第13話 ギルドでカツアゲされた話
急に背後から声をかけられ振り向くと、そこには少年が立っていた。
身長150センチくらい、あどけない顔、まだ声変わりしていない高い声。
明らかに年下だ。
ここにいるという事は冒険者だと思うが……、身なりも腰に付けている剣も上質なものには見えない。人は見かけによらないと言うが……。
「兄ちゃん! 聞こえてるだろ? さっきの見てたぜ! 金に困ってるなら貸してやるよ!」
この世界はどうかはわからないが、少なくとも日本ではそんな旨い話は聞いたことがない。
「……条件は?」
「俺たちとパーティーを組んでくれよ!」
「俺たち?」
「そうだ! 俺がウィリアム! そんで向こうで隠れてる小さいのがヨナだ!」
「向こう?」
指差された方向を見ると、机の陰に隠れている人影を発見した。
お前もたいがい小さいだろうと思ったがさらに小柄な女の子だ。目が合ったかと思ったら完全に陰に隠れてしまった。ニートの俺からでも分かる人見知りっぷりだ。
「他には誰かいるのか?」
「いや! 俺たちだけだぜ!」
「少年。悪いことは言わん、やめとけ。」
肩をポンと叩き、そう言って席を立とうとした。
「は? なんでだよ! お前誰ともパーティー組んでもらえそうにないから仕方なく声をかけてやったんだぜ!」
痛い所を突かれたが、それはウィリアムも同じだろう。金を貸してまでパーティーを組んでくれ、という事はつまりそういう事だろう。
「じゃあお前は誰かとクエストを受けたことがあるのか?」
「いいや! 今日が歴史に残るウィリアム様の冒険者デビューの日だぜ!」
「……」
あ、これは関わっちゃダメなヤツだ。
またしてもオタクの直感が告げる。
子どものみのパーティー・初心者・経験無し。
序盤で死ぬパターンだ。
「お前正気か? 無茶にもほどがある。せめて熟練者に引率を頼むべきだろ」
「お前バカか? 俺たちみたいな子どもをパーティーに入れても足手纏いなだけだろ?」
よくわかってるじゃねえか。年上を敬う心は知らないようだが。
「自分で分かってるんだろ。もっと実力をつけてからにしろ」
「うるせぇ! 俺だって一人でゴブリンを倒したことがあるんだ! もう立派な冒険者だ!」
自分でフラグを立てていくスタイルらしい。
「それに……俺には冒険者になってやらなきゃならないことがあるんだ!実は……」
「いや、話さなくて大丈夫。まぁ地道に頑張れよ! それじゃ!」
変なことに巻き込まれる前に早々に話を切り上げて席を立った。そもそもガキ二人とニートでクエストをこなせる訳がない。時間の無駄だ。
しかし、あのガキの言うことも一理ある。俺みたいな得体の知れない奴を仲間に入れてくれる聖人みたいなやつがいるだろうか……。
このギルド内を見渡せる場所に座りなおす。ギルドには徐々に冒険者が集まり出していた。
この村の雰囲気とは打って変わって、ギルド内に活気が溢れ出す。手続きをする者、食事をとる者、クエストを物色する者、武器や装備を入念に手入れする者……。ほとんどが村の外から来た者だろう。
ボーっと周囲を観察しながら条件に合う人物を探す。
条件1、ベテランであること
条件2、初心者向けのクエストを受注しそうなやつであること
条件3、俺を無償で仲間に入れてくれること
……果たしているのか? 俺なら間違いなく邪魔だから仲間に入れたくない。
しかし、動かないと始まらない。早速交渉開始だ。
1人目は俺より少し年上っぽい男2人と女1人の3人組。穏やかな雰囲気で笑顔で談笑している。これは話しかけやすそうだ。
「あのーすみません、一緒にクエスト受けてくれる人を探してて、パーティーに入れてほしいんですけど……」
「うるさい邪魔」
穏やかな表情から一変、無駄を極限まで省いた一言で一蹴された。
あれだ、自分たちの輪の中に陰キャは入れたくない陽キャグループみたいなタイプだ。
1人目は30秒かからず撃沈した。
2人目はいかにもパワータイプと言った風貌の上半身裸のマッチョなオッサン。
「あのーすみません、一緒にクエスト受けてくれる人を探してて、パーティーに入れてほしいんですけど……」
「なんだ坊主、新入りか?」
「あ、まぁそんな感じです」
「お前は何ができるんだ? 槍を持ってるってことは前衛職か?」
「あ……、いやこれはただの飾りです」
「ん? じゃあ何ができるんだ?」
