第14話 クエストの定番と言えば薬草採取

 俺は人生初のクエストというやつを受けている。

 内容は「畑を荒らすゴブリンの討伐。報酬は一匹あたり2000エイル」

 水が200エイルだったか? 1杯がどれくらいかにもよるが、他のクエストの相場を見る限りかなり単価は安い。それだけ簡単な内容なのか、大量に湧いて出てくるのか……。今の自分には知る由もない。


 目の前ではウィリアム……じゃなくて、ウィルと呼べと言ってたか。ウィルが意気揚々と前を歩き、その後ろをヨナがピタリとついて歩く。



 少し前――。


「なんだ? 兄ちゃんデカい図体してビビってんのか?」

「ビビるビビらないの話じゃねぇ、危ないって言ってるんだ。」

「薬草なんてチマチマ摘んでられないよ!」

「ゴブリンなんて俺たちには早すぎる!」


 話は平行線のままだった。


 丸い木製のテーブルを囲い俺とウィルとヨナが座る。椅子に座ると、より2人の背の低さが顕著に表れる。ヨナは150センチくらいのウィルよりもさらに小さい。こんなのでクエストがこなせるのか心配になる。


 身体が出来上がっていない年齢もそうだが、もっと気になるのはふたりの恰好だ。

 綿のシャツと綿のパンツ。靴は何かの動物の皮だろうか。何の装飾も模様もない無地のどこにでもありそうな服だ。とても冒険者には見えない。


 さっき話しかけた奴らは最低限の防具は身に付けていた。重い武器を振るための筋肉もついていた。だがこいつらはどうだ? どう見ても子どもだ。ニートの俺ですらやめさせると判断するほどに危険だった。


「だから言っただろ! 俺だってゴブリンくらい倒したことがあるんだぜ! あんなもん余裕だって!」

「ゴブリンってあのゴブリンか?」

「他に何がいるんだよ?」

「えー……っと、なんか小さくて、人みたいに二足歩行して、目がギョロっとしてて、集団で人を襲って、女を巣に連れ帰るあのゴブリンか?」

「なんだよ、兄ちゃんよく知ってるじゃん!」


 いや、まぁお前らよりも良く知ってるだろうよ。ゴブリンがメジャーな魔物ということも、雑魚だということも。


 だが、出てくるゲームやラノベによっては、弱かったり強かったり、小さかったり大きかったり扱いが様々だ。

 ましてや、その弱いゴブリンにさえ負けそうなこのパーティーには危険すぎるクエストだ。


「ウィル、なんでそこまでゴブリンにこだわる? もっと強くなってからでもいいんじゃないのか?」


 このまま話が進まないと感じ、まずは相手の主張を聞いてみることにした。


 さっきまで軽い口調で話していたウィルが真剣な表情に変わる。


「俺は……、冒険者になりたいんだ」

「ん? どういうことだ? もう登録はしてあるんだろ?」


 斜め上の回答が返ってきたが、とりあえず続きを聞いてみる。


「兄ちゃんは何も知らないのか? ここではC級クエストを1人でこなしてようやく一人前の冒険者だ。ゴブリンなんてその下のD級。こんなとこでモタモタしてられないんだ」


 C級、D級とは、難易度のことだ。上から順にS級、A級、B級、C級、D級となっており、もちろんS級のほうが難易度も報酬も高い。ちなみに薬草採取はD級以下だ。難易度をつけるまでもない簡単なクエストだということだ。


 とか何とか受付嬢が言っていたのを思い出す。


“一人前の冒険者”、つまりウィルは半人前以下。その外見も相まって舐められた態度を取られたり、散々馬鹿にされてきたのだろう。


 ウィルはグッと拳を握りしめる。


「でもそんなところに兄ちゃんが現れたんだ! 兄ちゃん実は物凄く強いんだろ? そんなピカピカな槍見たことないよ! 服装はちょっとダサいけど」


 こいつはいつも一言多い。


「そこまで冒険者になりたいのか?」

「いや? 別に。ただこれしか生きていく方法がないだけだよ」

「ん? 冒険者と言えば英雄とか憧れみたいなもんじゃないのか?」


 ウィルの言い方が引っかかる。


「それは極一部のS級とか、有名な人たちだけだよ。それ以外は俺たちみたいな勉強も仕事もできない奴らが生きてくために仕方なくやってるんだよ。まぁ中には狩るのが大好きっていうヤバい奴もいるけどね」


 驚いた。

 この世界では冒険者は生きていくための最後の手段だという。俺が知っている冒険者とは扱いも意味合いも違う。行き場を無くした人、学も技術もなく、仕方なく冒険者をやり、その中でも上級クエストをこなせなければ更に酷い視線を向けられる。


 俺と会う前からずっとこういった扱いを受けてきたのだろう。

 ウィルとヨナ、こんな小さい子どもが2人きりで……。それ以上は訳アリだろう、とても聞く気になれなかった。


「クソッ、わかったよ。やるよゴブリン討伐」

「ほんとか兄ちゃん! ありがとう!」


 ヨナと手を取りあって喜ぶウィル。ヨナも少しだが笑っているように見えた。

 というか、この間ヨナは一言も喋ってないが大丈夫か? こんなので連携は取れるのだろうか……。


「最後にもう一回確認しておくが、本当にゴブリンは弱いんだろうな?」

「当たり前だろ? ゴブリンなんて雑魚中の雑魚だぜ? 本当に兄ちゃんは心配症だなぁ!」

「本当か? 信じるぞ?」


 確認すればするほどフラグが立つように感じるのは何故だろう?


「ゴブリンなんて、小さくて弱いし、一撃で倒せるし、冒険者になるための練習みたいなもんだぜ!」

「ウィル、理由は言えないがこれ以上喋ったらキレるからな?」


 子どもに向かって殴るとはとても言えなかったが、自分でフラグを立てていくスタイルなのは変わらないらしい。


 そして3人でゴブリン討伐の為に、森に入っていったのだった。




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