第17話 雷神のアナトリア
ハルカはグリーンのヘルメットを取って放り投げた。彼女の赤いショートヘアがなびく。
地球連邦軍所属の
二体のパワードスーツにナイフ一本で挑むハルカ。戦闘用に特化されたサイボーグだという話だが、果たして勝算はあるのだろうか。客観的には非常に不利だとしか言いようがない。
「付近の電子機器を全てシャットダウンしろ。今から本気を出す」
「了解」
無線で返事をしたのはヴェーダだった。
周囲のモニター類が次々に消灯していく。そしてハルカの全身が眩い雷に包まれた。
「やらせるかよ」
ジャーニーが両腕に抱えた機関銃を発砲する。しかし、銃弾はハルカを包む雷にことごとく弾かれた。そして、ヒョウガの持つ
「なに?」
「構わん、撃ち続けろ!」
続いて両者が発砲するもそこにハルカの姿はなかった。ハルカはいくつもの残像を引きずりながら瞬間的と言ってよい速度でヒョウガの懐へと入り込む。そしてヒョウガの腹部へと雷を帯びた掌底を叩き込む。
「うぎゃ!」
くぐもった悲鳴を上げてヒョウガが後方へと弾き飛ばされる。今度はジャーニーが機関銃を使って殴りつけてきた。ハルカはその機関銃を素手で受け止る。機関銃をたどって雷がジャーニーを包む。
「くそう!」
たまらずに機関銃を手放すジャーニーだが、ハルカはすかさずそのジャーニーの膝へとローキックを叩き込む。眩い閃光が弾け、彼のパワードスーツは左脚部分が破損した。
ヒョウガの右腕からは光輝く剣が伸びてきた。そのままハルカを斬りつける。しかし、斬り裂いたのはハルカの残像であり、ハルカは既にヒョウガの背後へと回り込んでいた。
そして雷をまとったナイフをその背中に叩きつける。
バチバチと火花を散らすナイフがヒョウガの背部動力ユニットに突き刺さる。そしてその背部ユニットは鈍い爆発音を響かせ火を噴いた。
「くそう。背部ユニットを投棄」
光剣を引っ込めたヒョウガ。その背中からランドセルのような形状の動力ユニットが外れて落下する。ジャーニーは右手でそれを拾い、扉の外へと放り投げた。
外で爆発音が響く。
破片がいくつか、中へと飛び込んできた。
「これじゃあただの鎧だぜ。重いったらありゃしねえ」
「我慢しろ。ヒョウガ。プランBだ」
「あいよ」
ジャーニーとヒョウガが揃って右手を開いて前方へと突き出した。
その身に雷をまとったハルカが一歩前に踏み出そうとするのだが、体が凍り付いてしまったかのように動けなくなっていた。
「あ……あ……」
ハルカは話すことすらできなくなったようだ。彼女は全身を帯電させ、それを武器にして戦うサイボーグ。ならば、その能力を封じることも可能だという事か。例えば、強力な磁力線を使った何かを使用して動きを封じたという事なのだろう。
「雷神のアナトリア。貴様は強いぜ」
「だがな、てめえの情報は駄々洩れだ。対策済みなんだよ。へへへ」
「磁力線の網は効くねぇ。情報通りだ」
右手を前に差し出したまま、ジャーニーとヒョウガはゆっくりとハルカに近寄っていく。そして、ジャーニーの機関銃が火を噴く。銃弾はハルカの胸と腹を撃ち抜く。
被弾した箇所から鮮血がほとばしる。そしてハルカの口からも鮮血があふれ出す。しかし、ハルカは倒れることもできずに、全身を痙攣させていた。
「あばよ」
再びヒョウガの右腕から光剣が伸びる。ヒョウガはその光る剣でハルカの心臓を突いた。ハルカは数秒間痙攣していたが活動を停止した。
ジャーニーが右手を下した瞬間に、ハルカは床へと倒れてしまう。
「無駄な抵抗は止めろ」
「両手を上げて出てこい」
ジャーニーが機関銃を乱射しながら恫喝してきた。
彼らの目的はマーズチルドレンのセカンド世代、すなわち藤堂秋人のはずだ。しかし、ここアイオリスの施設は広い。逃げながら抵抗することはできるし、現在凍結されているという機械化歩兵を揃えることができればあの二人組を退けることも可能だろう。
私は藤堂親子に対して首を振り、今は出ていくなとサインを送った。ここは自分が囮になって二人組の注意を引き、藤堂親子を逃がすことが最善だと考えた。
私は銃を置き立ち上がったのだが、藤堂秋人も同じ行動を取った。彼は私を右手で制し話しはじめた。
「貴方たちの目的は僕だと思います。僕は抵抗しません。だから、他の人に酷いことをしないでください」
秋人はそう言って両手を上にあげた。
「いい子だ。ヒョウガ、顔認証で確認しろ」
「あいよ」
ヒョウガがゆっくりと秋人に近づきその顔をカメラで確認する。
「こいつがターゲットのセカンドだ。認識番号MS00202、間違いねえ」
「へっ!」
ヒョウガの報告を聞いたジャーニーが突然発砲した。数発が私の体に命中した。灼熱の激痛とも言うべき痛みが全身を襲う。私はあえなく床へと倒れこんでしまう。
「他の人には何もしないでって言ったのに」
「うるせえよ。この化け物が!」
ゴキリと鈍い音が響く。秋人が殴りつけられた音か。
さらに発砲音が響くのだが、私はそこで意識を失ったようだ。
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