「えーっと……、遠くのものが良く見えます」
「坊主……お前逆の立場だったらそんなやつパーティーに入れたいと思うか?」
「いや……思わないっすね」
「そうだろ?」
「あ……、なんかすみませんでした」
2人目は面接のようなことをされた挙句、謝ってしまった。就活生が「弊社に何ができますか?」と圧迫面接され存在を否定された。そんな気分だった。
早くも心が折れそうだ。
「おい、兄ちゃん! 困ってるのか? 俺たちのパーティーに入れてやろうか?」
声をかけてきたのは2人組の男たちだ。
「本当にいいのか! めっちゃ助かる!」
聖人はここにいた。見た目は世紀末から来たようなやつらだが。派手なピアスに顔にはタトゥーのような模様が入っている。派手な髪に流行の斜め上を行くハイセンスなファッション。いやいや、そういう民族なのかもしれないし、外見で判断はよくない。
「俺たちも丁仲間を探してたんだ! 外で残りの仲間が待ってるからよ。紹介するからついて来いよ!」
「わかった! すぐ行く!」
ウキウキで後を追い、ギルドの建物の裏に行った。
俺はカツアゲされた。
「オメェ、あんまり見ねぇ顔だな? 新入りか? うちのとこのボスに挨拶はどうしたよ?」
「なんだそのダセェ服は?」
「とりあえず持ってる金全部寄越せ! ほらジャンプしてみろジャンプ!」
聖人などではなく見た目通りのチンピラだった。
ギルドでもお約束は発動した。
うわーマジかよー面倒くせー。
魂は遠いどこかへ飛んで行っていた。
こんな朝からカツアゲされるとは思いもよらなかった。どうしたものか……。
4対1で周りを囲まれている。が、体の線は細くたいして鍛えてないだろう。さっきのマッチョのオッサンとは比較にもならない。装備もろくに手入れしてなさそうだ。怖そうな見た目と人数でイキっているただの雑魚だろう。
だが、ここで面倒を起こしてこのギルドを出禁にされるのは困る。かと言って手持ちがないのを知ってボコボコにされるのも困る。まぁこいつらが強いとは全く思えないが。
「オメェいい
「あぁ……これか? ホラよ」
槍を目の前に投げてやった。
「へへ、いい子じゃねぇか」
世紀末な人は地面の槍を拾おうと
その顔めがけて思いっ切り蹴り上げ――
「助けてー! 殺されるー!」
ん? 俺じゃないぞ。
この声……さっきの子どもか? ウィリアムだっけ? こんなに神懸かり的なタイミングで助けがくるわけがない。どこかで見てやがるな。
「あ? なんだ!?」
「げっ! こいつ仲間を呼びやがった!」
大通りのほうがザワつき始め、野次馬が集まりだす。それを見て大事になるのを恐れたのか、怖気づいたようだ。
「畜生! オメェらここはズラかるぞ!」
「てめぇ! 覚えてろよ!」
まさか、リアルで「覚えてろよ!」を聞くことになるとは。
そして俺は1人置いてけぼりにされた。
世紀末な人たちが去ったあとに、ギルドに戻ろうとするとウィリアムがニヤニヤしながら待っていた。
「よぉ兄ちゃん! 危ないところだったな! もう少しで死んでたな!」
こいつ……。わざと大袈裟に言いやがって。
俺が断られ続けてたのもどこかで隠れて見てやがったな。
「別に、あんなもん俺1人で何とでもなったのに余計な事しやがって」
まぁあのまま槍を拾おうとした男の顔を蹴り上げてたら、そのまま走って逃げるプランしか用意してなかったわけだが。
「まぁ助けられたことには変わりないか……。お前とパーティーを組めばいいんだろ?」
「さすが兄ちゃん! 話が早いな!」
どうせ、さっきの助けた恩を~とか言って引き合いに出してきただろう。
やれやれ、当初の条件を1つも満たしてねぇじゃねぇか。
すでに先行きが不安だった。
「それで、どのクエストを受けるんだ?」
「もちろん! ウィリアム様の冒険者デビューに相応しい、このタイラントドラゴン討伐だ!」
「よし、てめぇふざけんな。ちょっと裏に来い」
ウィリアムは首元を引きずられ再び2人はギルドの建物裏に消えていった。
※※※※※※※※※※※
作家様はご存知かと思いますが、執筆するうえでフォロー、レビュー、応援などは非常に励みになります。
よろしければ意見やコメント、ご指摘、アドバイスなどお待ちしております。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます