第125話 新魔王城 最上階 その四

◆新魔王城 六階 城内施設管制室


 かつて魔導将軍を自称していたボーボーノがおどおどした様子で六階の城内施設管制室に入ってくる。

 掌よりも一回りほど大きな薄い石板を手にしている。魔法掲示板マジグラムの石板だ。

 五階にいるビルダからのメッセージが石板には表示されている。その指示に従ってボーボーノはこの部屋にやってきた。


 轟音が響いて床が揺れる。連続的な爆発音が空気を打つ。

 大広間の方で勇者ルンとエイダが戦っている音だ。

 ボーボーノは震えあがる。

 魔導将軍などと名乗ってはいたものの、正直言って大した魔法は使えない。こすっからい詐欺師稼業の方がよほど得意だ。

 あんな化け物じみた戦いにはとてもついていけない。


 裏道人生を歩んできたボーボーノがゴッドワルド男爵と出会い、妙に馬が合ってここの町を支配するまでに至った。その後はヴァリア市に手を出そうとしたのが運の尽き、散々な状況だが、それでも男爵との悪だくみは人生で一番楽しいひと時だった。

 男爵は捕縛されてしまったがなんとか助け出したい。今度は南の方にでも行って、また男爵と一山当てるのだ。


 そのためにボーボーノは勇気を振り絞ってここにいる。

 この六階を封鎖しているのはエイダだ。裏切って五階に階段を降ろしたことがばれればどんな目に会わされることか。

 しかし成功すれば男爵を解放してもらえる。やるしかない。


 城内施設管制室では、狭い部屋に所せましと投影映像が浮かび上がっている。

 机には操作用の複雑な魔法陣が浮かび上がっており、紋様が回ったり明滅したりとせわしない。

 ボーボーノは情けない顔になる。

 魔法陣だなんて古代魔法、全然意味が分からない。


 しかしビルダはそれを見越していたらしく、石板には魔法陣の見方と操作方法が大量に表示され始める。その面倒さにボーボーノはうめく。


 うんざりしたボーボーノは投影映像をぼおっと見やった。

 そこにはルンとエイダが激しく戦う様、そしてエイダのデータが表示されている。

 少しは魔法をかじってきたボーボーノだ、データの意味はそれなりには分かった。

「レベル百? なんですかこの数値は。べらぼうに高すぎるでげす」


 別の投影映像にはルンのデータが表示されている。こちらの方がはるかに詳細なデータだ。温度、光、電磁波、重力、天体の動き、なんで計測しているのか意味不明な数値も並んでいる。

「ほほう、ずいぶんと細かくルンを調べてるんでげすね。攻略でやんすか」


 投影映像の中には魔力の流れを捉えて表示しているものもある。

 ボーボーノは訝しんだ。鑑定魔法の類がエイダを捉えている。魔法を使っているのはルンのようだ。

「勇者ルンの魔法でげすか。あちらさんも攻略で。しっかしエイダさんもがんばってるようでげすが、勇者相手では大人と子どもみたいなもんでしょうに、エイダさんをわざわざ鑑定する必要なんてあるんでげすかね。ん?」


 石板に作業を急かすメッセージが次々と送りつけられているのに気付いたボーボーノは慌てて作業を開始した。

「なになに、まず階段設備に魔力を回して…… おかしいでやんすよ、この階の魔力が全然足りないでげす。どこに回ってるんでやんすかね…… いや、だから魔力が無いんでげすよ、え、自分の魔力を振り絞ってでもなんとかしろって? 悪魔でやんす」



◆新魔王城 六階 大広間


 エイダは両手で細長い武器を構える。

 魔法使いが使う杖を六本まとめたような武器だった。

 六本の細長い筒が六角形に束ねられ、先端は開口している。手元の方は持ち手が横に突き出しており、左手でそこを握っている。右手は筒の真ん中あたりを支えている。

 持ち手の部分には引き金があった。


「ヘクスカノーネ完成、参ります!」

 エイダはヘクスカノーネと呼んだ筒の狙いをルンにつける。


「ヘクスカノーネ、精錬オリハルコニウム弾、電磁加速モード」

 筒に沿って魔法陣が生じる。魔法陣は分かれて連なっていき、まるで筒のように光り輝く。

 六階に蓄積されていた膨大な魔力が魔法陣に注がれる。


「魔力充填完了、地磁気測定、軸合わせ修正、オリハルコニウム弾内部魔法陣生成…… 発射!」

 魔法陣が手前から連続的に強力な電磁波を発生、電磁誘導によって筒内の精錬オリハルコニウム弾を加速、筒先端から射出されたオリハルコニウム弾はその後方に魔法陣を生成してさらに電磁加速。

 超音速の衝撃波を伴ってオリハルコニウム弾は飛翔、その速度は一瞬で音速の十倍を超えた。

 強力な射撃の反動でエイダの身体は数メルも後ずさる。


 瞬間的に危険を察知したルンは龍の腕を重ねて身体を守る。

 オリハルコニウム弾の衝撃によって龍の腕は爆発するかのように消失。

 龍の腕を粉砕しながらオリハルコニウム弾は直進、生体甲冑をミンチに変えて貫通し、ルンの身体に当たった瞬間に物理法則操作能力によって反射された。壁に直撃、めり込んで停止する。


「やるじゃない。なんて言うんだっけ、そういう武器。ジュウ?」

 ルンは面白がっている。

「腕で減速できてなかったら、反射が間に合わなかったかもねえ」


 集中しているエイダは返事することなく次弾の狙いを付ける。

「データとれました。次は八十パーセントでいきます」


 さらにオリハルコニウム弾を発射。

 龍の腕をもぎ取りながら進み、生体甲冑の右肩装甲を爆散させ、そこでまた弾を反射された。天井に弾がめり込む。


「まだまだいきます! 百パーセント! 連射!」

 エイダは残りの四弾を連射。

 左肩、頭部、右足、腹部、ルンの装甲を半ば以上はぎ取る。

 だが弾は一発たりともルン自身には届かなかった。壁や天井、床に食い込むばかりだ。


「これでおしまい? もっと面白い芸を見せて……」

 ルンはそこまで言いかけて、様子が変わった。

 目から光が失せる。

 虚ろな声でつぶやく。

「対象を鑑定、異端者Eの可能性あり。能力評価のために殲滅レベルでの攻撃を行え。拒否は許されない……」


 ルンの背中に新たな龍の腕が生じる。猛烈な勢いで増えていく。龍の腕は大広間の両端までを埋め尽くす。そのすべてが牙剣を伸ばす。どこにも隙間がない牙剣の大壁ができる。いくら技量があろうとも避けようはない。


「これまでのは遊びだったんですね……!」

 エイダの額を冷や汗が伝う。

 ヘクスカノーネは弾切れして煙を上げている。


「殲滅」

 牙剣の大壁がエイダへと迫る。

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