今日のメモ――【錬金】のレベルが上がったことによって、新しくミスリルを錬金できるようになった。めちゃくちゃ変換効率悪いけど……。

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